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46話
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ハウside
あの日
息が苦しくなるなか私はムネオリさんを引きずり、夢中でムネオリさんの言った私の誕生日でもある数字を震える手で打ち込んだ。
あの隠れ家のパスワードがテラの誕生日だと知った時、ムネオリさんはまだこれ以上、私を地獄に落とす事が出来るんだなと思った。
なのに…ムネオリさんは最後まで私の胸を掴んで離さなかった。
まさか、抜け道のパスワードを私の誕生日にしてたなんて…ほんとこの男はズルい。
私に撃たれて血を流し、真っ青な顔をするムネオリさんを引きずって必死で階段を下りた。
近くまで来ている消防の人間達にバレないよう裏に置いてあるムネオリさんの車に行き、ムネオリさんのポケットから車の鍵を取り出すと、ムネオリさんを後部座席に寝かせ私は運転席に乗り込みその場を後にした。
ハンドルを握りながら私は考えた…
このままムネオリさんを連れ去ってしまおうかと…
覇道組の次期組長になる若頭のムネオリさんを連れ去るなんて自殺行為に近いと分かりながらも、そう考えたのはやはりムネオリさんを心から恨み忘れるなんて出来ないから。
そんな事を考えながらハンドルを握っていると後ろから微かな呻き声が聞こえ、私は車を道路脇にとめ後部座席の扉を開けた。
H「ムネオリさん…!!」
私がそう呼びかけるとムネオリさんは微かに瞼を開け微かに唇を動かす。
H「ムネオリさん…?」
M「あなたは…誰……?ムネオリって……僕のこと……?」
ムネオリさんは全ての記憶を失っていた。
それを悟った私はムネオリさんを安心させるように声をかけ、覚悟を決めると車をまた走らせた。
そこは昔、覇道組が別荘として使っていた場所。
幼い頃、私とムネオリさんは夏になるとここに来て時間を忘れて遊んでいた。
私にとってとてと大切な思い出の場所だ。
数年前、覇道組がこの別荘を手放したと知った私は全財産を叩いてこの別荘を購入した。
近くの薬局で必要になるものを購入し、別荘に向かった私は自分で撃ったはずのムネオリさんの身体を治療する。
急所を外して撃ったムネオリさんの傷口は問題なく治療が終わり、ムネオリさんの意識もすぐに戻ったがムネオリさんの記憶は戻らないままだった。
次の日のニュースでは私とムネオリさんは死んだことになっていて、私にとってみれば好都合だった。
意識を取り戻したばかりのムネオリさんは、初めて私たちが出会った時の幼かった頃のムネオリさんのようで、少し私のことを警戒していた。
しかしその警戒心もすぐになくなり、今まで私が見たくて仕方なかった愛おしくて懐かしいムネオリさんの笑顔を私に見せてくれるようになった。
ムネオリさんの怪我が少し良くなり始めた頃、私はムネオリさんの落ちてしまった体力を取り戻すために散歩へと連れ出すようになった。
懐かしい景色を眺めながら2人並んで歩くと幼かったあの頃を思い出させる。
ゆっくりと歩くムネオリさんの姿を見つめながら歩いていると、私がバランスを崩して転びそうになりムネオリさんは咄嗟に私のその身体を庇ってくれた。
M「ハウ…大丈夫?」
そう声を掛けられたと同時にあまりの近さから私の心臓は早く動き出す。
ムネオリさんはジーッと私の瞳を覗き込み、微かに微笑んだ。
M「ハウは……もしかして…僕の恋人かな?」
H「え………?」
M「ハウがそばにいると安心するのに…何故かドキドキする…ハウが恋人だったらいいのに…」
そう言ったムネオリさんは恥ずかしそうに顔を赤らめ、私は何も答える事ができすに視線を逸らした。
散歩の途中、寄ったのは喫茶店と本屋を併設したお洒落なお店。
