世界最強能力者にテンプレは存在しない

しのじい

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プロローグ

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現実」それは、俺にとっては決して優しくない、無慈悲なものだ。たとえ、どんなに「時よ止まれ」と願ったところで、時は休むこともなく一秒一秒を刻み続け、願いは空しいものに変わる。そう、まさに今の俺の状況のように。
 「なんでこんな朝っぱらから負のオーラを出しているのよ」
俯いていた俺は顔をあげ、幼稚園からの幼馴染―風間凪沙―を見る。
「今日は期末テストだから」
俺は端的にそう言うと、再び俯いた。すると、彼女はそれがどうしたと言わんばかりのすました口調で言った。
「そうよ。当たり前じゃない」
「あ~あ、これだから優等生は困るなぁ。あなたのようにテストで毎回学年トップを獲る人種には分からないかもしれませんがね、私のような中間層の人種にとって、定期テストは憂鬱なものなんですよ」
再び顔をあげて、そう言った。
 「あのねえ、誰が私みたいな人間にとってテストは憂鬱なものじゃないって言ったのよ。だいたい、私もあなたも同じ『人間』であることにかわりはないのよ。だから、あなたに得意不得意があるように、私にだって得意不得意はあるのよ」
真剣な顔で当たり前のことを言うので思わず吹き出してしまった。
 「ちょっと。何がおかしいのよ」
彼女は恥ずかしかったのか、顔を赤らめながら言った。
 「だって、凪沙が当たり前のことを言うから」
彼女は顔を赤らめたまま、そっぽを向いた。
 「得意不得意は誰にでもある、ただそれが勉学なだけっていうことを言いたいんだろうけど、俺の悩みの種はそれじゃない」
彼女はこちらにちらりと目を向けると、「じゃあ何よ」と小さな声で呟いた。
 「自信だよ」
そう言うと鸚鵡返しに「自信?」と言った。すると何かを理解した表情で小さく頷いた。
 「それなら私にも分かるわ。私の場合、これといって苦手教科はないんだけど、今回の範囲は数学が難しかったから数学はあんまり自信ないわ」
彼女的には質問の意図を汲み取れていると感じているらしいが、またしても彼女の答えは的を射ていなかった。
 「だから優等生は困るなぁ。あなたがたの『自信ない』と私たちの『自信ない』には違いがあるのですよ」
彼女は首を傾げながら、
 「違いって、点数のことには変わりないんでしょ?」
と、言った。
 「そうだなぁ。ま、確かにその通りではある。しかしね、私が話しているのは、レベルの話だよ。君はどんなことに自信がないのか詳しく言ってもらえるかな?」
 「そうね、九十点が取れるかどうかってところね。ていうかその偉そうな口調やめてもらえないかしら」
少々憤慨した声でそう言った。
 「フフフ、やっぱりね。じゃあ私がどんなことに自信がないのか言おうか。私はね…」
と、その時、続きは彼女の声によって遮られてしまった。
 「分かった!『平均点が取れるかどうか』でしょ?」
テンション高めの声で言った。
 「ぐぬぬ」
 「ほらぁ、やっぱり!」
 「あ~はいはい。その通りでございますよ、風間凪沙さん」
 「ちょっとぉ、なんで棒読みなのよ!ま、いいわ、それよりもっとこの風間凪沙を褒め称えたっていいのよ?」
彼女は分かりやすく図に乗った。
 「ウワァ、カザマナギサチャンスゴォイ」
図に乗った者には裁きを・・・という訳ではないが、単純に彼女の態度にイライラしたので、相手がイライラするよう棒読みで褒め称えてあげた。されて嫌なことは身をもって感じなければいけない。
 「だ・か・ら。なんで棒読みなのよ!気持ちのこもってない祝福なんていらないわ」
彼女はさっきよりも憤慨した様子だった。すると、感情を抑え、表情を変えた。
 「まあいいわ。それより、理由はそれだけじゃないのでしょ?」
と、彼女はわざとらしく微笑みながらそう言った。その言葉にトクンと心臓がはねる。動揺が悟られぬように無表情を精一杯保つ。が、それはすぐに水泡に帰した。
 「そうね・・。課題が終わってないってところかしら」
彼女の推理は完璧だった。彼女の言葉は深く俺の胸に突き刺さり、思わず呆けた眼差しを彼女に向けた。
 「あ~らぁ、もしかして図星ぃ?」
嘲笑と軽蔑の意が込められた間延びした声は、またしても俺の胸にさっきよりも深く突き刺さった。授業でろくに活躍ができない俺にとって、課題が提出できないことは、ソシャゲーにおいて、のどから手が出るほど欲しい超レアアイテムがログインだけで入手できるのにもかかわらず、ログインしないことに等しかった。
「そうです。そのもしかして、ですよ」
そう言うと、彼女は明るい声で言った。
 「全く、呆れるわ。それならそれで、少しでもやりなさいよ。終わってないとしても出したほうが成績的にはプラスよ」
その言葉が俺の胸に一筋の希望の光を射し、俺は素早く課題を取り出し取り組み始めた。
 

