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156・聖教会の暴走
しおりを挟む「はい? 今なんと……」
ダンジョン:【エンテの街地下】―――
そこの管理者部屋で、
【聖女様の部屋地下】から緊急連絡を受けた俺は、
その内容に思わず聞き返していた。
『私が親しくしている神官からの情報です!
聖教会単独で、魔族領に攻め込む準備を
しているとの事で……!』
聖女・武田裕子さんは聖教会の内部に
協力者がいるというのは聞いていた。
またその人物は、彼女がその人の娘を助けた事が
きっかけで、信頼されているとの事で―――
かなり情報の確度は高い。
「すいません、詳しくお願い出来ますか?」
俺は改めてモニターの向こう側にいる女性に、
説明を促す。
『魔族領と取引きしている闇商人からの情報で、
クーデター後、領内がごたついているとの話を
入手したようなのです。
さらに、クーデターで魔王メルダを追放した
現魔王に不満を持つ者も多く……
今クレイオス王国が攻め込めば、彼らも同調
するだろうと』
「いやいやいや!
魔族領の誰かと結んだ密約でもあるのか!?
聞いておる限り、全て噂を元にして行動を
決意したとしか思えんのだが!」
俺の隣りで元魔王の少女が、肉食獣のような
縦線の瞳をさらにつり上げながら反応する。
『メルダさんの仰る通りだと思います。
確たる魔族の協力者も無く、ただ魔族領が
混乱している『だろう』との前提の元、
聖教会は動こうとしているのです』
武田さんの言葉に俺は頭を抱え―――
そんな俺を薄黄色のセミロングの髪を持つ妻が
なだめてくる。
「お兄ちゃんの仲間……
ゆ、勇者の方々は?」
リナが俺の代わりに質問すると、
『今のところ、聖教会からは何もありません。
というより王国の意向を無視して、私たちを
無理やり動員するのは不可能でしょう』
「という事は聖教会単独で魔族領を攻略する
算段があるって事か……?」
俺はメルダにちら、と視線を送ると、
「前の侵攻の時は、クレイオス王国の国軍と
聖教会、その合同軍を退けているのだぞ?
肝心の勇者もいないのであれば―――
あの兄上がよほどの事をやらかさない限り、
まず勝ち目はあるまいて」
その答えに、聖女様は眼鏡を押さえたまま
視線を下に向ける。
「それよりもっとマズイ事がある。
魔族領が今まで目立った動きをして
こなかったのは―――
恐らく領内の混乱と、遠征の計画と準備を
するだけの能力が、兄上に無かったからで
あろう。
だがこれで状況が動く事が考えられる」
『と言いますと?』
武田さんが顔を上げてメルダに聞き返す。
「いくら兄上が無能だったとしても、
逃げて行く敵を追撃するくらいは出来る。
逃げ帰る場所はここ、クレイオス王国。
しかも向こうから先に攻めて来てくれるのだ。
物資まで用意してくれれば、至れり尽くせり。
それに反撃は立派な大義名分であろう?」
「あー……
つまり聖教会を撃退すると同時にその
荷物を奪い、さらに道案内させる事が
出来るって事に……」
リナも魔王の言いたい事がわかったのか、
補足するように同調する。
文字通り鴨が葱を背負って来る状態だろうな、
魔族領から見れば。
『さらに今の魔王は好戦的だとすれば―――
最悪、王都占領まであり得るでしょうね。
ヒロト君が作ってくれた脱出ルートは
ありますが、それでどれだけの人間が
避難出来るか……』
聖女様が疲れた表情で、それでも現実を
直視する。
「王都ってどれだけの人間がいるんでしょうか」
『見た感じ、都内一区くらいの広さと人口は
あるように感じたから……
10万人前後かしら』
「う~ん、それくらいなら」
地下通路に休憩エリアを可能な限り設置すれば、
と思っていると、
「ヒロト、それは現実的ではない。
いざ戦争になれば、それだけの人数を
避難させる時間も無い。
それにいくら兄上とはいえ、皆殺しには
しないだろう。
というより、占領した後の事まであのアホは
考えていないと思うし」
それってより質が悪いと思うんだけどなあ。
食料事情だって悪化するだろうし、治安は言うに
及ばず―――
「いや、俺はなるべく助けるよ。
せっかく避難経路があるんだし、
侵入不可能なトラップも作ったんだ。
しかし問題は時間だな。
確かに10万人を退避させるだけの時間は」
そこで聖女は片手を挙げ、
『この事は他の勇者たちとも情報共有する
予定でしたが―――
その事についても聞いてみます!
男性陣は戦闘向きの恩恵を授かって
いますので、時間稼ぎくらいなら』
「わかりました。
では、こちらもこちらで出来る事をします。
大規模な避難を想定して動こうと思いますので、
よろしくお願いします」
そう言って回線を閉じ、俺は妻二人に向かい、
「取り敢えず地下通路の休憩エリアの増設を
しよう」
「そうですね。
王都から近いところは不安でしょうから、
【魔境の森】以降―――
【エンテの街地下】までをつなぐ通路も
拡大して」
「そうだな。
食事はほぼ無制限に出せるし、風呂もトイレも
休憩エリアにある。
1部屋20人ほど収容出来ると考えれば……」
こうして俺たちは最悪の状況に向けて、
意見を出し合い始めた。
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