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2話
しおりを挟む「先輩!す、好きです!付き合ってください!」
「………ごめんなさい。貴女とは付き合えません」
「っ!そうですか……ごめんなさい。失礼します!」
可愛らしい顔を涙で歪めながら、トボトボと悲しい顔で去っていく後ろ姿を見送り、小さく溜め息をついた。
「…もう何度目だろうか。このやり取り」
確か、今月に入って23回目だった気がする。多い。いくらなんでも多すぎないか、おい。
「ひーちゃん、モテモテだねぇ」
そんなことを考えていると、後ろからクスクスと可愛い笑い声が聞こえた。ああ、いたのか。やだな、またからかわれる。げんなりしながら振り返ると、やはりそこには我が大親友の姿があった。
「…悠里」
南方悠里。小さい頃から一緒の幼なじみであり、一番の大親友だ。身長145cmと小柄で愛嬌のある可愛い顔、更には気配り上手に聞き上手という、男どもの自尊心なんかを的確に撃ち抜くような娘だ。実際、周りの男子からは健気で可愛くて性格もいいと評判だ。そんな大親友様は、クスクス笑いながら隣まで来ると、おもむろに先程去っていった彼女の方へ顔を向けた。
「あーあ、あの娘結構可愛いかったのに勿体無い。ねぇ、今から追いかけて彼女にしちゃえば?」
「貴方ね…性別考えてよ。なに、彼女って。あたしも女なんだけど?悪いけど、あたしソッチの気はないの。だからあたしは彼女じゃなくて、彼氏が欲しいの!」
「あー、本当にひーちゃんが男だったら良かったのにね。神様も性別間違えてるよ~」
「………はぁ」
顔を手で覆いながら天に向け嘆く大親友を尻目に、あたしは再び重い溜め息をついた。
そう。あたしこと小松一二三は歴とした女である。今年で24歳の大学生だ。身長180オーバーだろうが、耳に爽やかなアルト声だろうが、そこらの男よりはイケメンな顔だろうが。あたしは生物学上にも精神的にも女である。
「そもそも、そこそこ胸もあるのに何故あたしを皆選ぶんだ。今日だって、ちゃんとスカートはいてるじゃないか!絶対、目がおかしいんじゃないか?ほら、どう見ても女だろう?」
「いやー、ひーちゃんの魅力はそんな些細なことじゃ消せないよ。なんかフェロモンだしてんじゃない?ってくらい、女の私でもクラッてくるし」
「些細って…性別一緒の時点でその使い方間違えてない?それにフェロモンとか何よそれ」
「大丈夫。皆これで通じるから」
そう悠里は真顔で言った。通じるのかよ。何故だ。ちくしょー!
女の子にモテて早25年。生まれてから、ずっと周りには女、女、女…。いつの間にやらハーレム結成。あれ?ここ共学だよね?男の子いるよね?と何度思ったことか。男子よ、もっと頑張ってくれよ。お前らだって彼女欲しいだろ?
「ひーちゃん、それは無理な話だよ。ひーちゃんと比べるとか男子が可哀相」
「………解せぬ」
そんな雑談をしながらの帰り道、ふと悠里が言った。
「あ、そうだ。ひーちゃん、聞いて!」
「ん?」
「この前ね、ここら辺でお祭りやってたでしょ?」
「あー、やってたね。一昨日だったか?」
町内でやる派手な祭りで、悠里が彼氏と一緒に行くって言っていたから、どうせナンパ(女子から)されるし何か買ってきてと頼んで結局最後まで行かなかったやつだ。
「そう!それ!でね、その時、くじ引きで欲しかった最新作のゲームが当たったの!しかも必要機材付のやつ!嬉しくて、店変えてまたくじ引きやったら3回もそれが当たったの!凄くない?」
「うわぁ…それ、絶対くじ引きの中でも一番高くて目玉商品じゃん。あんたくじ運果てしなく良いもんね。くじ引きの店主可哀相だわ…」
くじ引き店主の間で、それはそれは阿鼻叫喚の渦だっただろう。一発で目玉商品が消えていく…恐怖だな。
「で、彼氏と一緒にやるとしても1つ余るから、折角だし一緒にやらない?」
「うーん。課題も終わったしな。ま、暇だし良いよ。どんなやつ?」
先日、祭りに行かなかった時に出された課題は全部終わらせたので当分暇になる。だから、ゲーム参加を了承すると悠里は手を叩いて喜んだ。
「えっとね、アムロコーポックの最新作、VRMMO【Strange Of Glory】だよ。これね、゛もう一人の自分と会える゛がテーマなんだって!面白そうじゃない?」
「もう一人の……自分」
「ひーちゃんのもう一人の自分って、どんなのかな?」
これが、後にリアル皇子降臨!とネットで噂されることになる彼女の始まりだった。
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