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第一章 神様が家にやってきた
第八話
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浴室で騒いでいたその少女は、言うなれば、異国の美姫のように浮世離れしていた。
「綺麗」だとか「美人」だとか、そんなちゃちな表現しかできない自分にもどかしさを感じるのだが、少女に似合いそうな言葉を、他に思い浮かべることができなかったのである。
勇気を出して、少女の裸へと視線を向ける。そして、身のうちを貫く感動に指先までもを震わせる。
──本当に、本当に、どうしようもないくらい美しかった。
大輪のひまわりさながらに、明るく健やかな表情も。
適度に締まった細腰も。
のびやかに育った手足も。
病的な要素を一切排した若々しい素肌も、ただただ、ひたすらに麗しかった。
旧き世界の美神をも凌駕しそうな造形美を、少女は具えていた。
綺麗だった。とても。
湯気の充満する室内にて呼吸する彼女の姿は、ニンフのように、モルガーナのように、あるいはジャンヌダルクのように美々しく繊細で、なおかつ尊かった。
「ありがとう」
彼女が笑った。これまた、破壊的なまでに美しい笑顔だった。
「ゆうべお逢いしましたよね。私たち」
流水の音色が控えめに響く中、美美子は、「……ええ」と答えた。そう告げるのがやっとだった。
神がかった美貌を持つ少女を前にして、かなりの気後れを感じてしまったのだ。
「──美美子ちゃん、だよね?」
「うん。……そうよ」
一度軽く息を吸ってから、「そうよ。私、美美子よ。あなたの文通相手だった龍源寺美美子よ」と述べた。自分でも「少しくどすぎる返事だわ」と思ったが、訂正はしなかった。なにも返答しないよりかはまだましだ──そのような判断を下したので。
「逢いたかった」
少女が──神城ジュエルが呟くように言った。そして、美美子の目の前に素早く移動し、
「逢いたかった……!」
と繰り返しながら、腕をのばした。
「……っ!」
美美子は、その場に立ちすくんだ。突然熱い抱擁を受け、すっかりたじろいでしまったのだ。
どきん、と鼓動が跳ねる。
全裸のM性に抱きつかれるなんて、いままで遭遇したことのないシチュエーションであったから。想像だにしていなかった出来事であったから──。
「ジュ、ジュエル。ちょっと待って。待ってちょうだい」
けれど、相手は耳を貸さない。
それどころか腕にさらなる力をこめて、
「美美子ちゃんにこうして触れられるなんて、夢みたい……!」
と感嘆の悲鳴を上げる。
「美美子ちゃん、美美子ちゃん、美美子ちゃん……!」
白く煙る部屋の中、何度も何度もしつこいぐらいに、
「美美子ちゃん!」
と名を呼ばれる。
しかし、当の美美子はM性に抱きつかれたショックで放心していた。
そう。
このとき、美美子の頭は真白に染まっていた。言葉という言葉が一斉に、脳内から消え去ってしまったのだ。
だから、気の利いた返しだなんてできるはずがなかった。付着する水滴を払いのけることすらできぬまま、愛のこもった抱擁をその身に受けるしかなかったのである。
【続く】
「綺麗」だとか「美人」だとか、そんなちゃちな表現しかできない自分にもどかしさを感じるのだが、少女に似合いそうな言葉を、他に思い浮かべることができなかったのである。
勇気を出して、少女の裸へと視線を向ける。そして、身のうちを貫く感動に指先までもを震わせる。
──本当に、本当に、どうしようもないくらい美しかった。
大輪のひまわりさながらに、明るく健やかな表情も。
適度に締まった細腰も。
のびやかに育った手足も。
病的な要素を一切排した若々しい素肌も、ただただ、ひたすらに麗しかった。
旧き世界の美神をも凌駕しそうな造形美を、少女は具えていた。
綺麗だった。とても。
湯気の充満する室内にて呼吸する彼女の姿は、ニンフのように、モルガーナのように、あるいはジャンヌダルクのように美々しく繊細で、なおかつ尊かった。
「ありがとう」
彼女が笑った。これまた、破壊的なまでに美しい笑顔だった。
「ゆうべお逢いしましたよね。私たち」
流水の音色が控えめに響く中、美美子は、「……ええ」と答えた。そう告げるのがやっとだった。
神がかった美貌を持つ少女を前にして、かなりの気後れを感じてしまったのだ。
「──美美子ちゃん、だよね?」
「うん。……そうよ」
一度軽く息を吸ってから、「そうよ。私、美美子よ。あなたの文通相手だった龍源寺美美子よ」と述べた。自分でも「少しくどすぎる返事だわ」と思ったが、訂正はしなかった。なにも返答しないよりかはまだましだ──そのような判断を下したので。
「逢いたかった」
少女が──神城ジュエルが呟くように言った。そして、美美子の目の前に素早く移動し、
「逢いたかった……!」
と繰り返しながら、腕をのばした。
「……っ!」
美美子は、その場に立ちすくんだ。突然熱い抱擁を受け、すっかりたじろいでしまったのだ。
どきん、と鼓動が跳ねる。
全裸のM性に抱きつかれるなんて、いままで遭遇したことのないシチュエーションであったから。想像だにしていなかった出来事であったから──。
「ジュ、ジュエル。ちょっと待って。待ってちょうだい」
けれど、相手は耳を貸さない。
それどころか腕にさらなる力をこめて、
「美美子ちゃんにこうして触れられるなんて、夢みたい……!」
と感嘆の悲鳴を上げる。
「美美子ちゃん、美美子ちゃん、美美子ちゃん……!」
白く煙る部屋の中、何度も何度もしつこいぐらいに、
「美美子ちゃん!」
と名を呼ばれる。
しかし、当の美美子はM性に抱きつかれたショックで放心していた。
そう。
このとき、美美子の頭は真白に染まっていた。言葉という言葉が一斉に、脳内から消え去ってしまったのだ。
だから、気の利いた返しだなんてできるはずがなかった。付着する水滴を払いのけることすらできぬまま、愛のこもった抱擁をその身に受けるしかなかったのである。
【続く】
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