祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―

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第1章 祝福の子

第5話 帝都到着

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「……あれが、エルンスト家か」

帝都アウストリア東門に詰める門番長エグザムは、まるで遠雷を聞くような声で呟いた。

春の陽を反射して銀光を放つ騎士団の列。
その中心に据えられた漆黒の馬車――彫刻と魔術装飾が施されたそれは、見る者にただの乗り物ではなく、“威光”を運ぶ何かとして映る。

「旗印を見ろ。白地に八芒の双頭竜。帝国が唯一、“口を挟めぬ”貴族家の証だ」

若い門兵がごくりと唾をのんだ。

「……噂は本当なんだな。
 “祝福された子”が生まれたって……」

門番たちが武具を正し、姿勢を整える。
それは皇族の到着にも匹敵する儀礼だった。
だがそれは命令ではない――彼らの心がそうさせた。

「道を開けよ。帝国の均衡を支える者が、いま戻られる」

門が開かれ、帝都が静かにその名門を迎え入れた。

__________

馬車の中、私はその空気を肌で感じていた。

“見られている”――魔素の流れに、何百もの視線が絡む。
敬意、畏怖、羨望、そして――測りかねる想い。

父は窓の外を一瞥し、低く呟いた。

「……帝都は変わらんな。期待と猜疑が、いつも隣り合わせだ」

「でも、そのどちらも“注目”の証でしょ?」

母が柔らかく笑った。

「アルヴィス、ここからが本番よ。
 あなたは、あなた自身で“祝福”の意味を示すの」

私は小さく頷き、感情の魔力をふわりと漂わせた。
それは、“わかっている”という静かな灯火のような意志だった。

__________

帝都アウストリア――

それはただの首都ではない。
この広大な大陸の心臓部であり、千年以上の歴史を誇る魔法と政治と信仰の集積地。

街に入った瞬間、空気が変わる。
魔力が練られ、洗練され、人の意志と制度に馴染んでいる。
活気、規律、秩序。そしてその裏に潜む、目に見えぬ“力”の綱引き。

「……変わらぬな、この空気は」

父が呟く。

「喧騒に隠れた静寂。さすがは“表と裏が重なる都市”と呼ばれるだけのことはある」

馬車は大通りを進む。
通りの両側では、民衆が遠巻きにこちらを見つめていた。

「……あれがエルンスト家のご子息……?」

「まだ言葉も話さぬとか」

「だが、感情で魔法を扱うというではないか。まるで……神の子のように」

「いや、“竜の再来”だと噂する貴族もいるぞ。
 双頭竜の加護をもって生まれたのだと」

様々な囁きが、空気に乗って馬車に届く。
だがそれは、単なる噂ではない。

私は、見られている。

この身一つが、帝国に波紋を起こす存在であると――皆が理解し始めている。

やがて馬車列は、帝都北区にあるエルンスト家帝都邸へと到着した。
中央庭園を囲むように建てられた白壁の館には、既に多くの準備が整っていた。

「おかえりなさいませ、御当主、奥様。そして坊ちゃま」

エルンスト公爵家の帝都別邸を管理する執事が丁重に一礼する。
老齢ながら背筋は伸び、目に曇りはない。

「帝都神殿より祝福の儀の調整について報せが届いております。
 また、議会側からも“確認”の使者が近日中に来訪するとのことです」

父は静かに頷いた。

「無理は通さず、だが揺らぐな。中庸とは、地に足をつけることだ」

「はっ」

私は書斎に連れて行かれた。
ここから数日間、帝都での生活が始まる。

その夜。
広い邸の一室で、私はひとり窓辺に座っていた。

帝都の空には星が瞬き、遥か高みで魔導の風が流れている。
私はその気配にそっと魔力を重ねた。

(……この都市は、私を試す)

“祝福”とは、受け取るものではない。
その意味を問われ、証明し、背負っていくもの。

私の中で、何かが静かに芽吹いていた。

__________

一方その頃、帝都の中央魔法院では、
皇帝の側近たちが小声で語り合っていた。

「……例の祝福の子が到着したようです」

「帝都神殿との連携は万全か?」

「ええ。ただ、例の“第三皇女殿下”との婚約儀についても、
 一部の派閥から異論が出るやもしれません」

「構わん。――エルンスト家の名を、誰が軽んじられようか。
 あの家が動いた時、それは帝国が揺れる時だ。
 だが、奴らは常に……“静かに力を示す”」

窓の外に目を向けると、帝都の闇の向こうに、
ひときわ大きな“光の芽”が、確かに息づいていた。

それが、“祝福された子”アルヴィスだった。


◆◆◆

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