【完結】百怪

アンミン

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1章 怪異・不可思議

58「先回り」

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地元の会社に勤めているというOLの方から

聞いた話。




「元々、上京して都市部の会社に

 勤めていたんですけど」




入社して2年目、いきなりの異動命令が下った。

それが彼女の場合は地元で、

“こういう事もあるのかなあ”と思ったという。




「都会の便利さに慣れたのもあって、

 正直嬉しさと寂しさが両方ありましたけど」




とはいえ、やはり地元に戻れるのは嬉しい。

しばらくは実家から通うから、と伝えると

両親は喜んで迎えてくれた。


その年の6月、お正月で里帰りしてから半年ぶりで、

彼女は最寄の駅に降り立った。

予め荷物は郵送してあり、文字通り身一つの

帰郷である。

と、駅のホームから白い物が見えた。




「ありゃ、チコ。

 迎えに来てくれたの」




それは彼女の実家で飼っていた、柴犬の雑種の

メスだった。

白い毛並みのしっぽをブンブン振り回して、

彼女がホームから出てくるのを待っている。




「実は、いきなり帰って両親を驚かそうと、

 連絡はしてなかったんですよ。

 その時は

 “動物のカンなんだろうなあ、スゴイなあ”

 って思って」




彼女も嬉しさのあまりホームを飛び出すと、

そこにチコはいなかった。

あれ? と思って見回すと、5メートルほど

先の曲がり角でこちらを見ている。

足を進めると、その角へさっと消えた。

それは、よくチコが散歩の最後に取る行動で、

よく困らされたものだった。




「こいつめ~とか思って追いかけて。

 でも、角を曲がるとまた先の方にいるんですよ。

 面白くなっちゃって、それで家まで

 走らされちゃって……」




家に着くと、父親は仕事で留守だったが

驚いた母親が出てきた。

“ちゃんと連絡しなさい!”

と怒られた後、いそいそと母が料理を作り始める。

久しぶりの手料理と期待しつつ、台所に立つ母に

先ほどチコの事を話した。




「でもチコはやっぱり犬だね~。

 アイツ、話さなくても迎えに来たよ」




その事には応えず、会社での様子とか、

まだ恋人はいないの等、逆に母からの質問が続いた。

やがて出てきた料理に舌鼓を打ちつつ、話が再び

チコの話題になると―――




「あのね、お前が悲しむから帰ってくるまで

 話さないでおこうと思ってたんだけど……

 チコ、もういないのよ」




元々が老齢であったが、5日ほど前に容態が悪化して、

その日の夜に死んだという。

リビングから外庭を見ると、主を失った小屋が

彼女の目に入った。




「でも、生きている時みたいに走って何度も

 先回りしてたよって言ったら、

 “もう立てないほど衰弱してたんだけどねぇ、

 元気になったんだね、良かったねぇ”

 って。

 もう死んでるのに、元気も何もないって」




そう話す彼女は少し鼻声になっていた。

今、実家には柴犬の男のコがいるそうだ。



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