ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

女4人

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人熱(ひといきれ)と鎧が鳴る金属音や木音。
足音が増えていく。
地響きがなり、本当に地面が揺れてる。
交差点や踏切で、通りかかる大型車や電車の振動を地震と錯覚して驚くアレだ。

私はわかっていても、何度経験しても、一向に慣れない。
ビクッとしてしまう。

そして。
馬のいななき。
男達の喚声。

その全てが、刻一刻と増えていくのがわかる。
近づいてくるのがわかる。

「ひぅ」

フクロウくんが玉ちゃんのんびり肩に降りて来た。

「うん。わかった。でも今は良いや。矢がいっぱい飛んで来たら、みんな傷ついちゃうよね。」
「ひぅ」
「うん。フクロウくんは神様の御使いだから、玉を護って下さいね。」
「ひぅ」

玉ちゃんは冷静だ。
聖域で暮らすフクロウ君は、荼枳尼天様の眷属だと、あの人に聞いた事がある。
同時にたぬちゃんも、テンの親子もそうだって。

お母さんの所で畑を耕す事が増えた事もあって聖域に行く事は、前よりも減ったけれど、私が行く時でもみんな歓迎してくれる。
嬉しいよ。

沢山集まってくれたフクロウ達は、多分普通の野生のフクロウなんだろう。
それを玉ちゃんは言っているんだ。

何故傷付くかって。
それは、これだよ。

間も無くして、空から大量の矢が降り出してくる。
その中には、火がついた矢が混じり、小屋に突き刺さる。

小屋は間も無く火が回るだろう。
そうすれば、私達が身を隠すものが無くなる。

その為に、私はキクヱさんから、これを預かっている。

武甕槌の加護のついた弓の弦と、薙刀だ。
見た所、玉ちゃんの御神刀にも、薙刀と同じ加護がかけられている。

すなわち、「かまいたち」。
旋風が巻き起こした空気の流れに、一瞬一時出来る「真空」が、物を切り裂く現象だ。


私と玉ちゃんは、洞窟の入り口に並んで陣取り、私が一歩前に立ち、弓を引くフォーメーションをとった。
そう。
私は2年前にこの経験をしたから、弓道を習った。
薙刀は3年前からだ。
たまたまにご縁があって、落ち着きの無い私の、女成分をあげる目的もあった。
薙刀は女性の武道って印象があったから。

やがて目の前に小屋が燃え上がる。
上空からは更に密度を増やした矢の雨が降り始める。

私は弦を引き絞る。

「行っけえぇぇぇぇ!」

私の矢は上空に打ち上がると、細かく数千に鏃が分かれて、私達に当たる軌道を取る矢を次々と撃ち落とす。

「玉ちゃん!」
「はい!」

背後で私と玉ちゃんが、薙刀と御神刀を振る。
轟音と共に燃える小屋が、攻め寄せる「敵」に飛んでいく。

「おまけ!」

音だけ花火を、燃える小屋に打ち込むと、駆け寄る先陣争いの中で爆発した。
花火の火薬だけなので、殺傷能力はない。
…火傷くらいするかも。

ただ、この時代の人間が初めて体験する爆音と爆発だ。
それだけで、武装した男達の足が止まる。
回れ右して逃げ出す奴も多い。
何よりも馬が、騎馬がパニックに陥り、飼い主を振り落として逃げて行く。

