二人の王子様はどっちが私の王様?

樺純

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145話

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ジョウキside

重い空気の中…リツさんが優しい笑顔のまま俺たちに紅茶とお茶菓子をテーブルに出して部屋を出て行った。

「2人をここに呼んだのは言うまでもないが…アナのことでだ…」

J「はい…その事ですが」

「待ってくれ。まずは私の話を聞いてからジョウキさんがどうしたいのか…どう考えるのか…聞かせてほしい。」

ヒスイさんは俺の言葉を遮るようにそう言った。

J「は…い…分かりました…」

するとヒスイさんは紅茶を軽く口に含み、少し悲し気な顔をしながらゆっくりと話しはじめた。

「アナがイギリスに来た時、あの子は毎日毎日、部屋に閉じこもって泣いていた。俺が何を聞いても泣くばかりで食事もろくに取らずにみるみるウチに痩せていったんだ。そんな時に俺はその悲しみを紛らわせる何かがアナに必要だと思い、立ち上げる予定だったメンズブランドのデザイナーになることを進めた。」

Y「それがcherry blossomですか…?」

「そうだよ。店の名前を付けると愛着が湧いてより、そっちに集中すると思ってアナに店の名前を付けさせたんだ。」

J「cherryblossomって…」

俺はその名前を聞いて耳を疑った。

「なぜその店名にしたかって聞いたらまた泣き始めるだ。私はきっと彼を一生忘れられないからって。忘れようとすればするほど恋しくなるって。アナが忘れられないその彼というなはジョウキさんあなたですよね?」

ヒスイさんは前のめりになり俺の目の奥を覗き込む。

俺の知らない間に起こっていた出来事を聞いて俺は今にも胸が張り裂けそうで苦しくなった。

J「おそらく…僕はそうだと信じたいです…」

「その言葉、忘れないでくださいね?今から知る現実を聞いても…」

そのヒスイさんの言葉で一瞬にして部屋中の空気がピーンと張り詰め、独特な目つきをしたヒスイさんの目がさらに俺に圧力をかける。

Y「ヒスイさん。そ…それは一体どういう意味でしょうか?」

ユナが不安気に問いかけたその時、なぜか俺の手は震えていた。

しばらくの沈黙のあとヒスイさんはゆっくりと話しはじめた。

「アナがイギリスに来て1ヶ月を過ぎた頃かな…微かな異変があったのは…」

J「異変?」

「ある日、買い物に行ったアナから電話がかかってきて家への帰り道が分からないって連絡があったんだ。どこにいるのか聞いても分からないって言うからGPSで探して連れて帰ったんだ。」

J「は…はい…」

「でも、その買い物に行った場所ははじめて行った場所じゃなかった。ただ、その時の私はあまり深く考えずにいてまだ、環境に慣れてないからだと勝手に理由付けていたんだ。」

J「……。」

「そこから時間が経つにつれてアナは少しずつ忘れ物が増えた。持って行くデザイン画を忘れたりスタッフの名前を忘れたり、自分がなぜイギリスに来てるのかを忘れた。もちろん、普通の時もあれば記憶が曖昧な時もあって…ますます状態が不安定になっていったんだ…」

J「え…?待ってくださいそれって…」

Y「まさか…記憶障害…?」

「さすがに私も違和感を感じてこっちで有名な医師にアナを見てもらった。するとあの撮影の事故の時に小さな出血が脳内にあったみたいで…その血が固まり脳の神経を圧迫してると医師にいわれたんだ。」

J「それって…アナはどうなるんですか?」

「このまま放っておけば全ての記憶を少しずつ失って、血腫が神経を圧迫させて…いずれは命も失うかもしれないと……手術をすれば治る確率はあるが、神経の近くにあるから記憶障害や身体の障害も残る可能性が高い…と…」

J「そ…そんな…」

ユナはその現実を聞かされ横で震えて泣いている。

「でも、あの子はどんな時でもあなたの事は忘れなかった。どんなに不安定で記憶が曖昧になってもずっとあなたの名前を呼んでいた…ジョウキって…」

J「…ア…ナ…」

俺の手の震えはますます大きくなり目から大粒の涙が溢れだした。

「アナにはまだ病気の事を詳しくは話してないんだ。ただ、本人も薄々自分の異変に気付き始めてて手術の予定も決まっている。そんな大切な時期にあなたと再会してしまったんですよ…ジョウキさん。」

J「…そ…そうだったんですね…」

「正直、このタイミングであなたとアナが再会した事を私は恨みましたよ。なぜ今なんだって。今、手術をしないとアナは…この世から…いなくなるのに…なぜなんだって。」

ヒスイさんの低い声が微かに震えている。

「これ以上あなたと会ったらきっとアナは手術を拒むと思います。大切な記憶や思い出さえも失い、もしかしたらあなたともう二度と会えないかもしれないと恐怖に怯え、あなたの側にいるだけでいいと言って帰国を望むでしょう。だから、お願いですもうこれ以上…アナに関わらず帰国してください。それがアナを助ける為だと思って…。」

そう言ってヒスイさんは俺に頭を深く深く下げた。
  

つづく
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