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56話

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会長は何かを決めたかのように遠い目をしながら語り始めた。

会「あれは何年前になるだろうか…?ルリの母親とジユの父親は幼馴染みでね…ずっと幼い頃からそばにいるのが当たり前だったんだ。それが思春期になりお互いを男女として意識し始めてな…お互い惹かれ合うようになった。しかし、ルリの母親の家柄は決して良いとは言えなくてな…幼馴染として仲良くするのは良いが交際は許さないと私が言ったんだ。それでも2人は私に隠れて付き合っていたよ。それを見兼ねた私はジユの父親が高校を卒業してすぐ、婚約者として決めていたジユの母親と18歳の時に学生結婚を無理矢理させたんだ。それを知ったルリの母親はショックで荒れてな…あの子は変わってしまった。それから数年はお互い会っていなかったと思うが…私がそれをまた引き合わせてしまったんだ。ジユの母親は心身が弱く結婚後もなかなか身籠もらなかった。このままでは跡取りがいないままになってしまう…そう思った私がジユの母親の身代わりとして、ルリの母親に子供を産むよう話を持ちかけたんだ。子供ができればウチの家に本妻として迎え入れると。私としてはあんなに愛し合っていた2人ならすぐに子供に恵まれるだろうとそう簡単に思っていた。その時、もうすでにルリは3歳だったよ…シングルマザーとしてルリを1人で育ていた彼女にしたらまた、愛する人のそばにいれるそれだけできっと幸せだったのだろ…すぐに話を飲んでくれた。それから、二重生活が始まった。週の半分をルリの母親と…その半分をジユの母親と暮らすように。しかし、ジユの父親はルリの母親よりもルリを我が子のように可愛がり愛した。きっと、あいつも気づかぬうちに跡継ぎを作るプレッシャーから心が病んでしまっていたのだろう…その傷ついた心をルリ…キミが優しい笑顔で癒したんだろな。それからしばらく二重生活を続けてもどちらの母親も子供に恵まれなかった。その間もあいつはルリを可愛がり愛していた。それをいつしかルリの母親が妬むようになり…子供が出来ないのはルリが邪魔をするからだと言うようになって、ルリへ子供が出来ない苛立ちをぶつけるようになった。その辺りからかな…2人の関係が変わってしまったのは…
もう、この生活を終わりにしたい。そうジユの父親が言った後すぐ…ルリの母親の妊娠がわかった。私たちはその報告を聞いて大喜びをしたよ…しかも、お腹の中にいる子が男の子だと知って尚更。しかし、ジユの父親だけはずっと塞ぎ込んでいた。ルリの母親にはウチの病院で出産する事を勧めたが、実家近くの産婦人科で無事にトモキを出産したと報告を受けた。そのあとすぐ、ジユの母親もその事実を受け入れ離婚の話し合いを続けていた。そして、ルリの母親とルリ、そしてトモキを迎え入れる準備をしている時に事件がおきた。トモキが産まれて6か月ぐらいだったかな…母親が買い物に出かけている間、6歳のルリが1人でトモキと留守番をしていたんだ。その時…確かルリがトイレに行って目を離した数分の間にトモキが階段から落ちたんだ。ルリは慌てて父親である私の息子に電話をして、あいつが救急車を呼んで自分の病院に搬送するよう伝えたんだ。しかし、打ち所が悪くて幼い子供の体から大量の血が出てね…トモキは輸血が必要となったんだ。その時に…トモキの血液型をみてルリの母親がついた嘘が分かったんだよ。ルリの母親はA型、トモキの父親もA型。しかしトモキは…AB型。A型同士でAB型が産まれる確率は…ほぼない。その事実を知ってルリの母親にあいつはもう…愛想が尽きてしまったんだろな…それからほとんどルリの家へ行く事は少なくなりウチの家に受け入れる話もなくなった。そして、離婚せずにいたジユの母親が何度目かの人工授精でようやくジユを身籠り…ジユを無事に出産した時に…あいつは君たちの元を去ったんだよ。」

会長の目には薄っすらと涙が滲んでいた。

つづく
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