スパダリ様は、抱き潰されたい

きど

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はじまりは、あの日

48.過去との決別

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晴れて恋人になった俺たちはラブラブな日々を過ごしていた…という訳にはいかなかった。なぜなら、俺たちは中距離恋愛中だからだ。二人とも仕事の日は会うことができない。休みの前日にお互いの家に行き来しなんとか二人の時間を作っているのだ。それでもただでさえ多忙な真斗さんと、シフト休の俺の予定が合うのは月に1日程度。付き合いたてのラブラブな時期なのに、すでに真斗さん不足に陥りそうである。

それに問題はそれだけじゃない。今日はその問題に対峙しているから、久々の真斗さんの部屋なのに、それを喜ぶ暇もなく息がつまりそうな雰囲気に押しつぶされそうになる。

「で、話って何?わざわざも同席させて」

ダイニングテーブルの向かい側に座る良平さんが俺を一瞥してから目をすがめ真斗さんを見る。真斗さんからヨリを戻さないとはっきり言われているはずなのに、この人は懲りることなく真斗さんに言い寄っていた。

「俺は良平とヨリを戻すことはないから。一臣君と付き合ってるんだ」

「付き合うことにしたの?バカだね真斗。やっぱり女が良いって言って、捨てられるのが目にみえるよ」

呆れたような良平さんの態度がかんに触る。
それに、なぜ俺のことを大して知りもしない人に、ここまで断言されなきゃいけないのか。

「あなたと一緒にしないでください。俺はあなたみたいに真斗さんを手離したりしませんから」

「…一臣くん」

冷静さを失わないように、膝の上に置いた手を握りしめていた。真斗さんの手が、その手の上に重ねられる。緊張しているのか真斗さんの手はひんやりしていた。きっと良平さんが指摘した内容は真斗も不安に思っていたことだったんだろう。

やっぱり俺が真斗さんを手放す日なんて未来永劫こない。真斗さんの表情をみて、俺は自分の気持ちを確信する。

「あのさ、二人の世界に入らないでくれるかな。そもそも俺が今日呼び出されたのは、真斗にはもう恋人がいるから諦めろって言うため?」

「そうです。真斗さんがあなたの元に行くことはないので、諦めてください」

「俺は君じゃなくて真斗に聞いてる。そうなのか、真斗?」

「うん。俺が一緒にいたいのは一臣君なんだ。だから、良平とヨリを戻すことはないよ。」

真斗さんは迷いなくハッキリと告げる。

「……。真斗に別れを告げた時、正直言うと真斗に別れたくないって言われたら別れたりしなかった。あの時はさ、付き合いも長くなって惰性も出てきていたから、真斗の気持ちを再確認したかっただけだった。でも、面と向かって聞くことなんて恥ずかしかったから、真斗を試す様な真似をしてさ。素直に俺のこと好き?って聞けていたら、真斗を失わなかったのにな。バカは俺だよな」

真斗さんと別れた時から、胸に抱えていた後悔を良平さんはポツポツと話す。

「俺もさ、一臣君と出会う前までは良平のこと引きずってた。でも一臣君は、そんな俺でもいいって言って、俺の気持ちに整理がつくまでずっと待っててくれた。良平もそんな人と巡り会えるはずだから、お互い過去に囚われるのはもう終わりにしよう」

「……。そうだな。田浦くん、もし真斗を泣かせたらただじゃおかないからな」

真斗さんは良平さんの後悔を全て受け止め優しく微笑む。良平さんも気持ちを整理するように目を閉じ深呼吸する。そして長い息を吐き切ると、清々しい表情になる。

「言われなくても、真斗さんを泣かせたりしませんよ!」

絡んできた良平さんに負けじと言葉を返す。

「はいはい。その言葉忘れんなよ。それじゃ真斗、幸せになれよ」

「ああ。良平も」

良平さんは席を立ち上がり、真斗さんと言葉を交わすと、颯爽と立ち去る。
玄関がガチャリと閉まる音で、やっと緊張の糸が切れた。

「これでひと段落だけど、最後の最後まで大人の余裕を見せつけられて、なんか悔しい」

「良平も今日呼び出されて、心の準備をしてきてたんじゃないかな。そういう一臣君こそ、すごくかっこよかったよ」

「そう?俺に惚れ直した?」

真斗さんに褒められテンションがあがる。そして照れ隠しでからかう口調になりつつ真斗さんに聞く。

「うん。さらに好きになったよ。それに俺を手離さないって言ってくれて嬉しかった」

「真斗さん、ずっと一緒に居ようね」

「うん。そういえば、俺ね一臣君に伝えなきゃいけないことがあるんだ。聞いてくれる?」

可愛いさ全開の真斗さんを抱きしめると、真斗さんがそう言って上目遣いで俺を見上げた。
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