昔はなかったそのお店にムネオリさんと2人で入ると私たちと同じ年頃の店主がいた。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」
そう彼が言った途端にグラスの割れる音が店内に響き驚いたムネオリさんが私の腕にしがみ付く。
「あ…失礼しました。また、割っちゃったな…今日これで3個目。」
そう言って店主は俺たちに笑顔を見せている。
H「気をつけてくださいね…」
そう声をかけてムネオリさんを座らせ私も席につく。
すぐに店主が頼んでもないのにコーヒーを持ってきた。
H「え…まだ注文…」
「あぁ、ウチこれしかないから。」
そう言ってコーヒーとマカロンを俺たちの前に出した。
「最近、引っ越してきたんですか?俺はここの店主のナカです。よろしく。」
H「あ…はい。上の別荘に引っ越し出来たんです…私はハウ…こちらはムネオリです。」
そう自己紹介するとムネオリさんはペコっとナカに頭を下げた。
それがナカとの出会い。
ナカとは不思議と昔からの知り合いのような気がしてすぐに親しくなり、私が街に買い出しに出るときはムネオリさんの面倒を頼むようになり、ムネオリさんも気を許す存在となった。
3人でバーベキューをしたり、絵を描いたりしながら穏やかな日々を過ごし3ヶ月が過ぎた頃、いつものようにムネオリさんを連れてナカの店を訪れた。
N「いらっしゃい。」
H「今日はコーヒーにミルク入れといて~ムネオリさんは?」
M「僕はアイスコーヒーで。」
そう伝えて私たちは大きな窓のあるいつもの席に座る。
ムネオリさんはこの窓から見える景色が好きなようで、いつもここに来ると雨の日も晴れの日もこの窓から外を覗いていた。
N「おまたせ。」
そう言いながらナカはコーヒーといつものマカロンを私たちの前に置いていく。
N「あ…そういえばさ?この前、不思議な人が来てさ?」
ナカはそう話しながら私の横に座り、ムネオリさんはナカの話に興味があるようで窓に向けていた視線をナカに向ける。
N「どこから来たのか見慣れない人でね?身長が高くて紳士な感じの清潔感溢れるすんげぇイケメンでさ?なのに拳が潰れててさ?ギャップありすぎてビックリした。」
ナカがその人の特徴を言ってすぐ私はその人が誰なのか察し、思わず全身から血の気が引いた。
まさか…ジニさんが私たちを探してここに来たの?
私たちを殺すために?
N「その人が来たとき、たまたまお前たちがあの川沿いの道を散歩してて2人のことを何とも言えない複雑な目で見つめてたから、知り合いかって聞いたら否定してたけど………」
H「そ…そうだったんだ…」
N「そういえばなんか良くわかんない事言ってた…過去を忘れてしまうことは決して悪ことばかりじゃない。過去に囚われるくらいなら全て忘れて穏やかに今を生きてほしい…ってさ…2人にそう伝えてくれって言い残して帰っていたよ。知り合いでもないのに変な人だよね?」
ナカはそう言いながら笑い、ゆっくりと席を立ってカウンターに戻って行った。
ムネオリさんの方に視線を向けるとムネオリさんは微笑んだままストローを咥えていて…その手が微かに震えているのを私は見逃さなかった。
H「ムネオリさん……?」
私がそう名前を呼ぶとムネオリさんは唇からストローを外し、いつもの笑顔を私に見せるから私の胸の奥がギュッと締め付けられ、私は手を伸ばしてテーブルの上にあったムネオリさんの手をギュッと握った。
M「ハウ……俺たちは過去を忘れて幸せになってもいいのかな……」
その言葉を聞いてムネオリさんの変化に私は微かに気がついた。
H「ムネオリさんなにか思い出した……?」
涙声でそう言った私にムネオリさんは優しく微笑み首を横に振るが、ムネオリさんのその瞳は私たちの辛い過去を全て思い出してしまったような青みがかった瞳をしていた。
H「ムネオリさんが望むなら…私たち2人で幸せになろう…?」
ムネオリさんは私の言葉に軽く頷くとその拍子に目尻から涙がひと筋溢れ…
