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5話
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彼は一体、何がしたかったのだろうか?
私は彼と歩いて来た道を戻りながら考える。
初めて会った瞬間の彼はとても楽しそうでイキイキしていた。
なのに、別れる前の彼はとても切なくて寂し気で…私の胸の奥がまたギュッと音を立てた。
気がつけば日も傾きオレンジ色に染まり始めた空。
私はまた、あの丘に戻った。
ベンチに座りあっという間にオレンジから闇に包まれる空をぼんやりと眺めていた。
いつの間にか月が現れて私を照らし出す…私の大っ嫌いな月が。
この丘は行くあてのない私にとって唯一、心地良く安らぐ場所。
夜風はまだ冷んやりとして身体が縮こまった。
そろそろ、街に戻ってホテル探さなきゃな…そう思って立ちがると後ろから声がした。
「…こんな時間までなんでここにいるんだよ…。」
半日前まではこの声の主が誰なのかさえ分からなかったのに今は振り返らなくても誰だわかる。
そして、その声の主は少し私に呆れた顔をしていた。
*「また、会ったね?今からホテル探しに行くところ~。じゃね。」
J「ちょっと待って。」
そう言って彼は自分が着ていたジャケットを私の肩にかける。
*「やめてよ…大丈夫だから。私、今からホテル…」
J「大丈夫なわけないだろ?今何時だと思ってるの?こんな冷え切った身体して…」
彼の言葉を聞いて腕時計を見ると21時になろうとしていて、自分でも思いもよらない時間で驚いた。
*「こんな時間だったんだ…気づかなかった…。」
J「もう、バスもないしこの時間だとこの辺は田舎だからタクシーも通らないから街にはもう出れないよ。」
*「…え…嘘でしょ…。」
バスはダメでもタクシーは大通りに行けば通ると思っていた私の考えが甘かった。
J「はぁ…ねぇ…ウチ来る?」
彼は眉間にシワを寄せてため息混じりにそう言った。
あんなに嫌だと騒いでおきながら…今は野宿か彼の家に行くかの二択になってしまった。
J「ほら、寒くなってきたから行くよ。」
彼はまた、私の手からスーツケースを取り上げ私の手首を掴んで歩き始める。
*「ごめんね…」
私の言葉に彼はふっと笑って何も言わずに歩き続けた。
そこは昼間に訪れた印象とは全く違う別の建物のようになっていた。
月明かりに照らされてまるで、闇に吸い込まれそうで少し恐怖すらおぼえる。
そして、彼は慣れた手つきで門を開ける。
いつしか彼の手は私の手首から離れ手のひらに繋ぎ合わせられており、ひと肌の温もりを感じながら私もその背中について行った。
そして、また感じるなんともいえない懐かしさと安心感…さっきも感じたこれは一体なんなんだろうか?
玄関を開けると窓から月明かりが差し込み、震えるように冷たくて青白い空間が広がっていた。
彼がポチっと電気をつけて温かみを取り戻したリビングに私のトランクを置き彼は私をソファに座らせた。
J「ご飯は?」
*「大丈夫…。」
その返事とは裏腹にグゥ~と返事をする私のお腹。
J「ふふふ。パスタでいい?」
そう言って彼は立ち上がりキッチンへと向かった。
*「ほんとに大丈夫だから。」
J「でも、お腹はグゥ~って鳴ってるよ?」
*「いや、まぁそうだけど…」
J「いいから、座って待ってて。」
そう言って彼は腕まくりをし水道でジャーっと手を洗って料理をし始めた。
つづく
私は彼と歩いて来た道を戻りながら考える。
初めて会った瞬間の彼はとても楽しそうでイキイキしていた。
なのに、別れる前の彼はとても切なくて寂し気で…私の胸の奥がまたギュッと音を立てた。
気がつけば日も傾きオレンジ色に染まり始めた空。
私はまた、あの丘に戻った。
ベンチに座りあっという間にオレンジから闇に包まれる空をぼんやりと眺めていた。
いつの間にか月が現れて私を照らし出す…私の大っ嫌いな月が。
この丘は行くあてのない私にとって唯一、心地良く安らぐ場所。
夜風はまだ冷んやりとして身体が縮こまった。
そろそろ、街に戻ってホテル探さなきゃな…そう思って立ちがると後ろから声がした。
「…こんな時間までなんでここにいるんだよ…。」
半日前まではこの声の主が誰なのかさえ分からなかったのに今は振り返らなくても誰だわかる。
そして、その声の主は少し私に呆れた顔をしていた。
*「また、会ったね?今からホテル探しに行くところ~。じゃね。」
J「ちょっと待って。」
そう言って彼は自分が着ていたジャケットを私の肩にかける。
*「やめてよ…大丈夫だから。私、今からホテル…」
J「大丈夫なわけないだろ?今何時だと思ってるの?こんな冷え切った身体して…」
彼の言葉を聞いて腕時計を見ると21時になろうとしていて、自分でも思いもよらない時間で驚いた。
*「こんな時間だったんだ…気づかなかった…。」
J「もう、バスもないしこの時間だとこの辺は田舎だからタクシーも通らないから街にはもう出れないよ。」
*「…え…嘘でしょ…。」
バスはダメでもタクシーは大通りに行けば通ると思っていた私の考えが甘かった。
J「はぁ…ねぇ…ウチ来る?」
彼は眉間にシワを寄せてため息混じりにそう言った。
あんなに嫌だと騒いでおきながら…今は野宿か彼の家に行くかの二択になってしまった。
J「ほら、寒くなってきたから行くよ。」
彼はまた、私の手からスーツケースを取り上げ私の手首を掴んで歩き始める。
*「ごめんね…」
私の言葉に彼はふっと笑って何も言わずに歩き続けた。
そこは昼間に訪れた印象とは全く違う別の建物のようになっていた。
月明かりに照らされてまるで、闇に吸い込まれそうで少し恐怖すらおぼえる。
そして、彼は慣れた手つきで門を開ける。
いつしか彼の手は私の手首から離れ手のひらに繋ぎ合わせられており、ひと肌の温もりを感じながら私もその背中について行った。
そして、また感じるなんともいえない懐かしさと安心感…さっきも感じたこれは一体なんなんだろうか?
玄関を開けると窓から月明かりが差し込み、震えるように冷たくて青白い空間が広がっていた。
彼がポチっと電気をつけて温かみを取り戻したリビングに私のトランクを置き彼は私をソファに座らせた。
J「ご飯は?」
*「大丈夫…。」
その返事とは裏腹にグゥ~と返事をする私のお腹。
J「ふふふ。パスタでいい?」
そう言って彼は立ち上がりキッチンへと向かった。
*「ほんとに大丈夫だから。」
J「でも、お腹はグゥ~って鳴ってるよ?」
*「いや、まぁそうだけど…」
J「いいから、座って待ってて。」
そう言って彼は腕まくりをし水道でジャーっと手を洗って料理をし始めた。
つづく
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