90 / 300
1章 怪異・不可思議
90「酒」
しおりを挟むとあるボランティアで行った、老人ホームの男性から
聞いた話。
彼が子供の頃と言っていたから、年齢からして、
戦後間もない頃だと思う。
「当時は、ペットボトルとかいうものは
なかったからな」
お酒を運ぶのは一升瓶か、徳利とわれるモノ。
両方とも“割れもの”で、その持ち運びには
神経を使った。
「あの頃は、何でも貴重でね。
落として割ったりしたら怒られるなんてモンじゃ
済まなかった」
ある時、家で父親とその知人が酒を飲む機会が
あった。酒が進み、足りなくなったお酒を
買いに行けと言われたが―――
「その時の田舎の夜っていうのは本当に
真っ暗闇なんだ。
月が明るいって感じるんだからさ」
夜道は怖いが、父親のコブシはもっと怖い。
彼は空の一升瓶を持って、それに酒を注いで
もらうため、酒屋へと向かった。
両側に田んぼだけの、何もない一本道を歩いていると、
背後に気配を感じた。
振り返ると、そこには大きな影が月を背後にして
立っている。
「何というかな、すごい大きな猿だった。
ただ、そいつの目がなぁ」
鼻の上にたった一つ、大きな目がギロリと
こちらをにらんでいた。
ひっ、と息を飲むと、ゆっくりとこちらへ
近付いてくる。
彼は一升瓶を抱きかかえながら、後ずさりして
距離を開けようとするが、それに合わせるように
猿も歩みを進める。
「それで、いつも親父がちょっとした傷なら、
お酒を吹き付けて治しているのを思い出して」
一升瓶のフタを開けて、少し手の平に流すと、
そいつに向かって投げつけた。
「逆効果だった」
その猿は飛び散ったお酒を地面に顔を付けて
舐め始めた。
どうやら、目当てはお酒だったらしい。
しかし、持って帰らなければ父親に酷く叱られるのは
目に見えている。
結局、彼は後ずさりしつつお酒を散らしながら、
猿をやり過ごす事にした。
やがて集落の明かりが近付いてきた頃―――
「ふっ、て消えちまったんだ。
どこかに行くでもなしに、目の前で」
彼の手には半分まで減ったお酒が残っていた。
怒られるだろうが、それでも全部無駄にしなかっただけ
マシか、などと考えながら家の扉を開けた。
当然、父親は激怒したが、それでも彼は今起きた事を
話すと、一緒に飲んでいた知人が父親を止めた。
「とにかく明日の朝まで待て、みたいな事を
言っててさ。
何かワケがわからんかったが」
翌朝、家の前に大小の山芋が積まれていた。
中にはアケビやビワもあり、家族はそれを見て
ポカンとしていたという。
「その知人はマタギでね。
アイツが何か、知ってたんじゃないかな」
死ぬ前に、もう一度あの猿に会いたいと、
彼はお茶をすすりながらつぶやいた。
0
あなたにおすすめの小説
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/3:『おかのうえからみるけしき』の章を追加。2026/1/10の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる