墓守の仕事

ゆきつき

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1章 勇者編

1話 墓守

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「くそ親父め」

 地図ぐらい、ちゃんとしたのくれよ。これじゃあ分かるわけないじゃないか。
 なんだよ、『ここ、家。まっすぐいけば、町』て。ガキの落書きかよ。ひょろっひょろの線1本引いて。どう考えても迷子になるだろ。
 せめて、目印てきななにかを書き記しておけよ。それすらないから、そもそもまっすぐ進めてるかどうかさえわからないんだから。

「まあ、それも些細な問題か」

 ようやくなにかが見えたから、愚痴る余裕もできたぐらいだ。水に流すとかはありえないが、今はそんな問題は気にしなくて良いだろう。もう、地図、いらない。

「出発してからどれくらい経ったんだろ」

 1週間は経った、気がする。いや待てよ?荷物が無くなって2日経ってるから、10日?まあ、そんなのはどうでもいい。

「さてさて。常識って、どうやって学ぶんだ?」

 こんな無理難題を出されて、キチガイみたいな地図を渡されて。やるべき事がふわっとしすぎだ。
 なんだよ、世間の常識を知れって。そもそも常識なんて、一人一人違うだろ。価値観の差なんだし。

「す、すみません。あの街に行くのですか?」
「ん?誰だお前」

 女の人が話しかけてきた。
 いきなりだったせいでビックリしたが、どうも俺の言葉遣いが悪かったらしく、相手の気分を害してしまったようだ。

「おっと、ごめんごめん。厳しい言い方になっちまった。」
「いえ、こちらこそ急に話しかけてすみません」
「俺はグレイブ。訳あって、いや理由とかはないけどあの街?には行きたい。なにをするってないけど」
「じゃあ、私も一緒していいですか?」
「いいけど、別に1人でもよくない?」

 純粋な疑問。わざわざ他人と一緒に行動する意味って、あるの?

「それは、」
「ま、なんでもいいや。俺も久しく会話とかしてなかったし。いやー。話し相手がいると、いいな。旅が楽しくなる」

 なんと言っても、時間を忘れられるのがいい。






 街の入口?の近くに着いた。
 辺りは畑、畑、畑。所々に民家と木を組み立てて作った柵。基本見渡せば畑がある。けど人もいる。それこそ、集落を形成できそうな程度には。
 そしてこの畑の奥に、でっかい石壁が見える。ミカさんによると、あの壁の向こう側に街があるのだとか。
 あ、ミカさんってのは、一緒に街を目指してる女の人だ。そこそこ暑いのに、厚着しててあまり特徴がわかんないけど、話した感じ、いい人そうだ。

「にしても、なんだこの列。先頭が全然見えないじゃないか」
「なんでしょうね?普段ならもっとスムーズに入れるはずなのに」
「なんだ、知らんのか君たち」

 前にいる人が声をかけてきた。

「どうも、この辺りで盗賊が出たらしい。でも顔は割れてるらしいから、検査してるらしいの。んで、この列ができてるんだわ。おいらは別に急ぎの用事じゃないからいいけど、こんなに待たされるとこまっちゃう」
「へー。そうなのか。どうもありがと、教えてくれて」
「へっ、いいってことよ」

 うーん。理由はわかったけど、どれくらい待てばいいんだ?俺も急ぎではないけど、待たされるのは嫌いだ。あとじっとしてるのも苦手だ。

「ところでお聞きしたかったんですけど」
「ん?俺の答えれることなんて、俺の事だけだけど?」
「いや、それこそグレイブさんの事ですけど。そこそこ遠くの場所から来たみたいですけど、荷物とか、持ってないんです?」
「そーそー。2日前、3日前?どっちでもいいけど、俺がぐっすり寝てたら荷物が無くなってたんだわ」
「え!?」
「でも荷物にはろくに切れないナイフと、食いもんの残骸だけだったから、本当にお荷物だったわけよ。だから回収してくれて助かってんだよ。」
「いやでも、盗まれたんですよね?」
「まあ、そうとも、言える?あの4人組には感謝感謝」
「おいそれって、今手配中の盗賊じゃ……」
「へえ。」
「へえ、って!もっと反応あるだろ」

 いやだって、こっちは被害ないし。本当に邪魔だった荷物を持っていってくれたんだし。怒る理由がない。

「ま、まあ、怪我とかなくてよかったですね」






 そこそこの時間が経った。
 俺たちは雑談をして過ごしていた。ちなみにあのおっさんは、厠とかなんとかでどっか行って、代わりの人がやってきた。こっちとは話してない。話しかけるなオーラを出している。

「え、知らない?レイ霊廟知らない?」
「すみません。……で、でも、ほかの方がどうか知りませんよ?私、まあり物事について詳しい方ではないので」
「まじか。知らないのか。そうか」

 ちょっとまじでがっかりしてる。

「いやでも年に数人しか人が来ないし、知らないのも無理ないか。しゃーない、切り替えていこう」
「案外割り切るの早いんですね」
「いや、そんな事ないと思うけど。この間なんてな?そこそこ可愛がってたキツネがいたんだ。それはもう可愛くてね。フォクシーなんて名前も付けちゃうくらい」
「キツネって、そんなに可愛いんですか?私、見たことないんですけど」
「そりゃもう、おやつとかあげたくなるぐらい」
「へえ、私も見てみたいな」
「でな?そんなに可愛がってたキツネが『やばいぞ!』ある日から来なくなったんだよ。1週間位だったかな?心配してたんだけど、『逃げろー!!』ひょっこり戻ってきたんだよ。その時は泣くくらい嬉しかったなー。」 

 なんか周りがうるさいけど、いい所なので話を進める。

「けどなんかやけに肥えてたんだよ。まあ、どこか良い狩場でも見つけたんだと『こっちに向かってくる!』思ってたんだけど、なんとびっくり!帰ってきたキツネは別のキツネだったの!」
「えっ!?」
「びっくりだよね。『ジャイアントボアだ!』キツネに化されてたんだよ。しかもそれに気づいたのが最悪のタイミングで」

 うるさいなぁもう。ドタドタドタドタ。もっと静かに走れないのか?

「グレイブさんグレイブさん」
「ん?どったの?」
「いや、あの、」

 ああもう、うるさいうるさい。耳が壊れそうだ。なんだか獣臭いし、

「ちょっと黙ってろ」

 狙いは眉間。水玉を作り、指で弾く。
 打ち上げるような感じだったが、うまくいったようだ。

「……」
「それで、ミカさん、話は?」
「あっ、あっ、え?」

 何故かえらく動揺している。そんなに話しにくい事なのか?いやでも話しにくい事を話ような仲ではないしな。そんな話題は出さないだろう。だとした何故?まあとりあえず、落ち着くまで待っていよう。そうしよう。


「ただいま帰っ、は?これ、お前さんがやったのか?」
「?これって、どれだよ。」
「いやいや、そこに転がってる、」

 いや?そんな、転がってるものがあったら、流石の俺も気づいて

「え?何こいつ。怖。」





_________


 脱線 グレイブの雑談の続き

 彼は、キツネが変わっていたと気がついたのは、家の近くでいつも可愛がっていた方のキツネの死骸を発見したから。その死骸の体型が、いつも見ていたキツネと瓜二つであり、今いるキツネは小太り体型だった為、今来てるキツネが偽物だと判断。
 その夜彼ら家族の晩御飯はキツネ鍋だったそうな。
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