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3章 怪異にまつわる雑談・雑考
95「原稿」
しおりを挟む・現代怪談話・伝聞
――――――――――――――――――――――――
とある出版社に勤める初老の男性の話。
「今の子は信じられないかも知れないけどねぇ」
昔、作家というのは基本的に手で書く
職業だった。
なので悪筆だったり、字が汚いと読めない
場合も多々あったという。
「それでね、売れっ子になると清書したり、
口述筆記の担当がついたりするんだ。
某有名俳優のお兄さんだった作家なんて、
無茶苦茶字が汚いんで有名だったしね」
そして書かれる原稿は当然手書き、
生原稿である。
今みたいにデータベース上に保管なんて
出来ない。
なのでその保管・管理は大変神経を
使ったという。
「書籍化してしまえばまあ、元の原本は必要
なくなるんですけどね。
それでも扱いはおろそかに出来ません
でしたよ」
それでも何せ紙だからかさばり、数年に一度は
廃棄処分にする。
その時も机にお神酒やお供え物を用意し、
出版社の社員全員が集まって頭を下げてから、
処分していた。
「でね、いつも通りもう処分するかって
なった時にね」
生原稿を積み上げ、社員全員でペコリと一礼
した時、女性社員が「あっ」と声を上げた。
「見ると、一部の原稿から煙が上がって
いたんだよ。
『火事か!?』とみんな一瞬で身構えてねえ」
何せ昔の出版社、商売の元となるのは全て
紙なのだ。
慌てて社長は煙が上がっている原稿を探したが、
「わしがそれを手に取った途端、煙は消えた……
見えなくなったというのかな。
それに何かを燃やすような匂いもまったく
しなかったし、仕方がないからいったん
その原稿を除いて処分したんだ」
問題の原稿を書いた著者はすでに亡くなって
おり、彼もその葬式に参列した記憶があった。
その著者は事故死でまだ若く、何か無念でも
あったのだろうかと、その遺族に日記や書置きを
確認させて欲しいと頼んだところ、
「どうもその原稿で、納得いっていない
部分があったらしいんだよねえ。
その改訂版を書き残していたみたいで、
それを再版させて欲しいと遺族に頼んだんだ」
遺族の方からOKをもらい、改定版を出す運びに
なった。
その後に問題の原稿ごと処分する際には、何も
起きなかったという。
「物というのはその人間の執念とか、思いが
乗りうつるものだからねえ」
ネット全盛期になったけど、今のデータベース
とかはどうなるんだろうなあ?
そう言って老人は笑った。
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