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3章 怪異にまつわる雑談・雑考
10「回収」
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・力の有限性について
――――――――――――――――――――――――
お寺で修行している知り合いの話。
百怪15話「お返し」で―――
神様から『少しは返して差し上げなさい』と
神から言われたという話があったが、
「神様の力って……
限りというか、限界があるんですかね?
まあ、話の趣旨とは異なるけど―――」
彼が同僚と意見を交わし合っていると、
師匠が入ってきた。
そこで、神様の力や非現実的な力に限界は
あるのか、そういう議論になっていたと
話すと、
「そういうところはまあ、あるかもな」
そして師はある出来事を話し始めた。
特定の宗教や、戒律の厳しいところでなければ、
他の教団と交流している仏教系は多い。
先日、師はF県のある神道系の教団へ会合に
行ってきた方から、こんな話を聞いたという。
「その地方では結構大きい教団だった。
始まりはここ100年ほどと新しいようだが」
県内各地に10箇所以上の支部を持ち、
それぞれ30人程度の信者を抱えていた。
師が行ってきたのは本部だったが、そこの
幹部クラスの人間から聞いた話らしい。
「彼に言わせるとな。
『神様の力ってね。無限じゃないんだ。
あれは有限なんだよ。
仏教はどうなってるか知らないけど』
そんな事を言っていた」
そこのある支部に、1人の青年がいた。
青年は真面目に支部に通い、たいていの
ボランティアや手伝いを引き受けていた。
「その時の、そこの支部長が―――
当時40過ぎの女性だったらしいが」
元々青年が大人しいという事もあってか、
事ある毎に青年を使うようになった。
教団が主催するバザーやチャリティー、
果ては個人的に支援している議員の選挙まで
手伝わせるようになっていった。
「何ていうかな。声がでかくて図々しくて、
遠慮するような場面で平気で要求すると
いうか……」
誰もまとめ役を遠慮したために、支部長に
なったような人物だった。
遠慮無く他人に命令出来るような性格だったので、
イベント等では取り合えず“重宝”されたという。
「その人曰く―――
『しょせんは素人の集まりだからね。
ああいう人もいなくちゃ、とは思って
いたんだけど、間違いだったねえ』
だと」
ある時から、真面目に手伝いをしていた青年が一切
口を利かなくなった。
支部、施設には顔を出すのだが、他の信者と
会っても無言で通り過ぎる。
また、行事で配られるお菓子や粗品を一切
受け取らなくなった。
親しくしていた信者が何とかなだめて話を
聞き出したところ―――
ここ数年生活苦で悩んでいたが、先日生活破綻
したという。
『その青年……7年近くいたから、もう
30を越えていたけど、びっくりして』
通常、そういう悩みがあれば信者が人脈なり
何なり用意して、助けようとする。
しかも彼はずっと文句も言わず手伝い続けて
くれた人間である。
破綻するまで放っておいたというのは、宗教
うんぬん以前に人としてどうなのか。
そんな状態になるまで誰も彼を助けようと
しなかったのか、教団で問題になった。
そこで幹部は支部長に問い質した。
特に彼女は知り合いの選挙にまで青年を
駆り出している。
彼女は答えた。
『あー、何度か相談受けたけどね。
ちょっとタイミングが合わなくて。
あの子も運が悪いのよねぇ』
“運が悪い”、で7年近く一切人脈を
使わなかったという答えは、不信感を
あおった。
さらに他の信者から聞くと、その青年のために
という理由で、何度か支部長から人脈や紹介を
頼まれたという。
『後で調べたらね。それ全部自分のコネに
使っていたんだよ。
その青年を徹底的に“ダシ”にしていた
わけだ』
その事を突きつけても、
“その時は連絡が取れなかったから、他の
困っていた人間に使っただけ”
とか、
“他の用事に追われていた、その青年だけ
相手にしているわけにはいかない”
と悪びれる様子も無い。
さすがに心ある人が、今からでもいいから
何かしてあげれば、と諭したが、
『でも、口きいてくれないんでしょ?