更に背後の私と玉ちゃんが刃を振るうと、およそ幅200メートルに及ぶ先陣の肌を切り裂く。

2度3度と刃を振るうたび、振って来る矢がはっきりと減るのがわかる。
「敵」の弓の弦を、どんどん遠距離砲で切断しているのだろう。

私は「敵」の上空に、矢を放つ。
矢には火のついた爆竹が付いていて、神中に満遍なく爆発が降り注いでいる。

更には、壁を伝って立ち上がったお母さんが、恐々と、それでも着実にロケット花火を打ち込んでいた。

とはいえ、おそらく「敵」の数は、万単位。
なんて書いてあったっけなぁ。
あの本に。


それでも敵は押し寄せる。
だって、音だけの苔威だから。
腰を抜かした武者を避けて、後続が前面に出てくる。
果てしない。

私と玉ちゃんのかまいたちは、多少の傷を負わせることは出来るだろうけど、それだけの事だ。


「どれだけいるのよ。」
「少なくとも万単位。」

私が私に文句いや愚痴を溢して来た。
実際、ここから見える頭の数は、私がコンサートなどで見かける頭の数と良い勝負だ。

そして。
私達は誰も殺したくない。
敵は私達をどうしたいのかはわからないけど、とにかく女が4人って事だけで私達的にロクでもない事にしかならないだろう。


「ねぇ私?いつまで続けるの?」
「知らない、ここから先記憶ないもん。」

そう、私が知る私は、玉ちゃんがここに居る事。
私達が耐える事。
ここまでだ。
それだけだ。

「役立たずね私。」
「多分わざとよ私。」

玉ちゃんとお母さんは、後ろに下がらせた。
玉ちゃんと、怪我をしているお母さんに無茶はさせたくない。
疲れきらせちゃいけない。

「なんでこの先を私は知らないの?」
私が薙刀を振るう。
敵の先陣が近づいてきたので、かまいたちから暴風に切り替えた様だ。

武甕槌特製薙刀は、空気を切る事が出来る。
つまり、空気を操る事が出来る。
渦を作れば真空を産むし、ただ振れば風が巻き起こる。

イメージとして、ビル風が数センチの幅で撃ち込まれていると考えれば良い。
突風で腹をブン殴るもんだ。
安っぽい胴程度じゃ衝撃を吸収し切れないので、一斉にしゃがみ込む。

そこに私が、クサキを塗った矢を打ち込む。
猛烈な悪臭に敵は転げ回るが、それでも次の陣が先陣を乗り越えて迫る。

「こりゃ無理かなぁ。」
私が薙刀を振り回しながら、初めて弱音を吐いた。
体感時間でも、既に1時間は経過している。
その間、私達はひたすら矢を放ち、薙刀を振り回し続けた。
「ちょっと疲れて来た。ねぇ、どうしてこの先がわからないの?私は体験したんでしょ。」
「多分ね。」

私が次に矢で打ち込んだのは、シュールストレミング。
言わずもがな、世界で一番臭い缶詰だ。
室内で缶を開けるの厳禁とされる、ニシンの缶詰だ。
身体についただけで2~3日匂いが落ちないと言われる食べ物を頭から被って、敵達はまたパニックになったのが見えた。


「私がわからないのは、私がここを耐えられるかどうか、まだわからないから。」
「耐えられなくなったらどうするの。」
「ます私を元の時代に返す。それから玉ちゃんとお母さんを逃す。」
「どうやって?」
「忘れたの?私も浅葱の女よ。一時期的、今日だけにしても、浅葱の力が使えるの。」

「佳奈さぁん。」
それを聞いた玉ちゃんが飛んできた。
私の覚悟を読み取ったのだろう。

「駄目だよ玉ちゃん。矢の攻撃はなくなったけど、まだ敵は1人も死んでないんだから。」

そう。
私達はまだ誰も殺していない。
令和の世から来た私と私が、治承の世の人を殺してはいけない。
本来死ぬべきでない人が死んだら、そこにパラドックスが発生してしまう。

それを無かった事にするのが、浅葱家の氏神、一言主様。
そうして一言主様が自らの身に溜めた因縁をあの人と玉ちゃんが祓ってくれた。

だから、氏神様が元気だから、お母さんの住む家が、ちびの住む家が、あんなに豊かになっている。
それを、浅葱の娘が、浅葱の嫁が壊しちゃいけない。
何が何だかわからないけど、多分私の浅葱の力が底上げされているであろう今日の私はわかる。

私は誰1人殺さずにこの場を治める。
それが出来ない時は、私が全責任を負えばいいだけだ。

私が1人、死ねばいいだけだ。

………

「上総介広常。」
「おう、良く知ってるな。」

川に浸かって、向う岸の急斜面に生える筍を掘っていたあの人に頼まれて、私は竹籠を担いで来た。
今日のお供も、ちびとぽんちゃん。
お目当てはあれだ。
2匹して上を見上げている。

「はいはい、ちょっと待ってね。」

杖代わりに着いてきた高枝切り鋏をひょいと伸ばして採ったのは、アケビ。
ぽんちゃんは川が苦手なんだけど、アケビは大好きなので、あの人なりお母さんなりが川に出る時は、必ずついてきて、川岸にちょこんとお座りしてる。
可愛い。
アケビが食べられるとわかったちびは、川に入って、オイナワを追い回して遊んでいる。

「この仔達は人慣れしてるんだから、いじめちゃ駄目だぞ。」
「わん!」

まったく。
返事だけは良いんだから。

「吾妻鏡を読めって言われてたでしょ。原書で読み終えるの大変だった。」
「…抄訳本が子供向けにもあったでしょ。」
「最初は抄訳本を読んだけど、歴史の教科書と大差なかったから。」
「だからって原書に行くかね?相変わらず君の地頭の良さは何処から来るんだ?」
「普通に遺伝じゃないかな?」

