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[3]素敵な先輩と、やっぱりやなやつ
①
しおりを挟む私が目覚めた時には、部屋はとっくに明るくて、もちろん獣楽器の不思議な音色も聞こえていなかった。
目の前にはどこから運び込まれたのか分からない大きなテーブル。そしてその上にはピザやサンドウィッチ。もう一つ奥のテーブルには、ジュースと……あれはたぶんアップルパイかな。
異空間みたいだった温室が、いつの間にかビュッフェ会場になっていた。
しかもローズちゃんやダグラスくんたちはもう起きてるし、先輩たちと楽しそうにお話してる。
……なにこれ? 私、あのまま寝ちゃったの? そしてこれ、どういう状況?
「アンナ・グレナタさんだね。おはよう。」
混乱していた私に声をかけてくれたのは……誰だか分からないけど、優しそうな男の人……ウェーブのかかった栗色の髪がとても似合ってる。
少し垂れ目で、人が良さそうにふわっと笑うこの人は……誰?
「僕はクラス代表のウィル。二年生だよ。」
「ああ……え、えっとはじめまして。」
寝起きで頭がぼうってしてたせいなのかな、目の前のウィル先輩を見ると、なんだか心がポカポカしてきちゃった。
こんなに穏やかで、上品で……一目見ただけで素敵だなって思える人ってなかなかいないよね……。
ウィル先輩は柔らかく微笑みながら言葉を続けた。
「ふふ、君は手強かったなぁ。でもそのあとはよく眠ってくれたよね。」
「……え? あっ……そうだ私、演奏途中で眠っちゃったんだ! 本当にすみませんでした。眠るつもりはなかったんです……!」
さっきまでぼーっとしていた頭が急に冴えてきた。
そして罪悪感でいっぱいになった。私ったら、先輩に見惚れてる場合じゃなかった。
先輩たちの演奏で寝ちゃうなんて、なんてダメな後輩なんだろう……。
そう思ってうつむいていると、他の先輩たちが一斉に声をかけてくれた。
「謝まらないで! あれはこのクラスの恒例行事なんだから!」
「そうよ! あの演奏はクレン先生との賭けだったの。『新入生を演奏で全員寝かしつけることができたらランチをご馳走します』って言われて、私たちも必死に頑張ったの!」
「最後に君が寝てくれたおかげで、ピザもパイも食べ放題だよ。もちろん全部先生のおごり! 最高でしょ?」
先輩たちは大盛り上がり。そしてちょうどアップルパイを切り分けていたクレン先生も、こちらを見て「いやぁ財布は空っぽになったけど、それよりも生徒たちの成長は嬉しいねぇ。」と言いながらお茶目にウインクしてくれた。
「さあ、アンナさんも食べて! ジュースもあるよ!」
「ありがとうございます……。」
なるほど、そういうことだったんだ。
あの演奏会は私たちを寝かせるための演奏で、先輩たちにとっては『ご褒美ランチ』を賭けた『寝かしつけ』の実力試しってことだったみたい。
って、私たち魔獣じゃないんですけど!
それにあんなに睡魔と戦ってたのに、無駄な抵抗だったってこと⁈
頑張って起きていようとしてたのに!
そんなことを思っていると、目の前にオレンジジュースの入ったグラスが差し出された。
渡してくれたのはウィル先輩だ。そして先輩は隣に腰かけて、懐かしそうに呟いた。
「僕も去年なかなか眠らなかったから、先輩たちをヒヤヒヤさせちゃったんだ。」
「そうだったんですか……。」
「懐かしいなぁ。去年は先輩たちからネタバラシされて『なんだ、せっかく寝ないように頑張って抵抗したのに』って思っちゃってさ。」
「えっ、ウィル先輩もそう思ったんですか?」
さっきの私の心の声が聞かれたのかと思ってびっくりした。
「はは、やっぱり君もそう思ったんだ! 僕たちなんか似てるのかもね。」
「……! そ、そうですね!」
……似てる。……似てる。
ウィル先輩の優しくて甘い声が頭の中でこだまする。
先輩にそう言われるとすごく嬉しい……。
「僕らは学年は違うけど『寝かしつけ魔獣士』を目指すクラスメイトだ。もし困ったことがあれば、いつでも頼っていいからね。アンナちゃん。」
ウィル先輩はそう言って右手を前に出した。
「はい!」
私は威勢の良い返事をして、両手でウィル先輩の手を包み込んで握手した。
先輩の手を触ってしまった……!
って違う違う。これはただの挨拶だ。それ以上でもそれ以下でもない。
だけど……だけど!
やっぱりドキドキする!
ウィル先輩……なんて素敵な人なんだろう。
私はにやけてしまいそうな顔をなんとか引き締めた。
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