 「キーンコーンカーンコーン」
四時間目―つまり午前最後のテスト―の終了を告げる乾いたチャイムが校内に響き渡った。途端にそれぞれの生徒がそれぞれの思いを込めた声を漏らした。同じように深いため息を漏らした俺に凪沙が近づいてきた。が、表情を見ると、気持ちを悟ったのか何も言わずに立ち去り、給食の準備を始めた。テストは残すところ社会のみ。俺は気合を入れると、立ち上がり、給食の準備を始めた。
 テストは微妙な手ごたえを残して全て終了した。恐らくテストが返却されるたびに一喜一憂することになるだろうが何はともあれ、テストを乗り切った自分にまずは「お疲れ様」と言いたかった。


 下校はいつも幼馴染である、風間凪沙と宮ノ内深磁―どちらも成績優秀―とする。
いつもは学校で起きたことなど他愛のない話をするのだが、今日はテストがあったため、やはり話題はそれで持ちきりだった。俺とてテストが全く気にならない訳ではないのだが正直、早く過ぎ去ってほしい出来事であり、会話の中での、あの問題の答えは○○だの、簡単だっただのを聞いていけばいくほどに自信を無くしてしまうので気乗りはしなかった。しかし、用事があるからすぐ帰るわ、などとは言えないのでごく自然に受け流していた。
しかしながら、長すぎる。何が長いのかというと、そう、下校時間だ。下校時間が長いとなると伴って登校時間も長くなる。しかし、通学路は坂になっていて、登校時は坂を下ることになるのでそこまで距離や時間は気にならない。が、ただでさえ長い通学路に登り坂、というデスコンビのお陰で、下校時はそれらを感じざるを得ない状況になっているのだ。それは、易々と友を置き去りにして一人で帰らない理由の一つでもある。
  俺は中学二年なのでもう一年以上は同じ通学路を往復していることになる。一年生の春と比べれば多少は慣れてきてはいるものの、決して楽しいものではない。
俺が通う中学校は一般的な市立中学校だ。その付近に小学校が二校あるため、二校の出身生徒が通っている。俺たちの出身校は中学校から、もう一つの小学校と比べて、遠くにある。距離としてはなだらかで小さな山を越えるくらいだろうか。勿論、整備された道であるのだが。
 そして俺たちの家があるのは本当の山の上にある。そう、この山の坂こそが、下校の最後の難関なのだ。
 正直な話、両親がここに家を買ったことを恨んだりしていた時もあったのだが、それを嘆き訴えたところで何かが変わる訳でもないので口に出したことはない。また、この場所に住んでいたからこそ出会えた仲間たちも多くいる。そんなことを考えると現時点で得られたもののほうが多いので、今では、むしろ運命に感謝したりもする。
 「早耶はどう思う?」
どうでもいいような妄想をしていると、不意に凪沙の声が聞こえた。どうやら話を振られたらしい。しかしながら、どうでもいい妄想を巡らせていた俺には、なんの話題なのかがさっぱり分からない。いつもなら適当に考えたフリをして話を忘れてしまった、という状況を装うのだが、今回は少しばかりチャレンジをしてみることにした。そう、『適当に話したら意外と聞かれたことに答えられるのでは?』という、超絶しょうもないチャレンジだ。しょうもないことを分かっているからこそやる意味がある気がしたので、やってみようと思う。
  さて、俺が妄想する前まではテストについて話していた。それからもう十五分ほど経っている。つまり、今もテストの話をしている可能性は低いだろう。
