【完結】見習い魔獣士アンナの寝かしつけ

うれし乃まさみ

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[8]ドキドキの夏休み

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 暑さが日に日に増していく七月になった。
 あと少しでアカデミーは夏休みがはじまる。

 私たち『寝かしつけクラス』の一年生は、いつもの温室で獣楽器の自主練中だ。
「ねえアンナちゃん、夏休みにインターンシップに参加するってほんとなの?」
 ローズちゃんは獣楽器を調律ちょうりつしていた手を止め、突然真剣な顔でそう聞いてきた。
 いつの間にか他のみんなも興味津々で私を見ていた。
「うん。インターンシップって現役の魔獣士さんから『寝かしつけ』を学べるんでしょ? それってすごく貴重なことだし、やりたいなって思って。」

 私がそう答えると、他の五人は「うひゃー。」と悲鳴をあげた。
 な、なんで? 私そんなに変なこと言った?

 毎年夏休みに一年生対象に開催される職業体験……通称『インターンシップ』。
 それに参加するアカデミー生は、魔獣を飼育する『魔獣舎まじゅうしゃ』で、二週間泊まり込みで魔獣士さんたちの仕事を体験できるらしい。

 もちろん参加は自由。
 だけどなぜかやりたいって人が少なくて、毎年参加者があまり集まらないみたい。

 それにみんなの様子からして『寝かしつけクラス』からは私しか参加しないんじゃないかな……。
 私からすれば、どうしてみんなインターンシップを避けるのかが不思議だけど……。
 すると、みんなが次々と声を上げた。

「アンナちゃん! それって三週間しかない夏休みが、ほとんどなくなっちゃうってことだよ⁉︎  ほんとにいいの?」
 とローズちゃんは大きな目を潤ませて叫び……。
「アンナっちってば真面目すぎるよ! 夏なんだし遊ばなきゃ! みんなで海行ってバーベキューしようよぉ!」
 とマリアちゃんは小さな子みたいに駄々をこね……。
「正気なのかい。インターンといえば聞こえはいいが、実際は無賃労働むちんろうどう・やりがい搾取さくしゅ……その上、宿題をやる時間すら奪われてしまうのだよ。」
 とダグラスくんは眼鏡を光らせてブツブツ言ってる。
 相変わらず『寝かしつけクラス』のみんなはキャラが濃いな……。
 だけどなるほどね。
 そういう理由でインターンシップは人気がないのか……。
 ちょっと納得しちゃったけど、私の意思は変わらない。この夏は頑張るって決めたんだ。
 
 おととい、一学期の総まとめテストが返ってきた。もちろん他のクラスとの合同テストの順位も発表された。
 私の点数は九十六点。悪くない出来だった。
 だけどテストの順位は、ルカと同率一位。
 つまり同点だったんだ。

 今回、ルカはすごく勉強を頑張ってたみたい。
 だけど私だって負ける気はさらさらなかった。
 はっきり言ってルカは思っていたよりも強敵だ。今回はなんとか同点だったけど、次は簡単に抜かされちゃうかも……。
 
 だから夏休みはインターンシップに参加して、もっと魔獣のことを知って腕を磨きたいって思ったの。
 
 そんなやる気満々の私とは対照的に、ミカちゃんとシバくんは心配そうな顔をしてる。

「これは他のクラスの先輩が話してるのを聞いたんだけど……最終日までに指導役の魔獣士さんが出す『課題』をクリアできないと、インターンを延長されて、いつまでも家に帰れないんだって。」
「そうそう。それで、夏休みがなくなっちゃった先輩もいたんだって。」

 げええ……! 
 そんなの初耳なんですけど。
 さすがに何日も延長させられちゃったら困るなぁ。夏休みの宿題をする時間がなくなっちゃうし、久しぶりに帰る実家でゆっくりする時間もなくなっちゃう。
 二人の話を聞いて、ちょっと心配になってきちゃったよ。

「だけどアンナちゃんは真面目だし、成績いいから大丈夫だよ!」
「うんうん! アンナっちはウチらのエースだもんね~!」
「気負いすぎず、いつも通り頑張りたまえ。アンナくん……!」
「さっきの話もただの噂話かもしれないし!」
「僕らは応援してるよ! ファイトー!」

 うう……みんなぁ。
 私って本当にいい仲間を持ったなあ……。
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