お兄ちゃんは警察庁のキャリアだし、両親も獨協大卒。馬鹿では無いだろう。
家族の学歴で、一番低いのは私だ。
でも私は結婚を前提に家政科のある大学選びをしただけなので、頑張れば地元国大くらいならなんとかなっただろう。

「便利だな、遺伝。」
収穫した細竹を籠に詰めながら、あの人が関心してる。

遺伝で思い出した。
あの日は、玉ちゃんとお母さんがお料理をしていて、私は畑仕事。あの人はお母さんに頼まれて筍を掘りに来た、僅かな一時だった。

あの人と私と、ちびとぽんちゃんで食べたアケビ、美味しかったなぁ。

ねぇ。
遺伝ってなんだろうね。
あなたは浅葱の力で色々な事に巻き起こまれてる。
私と玉ちゃんは、半ば呆れながらついて行っているけど。

あなたはいつも、こんな大きな力を背負っていたんだ。
ご両親を早くに亡くされても、妹さんを護り、玉ちゃんを護り、私を護り、お母さんを護っている。

私にはこんな力使いきれないよ。
私は私を今護り切れるかもわからないもん。

でも。
出来れば。

私は、私とあなたの遺伝子を、私とあなたの子に伝えたいな……。

………

その時だった。
敵のはるか背後から土煙が上がる。

敵が慌てて左右に別れていく。
その真ん中を、牛と馬が猛烈な速度で突っ込んで来た。

弓矢の使えない敵勢は、牛馬の速度に弾き飛ばされる様に抵抗が出来ない。

そして。

敵の馬が飼い主を振り落として、その牛馬の海に合流した。

「モーちゃん?神馬様?」
私にしがみついていた玉ちゃんが、不思議そうに牛馬の突進を見る。
それを見て、お母さんも洞窟から出てきた。

「この仔達はうちの牧場の仔達?」
他の牛馬を見て、お母さんが混乱している。
玉ちゃんが生まれる前までに経営していたという牧場に居た仔らしい。
名前を呼ばれて牛や馬が、嬉しそうにお母さんに懐いている。

「でも、お前は流行り病で死んだ筈なのに?」

んもう。

そんな事は関係ない。
お母さんにまた逢えて嬉しい。

死んだ筈の牛は、尻尾をぶるんぶるん振って、お母さんにその長い顔を優しく押し付けている。

「モーちゃんは危ないから来ちゃ駄目でしょ。」
もう。
モーちゃんは、いつものモーちゃんだ。
私でも知ってるその斑は、毎日見ている玉ちゃんには間違えようが無い物なのだろう。

ひひん。

あの人と玉ちゃんが所用で、いつかの時代の鹿島神宮に行った時に、「お土産」としてお母さんの所に来たという神馬さん。

何やら色々やらかして居るみたいだけど、お母さんの水晶で一番あの人が信頼しているお馬さん。

お母さんやモーちゃん。ヤギ夫婦は必ず神馬さんの目の届く範囲にいるって、玉ちゃんが言ってたっけ。

その神馬さんに、鼻面で腰を突かれた。

「え?奥に行けって?」 
「ひん」

神馬さんが頷いたよ。
この神馬さんは頭が良い。
私達の意思を汲み取るだけでなく、限られた方法を使って、ただの人間の私にもわかる様に意思を表明してくれる。

「ちょ、ちょっと待って。まだ戦場がぁ。」
「ひん」

神馬さんに促されて外を見ると。
大量の牛馬が私達を護って、敵に頭を向けていた。
馬達の中には、鞍を付けたものも多い。
つまり、敵の騎馬が丸々私達の仲間についた。
 
これがオチかよ。

この為に、私達はこの時間踏ん張って来たのか?

でもね。
生きて帰れそうだよ。
五体満足で生きて帰らないと、私達は多分、この仔達に叱られるからね。

私は私の手を握り、玉ちゃんはお母さんの手を握り、大した深さもなかった洞窟に潜っていく。

一瞬、エレベーターの動き出す時の様な不快感を感じた私達が見たものは。

「わふわふ」
「くぅ」
「くぅ」
「くぅ」

神官服を着て、たぬちゃんとテンの親子塗れになったまま、いつもの緋毛氈に胡座をかくあの人だった。






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