私はムネオリさんが突き通すと決めたその嘘を心の奥にグッとしまい込んだ。
つづく
あの日
息が苦しくなるなか私はムネオリさんを引きずり、夢中でムネオリさんの言った私の誕生日でもある数字を震える手で打ち込んだ。
あの隠れ家のパスワードがテラの誕生日だと知った時、ムネオリさんはまだこれ以上、私を地獄に落とす事が出来るんだなと思った。
なのに…ムネオリさんは最後まで私の胸を掴んで離さなかった。
まさか、抜け道のパスワードを私の誕生日にしてたなんて…ほんとこの男はズルい。
私に撃たれて血を流し、真っ青な顔をするムネオリさんを引きずって必死で階段を下りた。
近くまで来ている消防の人間達にバレないよう裏に置いてあるムネオリさんの車に行き、ムネオリさんのポケットから車の鍵を取り出すと、ムネオリさんを後部座席に寝かせ私は運転席に乗り込みその場を後にした。
ハンドルを握りながら私は考えた…
このままムネオリさんを連れ去ってしまおうかと…
覇道組の次期組長になる若頭のムネオリさんを連れ去るなんて自殺行為に近いと分かりながらも、そう考えたのはやはりムネオリさんを心から恨み忘れるなんて出来ないから。
そんな事を考えながらハンドルを握っていると後ろから微かな呻き声が聞こえ、私は車を道路脇にとめ後部座席の扉を開けた。
H「ムネオリさん…!!」
私がそう呼びかけるとムネオリさんは微かに瞼を開け微かに唇を動かす。
H「ムネオリさん…?」
M「あなたは…誰……?ムネオリって……僕のこと……?」
ムネオリさんは全ての記憶を失っていた。
それを悟った私はムネオリさんを安心させるように声をかけ、覚悟を決めると車をまた走らせた。
そこは昔、覇道組が別荘として使っていた場所。
幼い頃、私とムネオリさんは夏になるとここに来て時間を忘れて遊んでいた。
私にとってとてと大切な思い出の場所だ。
数年前、覇道組がこの別荘を手放したと知った私は全財産を叩いてこの別荘を購入した。
近くの薬局で必要になるものを購入し、別荘に向かった私は自分で撃ったはずのムネオリさんの身体を治療する。
急所を外して撃ったムネオリさんの傷口は問題なく治療が終わり、ムネオリさんの意識もすぐに戻ったがムネオリさんの記憶は戻らないままだった。
次の日のニュースでは私とムネオリさんは死んだことになっていて、私にとってみれば好都合だった。
意識を取り戻したばかりのムネオリさんは、初めて私たちが出会った時の幼かった頃のムネオリさんのようで、少し私のことを警戒していた。
しかしその警戒心もすぐになくなり、今まで私が見たくて仕方なかった愛おしくて懐かしいムネオリさんの笑顔を私に見せてくれるようになった。
ムネオリさんの怪我が少し良くなり始めた頃、私はムネオリさんの落ちてしまった体力を取り戻すために散歩へと連れ出すようになった。
懐かしい景色を眺めながら2人並んで歩くと幼かったあの頃を思い出させる。
ゆっくりと歩くムネオリさんの姿を見つめながら歩いていると、私がバランスを崩して転びそうになりムネオリさんは咄嗟に私のその身体を庇ってくれた。
M「ハウ…大丈夫?」
そう声を掛けられたと同時にあまりの近さから私の心臓は早く動き出す。
ムネオリさんはジーッと私の瞳を覗き込み、微かに微笑んだ。
M「ハウは……もしかして…僕の恋人かな?」
H「え………?」
M「ハウがそばにいると安心するのに…何故かドキドキする…ハウが恋人だったらいいのに…」
そう言ったムネオリさんは恥ずかしそうに顔を赤らめ、私は何も答える事ができすに視線を逸らした。
散歩の途中、寄ったのは喫茶店と本屋を併設したお洒落なお店。
昔はなかったそのお店にムネオリさんと2人で入ると私たちと同じ年頃の店主がいた。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」
そう彼が言った途端にグラスの割れる音が店内に響き驚いたムネオリさんが私の腕にしがみ付く。