いいじゃないのよ、放っておけば。
信者はあの子だけじゃないのよ、私は
忙しいの』
そう言って開き直った。
異変は、その年の暮れに起きた。
その支部長が青年をダシに手に入れたコネで、
自分の知り合い(信者ではない)を方々の会社や
公務へ就職させていたのだが、
「彼女が紹介した人材が、職場で次々と
問題を起こしたらしい。
元々勤務態度も良くなかったらしいが」
全部で6人ほど紹介していたのだが、それら全員が
問題を起こし、警察沙汰にまでなっていた。
中には、女性に乱暴したというものまであった
という。
『知り合いの議員に、警察に手を回して
もらおうとしたけど、その議員に紹介した
職員まで問題起こしていたらしいからね』
さらに年明けて翌月、彼女の家が全焼した。
保険に入ってはいたが、その契約書の更新は
彼女が手続きを忘れていたため、1週間ほど
空白期間があった。
火災があったのはまさにその期間で、書類は
揃っていたものの、空白期間は保障されて
いないと保険会社と裁判になった。
結局保険金が支払われたのは半年後。
その間、家族とアパートで暮らしていた彼女は
椎間板ヘルニアを発症し、支部長の辞退を病院の
電話から連絡してきたという。
一方の青年はというと―――
生活苦からしていた借金が、もう払えないという
ところまで追い込まれていたが、その限界という
月に利息法が改正され首の皮がつながった。
次の月に勤めていた会社の取引先から要望され、
転職と同時に収入UP。
今では、小規模のプロジェクトチームを
任されるほどになった。
その後、支部の信者と普通に会話するように
なったが、件の前支部長に対しては、
『顔も見たくない』
と会うのを拒絶しているという。
『他の信者から“事情”を聞いただろうし、
まあ仕方無いけどね。
……直接“返す”機会が無い以上、多分
まだまだ終わらないよ』
神様が、彼女の運とか何かを、青年に持って
いったという事ですか? と彼が師に聞くと
「ぶっちゃけて言えばそういう事なんだろうな。
罰とかそういうんじゃなくて、最初にその人が
言った通り、神様の力は“有限”だから。
だから青年を助けようとした時、足りないから、
全然借りを返そうとしない前支部長から回収して
いったんだろうと―――
あそこじゃそういう事になっているようだ」
ううむ、と全員が黙り込むと―――
彼だけが口を開き、
「でも、仏教の考えではありませんよね?」
という問いに対し、
「どうだろうなあ。
仏の顔も三度まで―――
という言葉もあるしなあ」
師の答えに、彼を含め同僚全員が苦笑した。
――――――――――――――――――――――――
お寺で修行している知り合いの話。
百怪15話「お返し」で―――
神様から『少しは返して差し上げなさい』と
神から言われたという話があったが、
「神様の力って……
限りというか、限界があるんですかね?
まあ、話の趣旨とは異なるけど―――」
彼が同僚と意見を交わし合っていると、
師匠が入ってきた。
そこで、神様の力や非現実的な力に限界は
あるのか、そういう議論になっていたと
話すと、
「そういうところはまあ、あるかもな」
そして師はある出来事を話し始めた。
特定の宗教や、戒律の厳しいところでなければ、
他の教団と交流している仏教系は多い。
先日、師はF県のある神道系の教団へ会合に
行ってきた方から、こんな話を聞いたという。
「その地方では結構大きい教団だった。
始まりはここ100年ほどと新しいようだが」
県内各地に10箇所以上の支部を持ち、
それぞれ30人程度の信者を抱えていた。
師が行ってきたのは本部だったが、そこの
幹部クラスの人間から聞いた話らしい。
「彼に言わせるとな。
『神様の力ってね。無限じゃないんだ。
あれは有限なんだよ。
仏教はどうなってるか知らないけど』
そんな事を言っていた」
そこのある支部に、1人の青年がいた。
青年は真面目に支部に通い、たいていの
ボランティアや手伝いを引き受けていた。
「その時の、そこの支部長が―――
当時40過ぎの女性だったらしいが」
元々青年が大人しいという事もあってか、
事ある毎に青年を使うようになった。
教団が主催するバザーやチャリティー、
果ては個人的に支援している議員の選挙まで
手伝わせるようになっていった。
「何ていうかな。声がでかくて図々しくて、
遠慮するような場面で平気で要求すると
いうか……」
誰もまとめ役を遠慮したために、支部長に
なったような人物だった。
遠慮無く他人に命令出来るような性格だったので、
イベント等では取り合えず“重宝”されたという。
