【完結】見習い魔獣士アンナの寝かしつけ

うれし乃まさみ

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[11]本場の寝かしつけ

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 で、結局私は間に合ったのかって?
 答えは……ギリギリセーフ!

 私はインターン開始三分前に寝かしつけ舎に到着し、なんとか遅刻はまぬがれたのだった。
 と言っても、髪はいつもに増してボッサボサ。
 それに全力疾走ぜんりょくしっそうしてきたせいで、汗だくだし、息が切れてゼエゼエと肩を揺らしてる。
 もうズタボロだ。

 さすがにギリギリすぎたから注意される覚悟はしてたんだけど……。
 今日からお世話になる準夜帯じゅんやたい指導役のドーマス副主任ふくしゅにんは「間に合ってよかったね。」と笑いとばしてくれた。

 副主任は丸眼鏡をかけた四十代ぐらいの優しそうな男の人だ。見た目通りすごく心が広いみたい。
 何はともあれ、明日からはもっと余裕を持って行動しなきゃだね……とほほ。

 気を取り直して、今日からは二週目のインターンシップ。
 私は獣楽器を持って、ドーマス副主任とともにモフモフの寝床へ向かった。

「モフモフたちは人懐っこいから、すぐに心を開いてくれる。だから他の魔獣よりも寝かしつけが簡単だと言われてるんだ。」
 ドーマス副主任はそう言ってモフモフたちの寝床のそばのベンチに腰掛けた。
 私はその隣にある小さなスツールにちょこんと座って、これから行われる生の『寝かしつけ』をドキドキしながら見守った。
 

 副主任がマンドリン型の獣楽器を構え、ポロンと一音鳴らすとモフモフたちが集まってきた。

 ポロポロ、キラキラ……。
 獣楽器の音色が優しく響き渡る。
 ほんの数分で、たくさんのモフモフたちが私たちの足元へ来ていた。

 す……すごい。いつのまにか取り囲まれちゃった。
 十……十五……いや、二十匹はいるな……。
 たくさんの小さなモフモフたちは、獣楽器の音色に合わせてゆらゆらと左右に揺れている。

 ポロン、ポロン、ダダーン、キラキラキラキラ……。
 ゆらゆらゆら……すぅ……すぅ……すぅ。
 
 一匹、また一匹……と、揺れていたモフモフたちが寝息を立て始めた。

 なんて早業はやわざ! まだ寝かしつけを始めて五分も経っていないのに、半分以上のモフモフたちが眠りについてしまった。

 私が目を輝かせて感動している隣で、ドーマス副主任は余裕の表情で獣楽器を奏で続けている。
 そして手元から目を離し、私の方を見てヒソヒソ声で思わぬ提案をしてきた。

「じゃあ、そろそろ一緒にやってみようか。」
「はい……って、えっ?! 一緒にですか!」
「しー! 寝床では声をひそめてね。」
「あっ……すみません。」

 やっちゃった……私が大きな声を出したせいで、数匹のモフモフがまた目を覚ましてしまった。

 だけどドーマス副主任はそれをとがめることなく、落ち着いた表情で演奏を続けていた。

「次の小節しょうせつから基本のメロディを僕と一緒に弾いてみようか。」
「はい……!」
 今度は小さな声でそう返事をし、ドーマス副主任の演奏に合わせて獣楽器を奏でた。

 ポロン、ダダーン、ポロポロポロ……。
 シャラン、キラキラキラキラ……。

 ……き、緊張するな。
 間違えちゃだめだって思うと余計に間違えちゃいそうだ。
 いつもよりぎこちない動きになってる。
 今年のアカデミー生は獣楽器の演奏が下手くそだなって思われちゃったらどうしよう……。
 
 そんな考えが頭の中をぐるぐる回って、落ち着かない。
 こんな演奏でモフモフたちは寝てくれるのかな?

 心配になって周りを見渡すと……。

「ええっ、起きてる!」
 思わず心の声が出てしまった。

 だって、さっきまで寝息を立てていたモフモフたちが目を開けて、私の方をじいっと見て起きてたんだもん。

 なんでなんで? なんで起きちゃったの? 
 まだ演奏を間違えたりはしてないよ?
 混乱して手が止まる。
 ポロン……。
 私が演奏をやめてしまうと、ドーマス副主任も演奏を中断した。
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