かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第二章 恋に落ちた日

第三話

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振り返った先にいたのは、初海高はつみこうの制服を着た少女だった。百合の花のブローチは、その襟元えりもとにはない。
赤茶色の短い頭髪と、目許口許めもとくちもとを彩る快活な笑みが特徴的なそのF性は、美美子と目が合うなり、
「おはよー。今日も一日よろしくーっ!」
と告げてきた。友人の新町新しんまちあらたである。
「珍しいこともあるものね。あなたがこんな早くに登校するなんて」
「そりゃあね。だって……」
声をひそめ、新が続きを口にする。
「だって、今日、雲雀山ひばりやまの奴と日直するんだもん。あいつ、あたしをいびることに命かけてるみたいだから、ぼろを出しちゃまずいんだよね」
「そんなことないわよ。雲雀山さんは穏やかで優しい人よ。新に対してだけ口うるさくなるのは、あなたがたびたび校則を無視したり、遅刻したりするせいだと思うわ」
「ええーっ、あんたまでそう言うの!?  厳しいなあ」
「あなたが生活態度を改めたら、すべてがまるく収まるわ」
「まあ、そうなんだけどさー。……で、あんたの隣にいる人、どこの誰よ。なんかめっちゃ恐い顔をしているんだけど」
「なんのことかしら」
「いや、ほら……。あんたの右隣みぎどなりに金髪の子がいるじゃん。うちの制服を着た子が」
「あ……」
そういえば、今日はジュエルといっしょに学校に向かっていたのだった。新に気を取られて、すっかり忘れていたのだけれど。
「ごめんなさい、ジュエル。あなたの存在、すっかり忘れていたわ」
けれど、ジュエルはすねたままだ。
「ひどいよ、美美子ちゃん……。私を放置して、よそのF性とぺちゃくちゃ喋っているんだもん」
「ごめんなさい」
いま一度、謝罪の言葉を繰り返す。自分としては精いっぱいの誠意を伝えたつもりだ。
しかし、いくら心をこめてお詫びを述べても、ジュエルの機嫌は直らなかった。
彼は、宝物を奪われた子犬のようにしょんぼりと肩を落としている。
「ひどいよ……。美美子ちゃんの恋人はその人じゃなくて私なのに……」
「あれ、そうなの?」
きょとんとした面持ちで、新が言った。
「へえ、美美子ったら……。やっと恋人できたんだぁ! よかったじゃーん! おめでとー!」
「ち、ちょっと待って。私と美美子はそんなんじゃ……、」
「あ、美美子ちゃん、『そんなんじゃないわ』なんて言い訳は通用しないからね! だって、私と君はすでにキスまで済ませている仲なんだから。言い逃れするだけ無駄だよ」
「ええっ! キスしちゃったのかよ……!」新の声が見事なまでに裏返る。
「おめでとー、美美子! あんた、てっきりファンタジーとかそういうのにしか興味持たないんだと思っていたけど、あたしの勘違いだったみたいだね」
「ち、違うわ。誤解しないで、新! ていうか、ジュエルも余計な情報流さないでよ!」
「余計じゃないもん。私と美美子ちゃんは、ほんとにキスした仲だもん! 愛を確かめ合った仲なんだもん!」
「う、うわ~! 愛を! 確かめ合った仲! うわぁ~、ラブラブなんだぁ~」
「私と美美子ちゃんは、毎日ラブラブだもん!」
「ちょっとジュエル、それ以上暴走するのやめてよ!」

三人それぞれ大声でわめいていたところ、鈴のように軽やかな声が場に響いた。
龍源寺りゅうげんじさん、おはよう。朝から元気そうね」

漆黒の長い髪を背中にまで垂らした少女が現れた。
控えめに微笑むその娘は、襟元に百合の花のブローチを着けている。
県立初海高等学校けんりつはつみこうとうがっこう二年七組に在籍ざいせきするM性のひとり・雲雀山狭霧ひばりやまさぎりであった。

【続く】
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