また「どう思う?」との聞き方だったことから、意見を求めている可能性が高い。そして、この俺でも意見できる内容だとすれば、少なくとも、現在の政財界の状況などについてではないと考えられる。
これらから導き出される答えは…『凪沙と深磁のどちらが次期学級委員に適任か』ではないだろうか。今期も末であるから割とタイムリーな話題のはずだ。そして何より、この話題について昨日凪沙と話したばかりだからだ。あとは聞いていなかったことがバレないように上手く取り繕えるかどうかだ。
「んん~。そうだな。やっぱ深磁かな~」
この絶妙な延ばし加減、かなりいい感じに取り繕えているはずだ。まさに、自然体。あとは質問の内容が合っているかどうか…なのだが…。
「なあに言ってるのよ、早耶君」
凪沙が明らかに『何言っているのですか?』という顔をした。この反応から導き出される結論は、全く見当はずれだった、ということだ。
「聞いてなかったなら、はっきり『ごめん聞いてなかった』って言えばいいのよ。そんなことでわざわざ怒ったりしないから」
残念ながら、超絶くだらないチャレンジは、あえなく失敗に終わってしまった。凪沙が言うように謝ればいいのだが、なぜかその気になれなかった。くだらないプライドには、自分でもうんざりすることがある。考えてみれば相手は幼馴染みなので、隠したり、飾ったりする必要は全くないのだった。いや、幼馴染だからこそ、とでも言うべきだろうか。
「じゃあ、何と言ったのでしょうか?」
「『今回のテストで何点くらい取れそうか』よ」
どうやらまだ、テストの話は続いていたようだ。己の洞察力の無さに少々がっかりするものの、落ち込んでいる場合ではない。今は、きちんと質問に答えなければならない。
「そうだなぁ~。正直、どの教科も自信ないから、平均点ってところかな」
平均点に並ぶ、ということは、凪沙にとってはありえないことかもしれないが、さすが幼馴染、というべきだろうか。芳しいとは言えない結果ではあるが、全く動じる様子はなかった。もっとも、すぐにでも「ええっ?大丈夫?」などと心配してくれてもいのだが。
 凪沙は「そう」と言って一息つくと、
「それで、前回よりも良さそうなの?それとも…」
と言った。全くもって心配していないわけではないらしい。
「はっきりとは分かんないけど悪くはない…はず」
「それならまだいいわ」
凪沙は安堵した表情で言った。「まだいいわ」の真意が気になるところではあるが、棚に上げて、しっかりと話を聞くことにした。
 さて、同じ住宅地に家があるだけの話で、三人の家が隣り合ったりしている訳ではないので、途中で一人一人別れていくことになる。坂からは、深磁、凪沙、早耶という順でだんだんと遠くなっている。なお、凪沙と早耶の家は比較的近くにあり、坂を登りきった所のすぐ目と鼻の先に深磁の家があるため、坂を登りきってからは実質、二人で下校することになる。
 今日もいつも通り無事に帰宅した早耶は、食事と風呂という最低限のことを済ませるとすぐにベッドに入った。決して現実逃避がしたかったのではない。理由は至極単純、疲れていたから、だ。
 目を閉じた途端、夢へ誘われるような、妙な加速感を覚え…。
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