割れ鍋に綴じ蓋

宮沢ましゅまろ

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「で、二人とも何で今更よりを戻したいなんて言いに来たんだ? ラントもディアンもらしくないんじゃないか?」

 ルリの言葉に、ラントとディアンはダンをちらりと見た後、ゆっくりと口を開いた。

「……お前が幸せに暮らしているなら俺も出てくるつもりはなかったし、諦めるつもりだったんだ。事情はあったけど、お前を裏切って傷つけたのは事実だ。新しい恋人と幸せなら、俺が出る幕じゃない。けど、ホテルから出てきた後に男に金を渡してるそいつを見て……お前が騙されているんじゃないかってそう思って……!」

「私も同じようなものだ。そんな奴よりは、私の方が君を幸せにできると」

 ラントの言葉に、ルリは「ああ、なるほどな」と納得する。

 今でこそ卵のために不特定多数の相手と関係を持っているルリだが、地球人の貞操観念は他の星の種族と比べどちらかと言えば保守的だ。卵のためにはルリの中で射精をしてもらう必要があるが、性病などの心配もあるし、生でやってくれるという相手は中々いない。病気ではないという診断書を出すと言っても、断られることも多いのだ。

 しかし、普通に考えて、中出しを執拗に迫ってくる相手は怖いし避けるのが当たり前だろう。まれに、何も考えていないような男もいるにはいるが、そういうタイプにはヤバ目な人種が多いのでルリとしては避けたいところだった。

 そうなってくると方法は限られてくる。金を払って、抱いてもらう。それがあと腐れもなく、一番安全な方法だった。

「あー……」

 二人の言動は、今までの行いを考えると中々に自分勝手なではあるのだが、一応はルリのことを想って言ってくれているようだ。そうなると、さすがにあまりきついことも言いにくい。ルリは言葉を探しながらも現在の状況を二人に説明した。決して無理強いされている訳ではないこと、卵のこと、卵のために不特定多数と関係を持っていること、順序立ててすべての話をすると、心なしかラントとディアンの表情は穏やかなものへと変わった。

「……そうか、なら良いんだ」

「押し掛けてすまなかった」

「え、引き下がれるんだ」

 何故か勝手に納得している二人に、ルリは思わず呟いてしまった。もしかすると、ルリを非難することもあるのでは? と構えていたのに、この様子を見る限りその心配はなさそうだが……。

「普通、引かない? 俺、結構えぐいこと言ってるんだけど」

 ルリが言うと、ラントはどこか諦めた様子で笑う。

「そう、だな。確かに変わった、とは思う。でも、お前が納得して付き合っているなら、部外者が口を出すことじゃないだろ?」

「私も、ルリが幸せならそれで良いと思っている。少し驚きはしたが……」

 その言い方から察するに、二人はまだルリのことが好きなのだろう。二人が好きなのは昔の純粋なルリだとばかり思っていたが……あけすけな現状を聞かされても幻滅しないのは相当だ。
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