「その人曰く―――
『しょせんは素人の集まりだからね。
ああいう人もいなくちゃ、とは思って
いたんだけど、間違いだったねえ』
だと」
ある時から、真面目に手伝いをしていた青年が一切
口を利かなくなった。
支部、施設には顔を出すのだが、他の信者と
会っても無言で通り過ぎる。
また、行事で配られるお菓子や粗品を一切
受け取らなくなった。
親しくしていた信者が何とかなだめて話を
聞き出したところ―――
ここ数年生活苦で悩んでいたが、先日生活破綻
したという。
『その青年……7年近くいたから、もう
30を越えていたけど、びっくりして』
通常、そういう悩みがあれば信者が人脈なり
何なり用意して、助けようとする。
しかも彼はずっと文句も言わず手伝い続けて
くれた人間である。
破綻するまで放っておいたというのは、宗教
うんぬん以前に人としてどうなのか。
そんな状態になるまで誰も彼を助けようと
しなかったのか、教団で問題になった。
そこで幹部は支部長に問い質した。
特に彼女は知り合いの選挙にまで青年を
駆り出している。
彼女は答えた。
『あー、何度か相談受けたけどね。
ちょっとタイミングが合わなくて。
あの子も運が悪いのよねぇ』
“運が悪い”、で7年近く一切人脈を
使わなかったという答えは、不信感を
あおった。
さらに他の信者から聞くと、その青年のために
という理由で、何度か支部長から人脈や紹介を
頼まれたという。
『後で調べたらね。それ全部自分のコネに
使っていたんだよ。
その青年を徹底的に“ダシ”にしていた
わけだ』
その事を突きつけても、
“その時は連絡が取れなかったから、他の
困っていた人間に使っただけ”
とか、
“他の用事に追われていた、その青年だけ
相手にしているわけにはいかない”
と悪びれる様子も無い。
さすがに心ある人が、今からでもいいから
何かしてあげれば、と諭したが、
『でも、口きいてくれないんでしょ?
いいじゃないのよ、放っておけば。
信者はあの子だけじゃないのよ、私は
忙しいの』
そう言って開き直った。
異変は、その年の暮れに起きた。
その支部長が青年をダシに手に入れたコネで、
自分の知り合い(信者ではない)を方々の会社や
公務へ就職させていたのだが、
「彼女が紹介した人材が、職場で次々と
問題を起こしたらしい。
元々勤務態度も良くなかったらしいが」
全部で6人ほど紹介していたのだが、それら全員が
問題を起こし、警察沙汰にまでなっていた。
中には、女性に乱暴したというものまであった
という。
『知り合いの議員に、警察に手を回して
もらおうとしたけど、その議員に紹介した
職員まで問題起こしていたらしいからね』
さらに年明けて翌月、彼女の家が全焼した。
保険に入ってはいたが、その契約書の更新は
彼女が手続きを忘れていたため、1週間ほど
空白期間があった。
火災があったのはまさにその期間で、書類は
揃っていたものの、空白期間は保障されて
いないと保険会社と裁判になった。
結局保険金が支払われたのは半年後。
その間、家族とアパートで暮らしていた彼女は
椎間板ヘルニアを発症し、支部長の辞退を病院の
電話から連絡してきたという。
一方の青年はというと―――
生活苦からしていた借金が、もう払えないという
ところまで追い込まれていたが、その限界という
月に利息法が改正され首の皮がつながった。
次の月に勤めていた会社の取引先から要望され、
転職と同時に収入UP。
今では、小規模のプロジェクトチームを
任されるほどになった。
その後、支部の信者と普通に会話するように
なったが、件の前支部長に対しては、
『顔も見たくない』
と会うのを拒絶しているという。
『他の信者から“事情”を聞いただろうし、
まあ仕方無いけどね。
……直接“返す”機会が無い以上、多分
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神様が、彼女の運とか何かを、青年に持って
いったという事ですか? と彼が師に聞くと
「ぶっちゃけて言えばそういう事なんだろうな。
罰とかそういうんじゃなくて、最初にその人が
言った通り、神様の力は“有限”だから。
だから青年を助けようとした時、足りないから、
全然借りを返そうとしない前支部長から回収して
いったんだろうと―――
あそこじゃそういう事になっているようだ」
ううむ、と全員が黙り込むと―――
彼だけが口を開き、
「でも、仏教の考えではありませんよね?」
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