「あ…失礼しました。また、割っちゃったな…今日これで3個目。」
そう言って店主は俺たちに笑顔を見せている。
H「気をつけてくださいね…」
そう声をかけてムネオリさんを座らせ私も席につく。
すぐに店主が頼んでもないのにコーヒーを持ってきた。
H「え…まだ注文…」
「あぁ、ウチこれしかないから。」
そう言ってコーヒーとマカロンを俺たちの前に出した。
「最近、引っ越してきたんですか?俺はここの店主のナカです。よろしく。」
H「あ…はい。上の別荘に引っ越し出来たんです…私はハウ…こちらはムネオリです。」
そう自己紹介するとムネオリさんはペコっとナカに頭を下げた。
それがナカとの出会い。
ナカとは不思議と昔からの知り合いのような気がしてすぐに親しくなり、私が街に買い出しに出るときはムネオリさんの面倒を頼むようになり、ムネオリさんも気を許す存在となった。
3人でバーベキューをしたり、絵を描いたりしながら穏やかな日々を過ごし3ヶ月が過ぎた頃、いつものようにムネオリさんを連れてナカの店を訪れた。
N「いらっしゃい。」
H「今日はコーヒーにミルク入れといて~ムネオリさんは?」
M「僕はアイスコーヒーで。」
そう伝えて私たちは大きな窓のあるいつもの席に座る。
ムネオリさんはこの窓から見える景色が好きなようで、いつもここに来ると雨の日も晴れの日もこの窓から外を覗いていた。
N「おまたせ。」
そう言いながらナカはコーヒーといつものマカロンを私たちの前に置いていく。
N「あ…そういえばさ?この前、不思議な人が来てさ?」
ナカはそう話しながら私の横に座り、ムネオリさんはナカの話に興味があるようで窓に向けていた視線をナカに向ける。
N「どこから来たのか見慣れない人でね?身長が高くて紳士な感じの清潔感溢れるすんげぇイケメンでさ?なのに拳が潰れててさ?ギャップありすぎてビックリした。」
ナカがその人の特徴を言ってすぐ私はその人が誰なのか察し、思わず全身から血の気が引いた。
まさか…ジニさんが私たちを探してここに来たの?
私たちを殺すために?
N「その人が来たとき、たまたまお前たちがあの川沿いの道を散歩してて2人のことを何とも言えない複雑な目で見つめてたから、知り合いかって聞いたら否定してたけど………」
H「そ…そうだったんだ…」
N「そういえばなんか良くわかんない事言ってた…過去を忘れてしまうことは決して悪ことばかりじゃない。過去に囚われるくらいなら全て忘れて穏やかに今を生きてほしい…ってさ…2人にそう伝えてくれって言い残して帰っていたよ。知り合いでもないのに変な人だよね?」
ナカはそう言いながら笑い、ゆっくりと席を立ってカウンターに戻って行った。
ムネオリさんの方に視線を向けるとムネオリさんは微笑んだままストローを咥えていて…その手が微かに震えているのを私は見逃さなかった。
H「ムネオリさん……?」
私がそう名前を呼ぶとムネオリさんは唇からストローを外し、いつもの笑顔を私に見せるから私の胸の奥がギュッと締め付けられ、私は手を伸ばしてテーブルの上にあったムネオリさんの手をギュッと握った。
M「ハウ……俺たちは過去を忘れて幸せになってもいいのかな……」
その言葉を聞いてムネオリさんの変化に私は微かに気がついた。
H「ムネオリさんなにか思い出した……?」
涙声でそう言った私にムネオリさんは優しく微笑み首を横に振るが、ムネオリさんのその瞳は私たちの辛い過去を全て思い出してしまったような青みがかった瞳をしていた。
H「ムネオリさんが望むなら…私たち2人で幸せになろう…?」
ムネオリさんは私の言葉に軽く頷くとその拍子に目尻から涙がひと筋溢れ…
私はムネオリさんが突き通すと決めたその嘘を心の奥にグッとしまい込んだ。
つづく
応援ありがとうございます!
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