【完結】見習い魔獣士アンナの寝かしつけ

うれし乃まさみ

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[9]ワクワクのインターンシップ

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「はぁ、困ったな……。」
 リナリーさんは事務室の椅子に腰掛けてため息を吐いていた。
「リナリーさん、一体どうしたんですか? ただ事じゃない雰囲気でしたけど……。」
 後ろからそっと近付いて声をかけた。おせっかいかもしれないって思いながらも、聞かずにはいられなかった。

 私はまだここにきて一週間しか経っていないけれど、できることがあれば協力したい。
 そんな想いが伝わったのか、リナリーさんは先程の出来事を事細かに教えてくれた。

「ビーピルの寝床に大きな穴があるのは知ってるでしょ?」
「ああ……はい。」
 リナリーさんは大型鳥魔獣おおがたとりまじゅうのビーピルの話を始めた。

 ビーピルの寝床は森の中を再現したエリアになっているんだけど、そこの地面には一つ大きな穴が掘ってある。
 初めて見た時はびっくりしたけれど、それは親離れしたばかりの幼いビーピルの『ピピ』が自分で掘ったものだと教えてもらった。

 ピピは眠る時に自分で掘った穴の中で眠るくせがある。
 なんせまだ幼い魔獣だから一人で眠るのことに不安があるみたい。
 だから自分ぴったりのサイズの穴の中で眠って、気持ちを落ち着かせて眠るんだとか。

 寝かしつけ魔獣士は魔獣のそういった癖や習慣を大事する。
 人間だって落ち着かない場所や、形の合わない枕では熟睡じゅくすいできないでしょう?
 魔獣だって同じだ。
 魔獣にも人間と同じように、眠る前にはそれぞれ個別のルーティーンが存在する。
 だからこそ、ピピが掘った寝床の穴は埋めずに残してあったのだ。

「さっき獣操科じゅうそうかのベルー主任がいきなりやってきて、あの穴に岩や小石を敷き詰めて埋めてしまったの。」
「ええっ、なんでそんなのこと!」
「ピピがこれ以上甘えた性格にならないためだって。舎長しゃちょうの許可は取ったらしいんだけど、私たちには一言も相談はなかったわ。」

 リナリーさんは額を押さえながら再びため息をついた。
「あの人は舎長の一人息子だから、きっとうまく取り入ったのね。よく気まぐれで好き勝手やるのよ……ああ、こうなる前に阻止できればよかったんだけど……。」

 リナリーさんは責任を感じているのか、すごくしょんぼりしてしまった。だけど悪いのはあのベルー主任だ。
 この魔獣舎で一番偉い『舎長』の息子だったなんて。どうりで若いのに『主任』なんて呼ばれて、偉そうにしてたわけか。

 じきに他のエリアで寝床を整備していた魔獣士さんたちも集まってきて、事務室では今後のピピの寝かしつけについて議論がなされた。

「そんなに気を落とさなくても、ピピはまた新しい穴を掘るかもしれないさ。」
「だけど警戒心が強い子よ。しばらくは眠りが浅くなるに違いないわ。覚悟はしておかなきゃね。」
「一睡もしない可能性だってあるな。やっと最近よく眠れるようになってきてたのに……。」
 魔獣士さんたちは口々にそう言った。事務室は重い落胆ムードに包まれていた。
「とりあえず、あの穴があった場所の近くに同じような穴を掘っておきましょう。今夜はそれで様子を見るしかないわ。」
 リナリーさんのその一言で、私たちはその後、夕方まで穴掘り作業をすることになった。
 出来上がった穴は、ピピが掘った穴と大きさや深さはほとんど同じだ。だけど、明らかにスコップで急いで掘ったって感じで、ピピが気に入るかは分からない。

 今夜、ピピは安心して眠ることができるのかな……? 
 私はそんな心配な気持ちを残したまま、日勤帯の最後の仕事を終えた。


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