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鬱蒼と暗い森の中、激しい火花と共に剣音が響く。火花を散らせて襲いかかる凶悪なまでに鋭い爪を剣で弾き、青年は後ろに大きく飛び退いた。そのすぐ後を炎が通っていく。それにチッと舌打ちした後、油断なく剣を構え睨み付ける目の前のモノ――それは大きく禍々しいまでに赤い熊だった。いや、熊というには可笑しな点がいくつかあるが。
「ガァァァ!!」
「っ!」
まず、どんなに赤いって言ってもあれだけ禍々しいまでの赤い毛並みにはならないだろう。そして、熊にはあんな鋭い角なんかはない。百歩譲って特異変異だとしても、炎を吐いたりできないはずだ。ええ、絶対。というか、そんな熊が現実にいてほしくない。そんなことができるなら、今頃世間では大騒ぎになっているし、危なくて誰も山に入れない事態になっているだろう。
そんな埒もない事を考えつつ目の前にいるここら一帯の主、その名も狂い紅熊の攻撃を避け、或いは仕掛けるを繰り返していた。
「やっぱり強いな。流石、森の主。でも、あれだけHP削ったから…アレ使えばいけるか?」
そう呟いて、自分の愛剣に今までよりも多く魔力を込めていく。元々白かった剣は、魔力によってその色を蒼白く変えていった。そんな相手の雰囲気が変わったことに気づいた狂い紅熊は、警戒心を一気に頂点まで上げ、己の敵を殺そうと自分が持つ最大の武器――額の角に力を込め真っ直ぐに駆けていった。
「グルァァァ!」
「ハァァ!切り裂け『天の刃』!」
勝負は一瞬。突進してきた熊の鋭い角を避け、次いで振り下ろされた爪をすり抜ける。最後の意地で吐かれた炎を叩き切り、その巨体を蒼白く光る刃が真っ二つに切り裂いていった。
「ギャアァァァ!!」
つんざくような絶叫を上げ、森の主は金色のポリゴン粒子へと変わっていく。それと共に軽快な音が響き、自分のレベルアップとストレージにドロップアイテムが表示される。それを見送り、青年はその場にヘナヘナと座り込んだ。……女の子座りで。
「ふぁぁ!あー、死ぬかと思った!最後の炎とか!もー、何あれ?ちょー怖っ!ゲームって分かっててもマジで怖かったぁぁ!!もーやだー!」
もし見ている人がいたら目を疑っただろう。なにせ、薄く青が混じったような白銀の短髪にそれなりに整った顔、男らしく筋肉のついた逞しい体の美青年が、女の子座りで、しかもその男らしく低い声からは想像できないような、気弱な、女の子言葉でしくしくと泣いているのだから。
「グスッ。……今のあたしは男、男、男らしく…こんなの何ともない、これぐらいできて当然、うん、そうだな。あたしは…俺は男だもんな。だから、大丈夫。……よし、早く町に帰って報告してこよう」
ひとしきり泣いた後、パンッと自分の頬を叩いて彼は立ち上がった。軽く身繕いし、男らしく颯爽と去っていく姿に先程の弱々しい雰囲気は全く見当たらない。
自分は今は男なのだ。こんなことで挫けてはいられない。我が目的のためにも……!
キャラクター名、フィー。それが、この世界…VRMMOゲーム『Strange of Glory』通称『SOG』における彼女の名前だった。
◆◆◇ ◇◆◆◇ ◇◆◆
「ガァァァ!!」
「っ!」
まず、どんなに赤いって言ってもあれだけ禍々しいまでの赤い毛並みにはならないだろう。そして、熊にはあんな鋭い角なんかはない。百歩譲って特異変異だとしても、炎を吐いたりできないはずだ。ええ、絶対。というか、そんな熊が現実にいてほしくない。そんなことができるなら、今頃世間では大騒ぎになっているし、危なくて誰も山に入れない事態になっているだろう。
そんな埒もない事を考えつつ目の前にいるここら一帯の主、その名も狂い紅熊の攻撃を避け、或いは仕掛けるを繰り返していた。
「やっぱり強いな。流石、森の主。でも、あれだけHP削ったから…アレ使えばいけるか?」
そう呟いて、自分の愛剣に今までよりも多く魔力を込めていく。元々白かった剣は、魔力によってその色を蒼白く変えていった。そんな相手の雰囲気が変わったことに気づいた狂い紅熊は、警戒心を一気に頂点まで上げ、己の敵を殺そうと自分が持つ最大の武器――額の角に力を込め真っ直ぐに駆けていった。
「グルァァァ!」
「ハァァ!切り裂け『天の刃』!」
勝負は一瞬。突進してきた熊の鋭い角を避け、次いで振り下ろされた爪をすり抜ける。最後の意地で吐かれた炎を叩き切り、その巨体を蒼白く光る刃が真っ二つに切り裂いていった。
「ギャアァァァ!!」
つんざくような絶叫を上げ、森の主は金色のポリゴン粒子へと変わっていく。それと共に軽快な音が響き、自分のレベルアップとストレージにドロップアイテムが表示される。それを見送り、青年はその場にヘナヘナと座り込んだ。……女の子座りで。
「ふぁぁ!あー、死ぬかと思った!最後の炎とか!もー、何あれ?ちょー怖っ!ゲームって分かっててもマジで怖かったぁぁ!!もーやだー!」
もし見ている人がいたら目を疑っただろう。なにせ、薄く青が混じったような白銀の短髪にそれなりに整った顔、男らしく筋肉のついた逞しい体の美青年が、女の子座りで、しかもその男らしく低い声からは想像できないような、気弱な、女の子言葉でしくしくと泣いているのだから。
「グスッ。……今のあたしは男、男、男らしく…こんなの何ともない、これぐらいできて当然、うん、そうだな。あたしは…俺は男だもんな。だから、大丈夫。……よし、早く町に帰って報告してこよう」
ひとしきり泣いた後、パンッと自分の頬を叩いて彼は立ち上がった。軽く身繕いし、男らしく颯爽と去っていく姿に先程の弱々しい雰囲気は全く見当たらない。
自分は今は男なのだ。こんなことで挫けてはいられない。我が目的のためにも……!
キャラクター名、フィー。それが、この世界…VRMMOゲーム『Strange of Glory』通称『SOG』における彼女の名前だった。
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