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1章 怪異・不可思議
34「半身」
しおりを挟むある主婦の方から聞いた話。
彼女が旦那と子供を連れて実家に里帰りした時の事。
夫は都会生まれで、田舎に来る事を嫌がる事もなく、
むしろ満喫していた。
「よく1人で山や沢の方に出かけちゃって。
子供はまだ小さいから目が離せないし、
両親は孫にべったりだし。
今思えば、気を使ってるのもあったんでしょうけど」
しばらく散歩でもしてきます、と言って出かける夫に、
義父である彼女の父は必ず声をかけた。
「何か危ない目にあったら、川を飛び越えて
帰ってくるんだぞ」
その意味はわからなかったが、いつもいつも言っている
事なので何か習慣かそういうものなのだろうと、勝手に
納得していた。
そうして両親、そして自分の子と3代水入らずの時間を
過ごしていると、夫が今まで見た事も無い形相で家に
駆け込んできた。
「み、水を」
慌てて水をコップに一杯くんで差し出すと、
それを一気に飲み干した。
何があったのか聞くと、一言一言思い出すように
声を絞り出した。
「半分、半分の女が」
言っている事がわからず母親と顔を見合わせたが、
ただ1人父親だけが顔色を変えて玄関へと走っていった。
「……いねえ。おい、ちゃんと川飛び越えて
きたのか?」
その問いに夫はガクガクと首を縦に振る。
「そっか。それなら大丈夫だ。
もう心配するな」
あっけに取られる3人を横目に、その輪の中心にいた
子供を彼はあやし始めた。
「後で夫に聞くと、沢を散歩している時に
女の人に……
出会ったというか、いきなり背後に現れた、
と本人は言ってました」
後ろを振り向くと、視界の隅には入ってくるのだが、
必ず背後に回りこんでくる。
長い髪がたなびき、その下に着物の裾のようなものが
映り込む。
それ以外何かされるでも無いが、人気の無い沢で
こんな事をしてくる事自体、それがまともな存在では
ない証明でもあった。
「とにかく逃げても動き回っても、必ず背後に
回り込むんだって。
その時、父にいつも言われていた言葉を
思い出したらしいの」
目の前の川に足を入れ、急ぎ足で対岸へと向かった。
と、その時初めて視界の隅から女が消えた。
対岸まで来ると、女が川の向こう側で立ち止まっている。
「美人だったって……
こんな時まで男っていうのは、って母と一緒に
あきれてしまいましたけど」
しばらく見ていると、女が川の中へ足を入れた。
「お、く、う」
何の変哲も無い、せいぜい水深2、30cmくらいの
川の中で、その女は苦痛で進めないといわんばかりに
うめいていた。
とにかく足止めにはなっているらしい。
だが家は反対側なので川を渡らなければ帰れない。
しかしあの女がいる川には入りたくない。
少し上流の方に橋があったはず、そこを渡れば、
と思ってそちらへ目を向けた瞬間
「バシャンッ、て水の音がして。
で、思わず女の方をまた見てしまったんです」
あの女が倒れていた。
真横に。
その半身を川面から出して、片目で彼をにらみつけて
いたという。
もうまともな存在では無い事はわかっている。
早く上流に行こうと走りかけたその時―――
「起き上がった……
夫の言葉を借りれば、まるで横になっていた棒が
ひとりでに立ち上がったようだったって」
そして、その立ち上がった女には川に入っていた
半分が無かった。
その半分になった口から、またうめき声。
「はぅ、ぐ、ひぃ」
その後は叫び声を上げて、上流の橋を渡ってそのまま
家に駆け込んだという。
母と2人で信じられない話に戸惑っていると、父が
笑いながら口を開いた。
「そこまで追いかけられたとはなぁ。
よほど気に入られたんだなぁ、お前」
あれは何なのか夫が聞くと、基本的に男だけを
追いかけてくる、女には害は無い(というか見えない)、
流れている水は渡れない、と言った。
「あれは一体何なんですか?」
「神サマ、とまでは言わんけど、まぁ山に住む何かと
思えばいい。
今のところ、人取って喰ったっていう話は
聞かんから」
父は終始カラカラと笑っていた。
「でも、今までそんな話聞いた事も無かったし、
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もしかしたら、出来ちゃった婚なのを根に持って
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