かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第二章 恋に落ちた日

第四話

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「うげっ、雲雀山ひばりやまっ!」
現れた少女を一目見るなり、新が大げさに顔をしかめた。「こんなとこであんたに会うなんて、今日はほんっとついてないなあ」
「あら、ご挨拶ね」
狭霧さぎりが楽しげに笑う。「私、今日は新町しんまちさんと日直をするから、特に気合いを入れてきたのよ? おびえる新町さんって、私好みの情けない顔をするんですもの。ですから、今日一日張り切っていびり倒してさしあげるわね」
にこやかに笑みながら物騒な言葉を吐き出す雲雀山に、あらたが、
「うわうわうわ……。めっちゃ綺麗に微笑みながらドS発言するなんて最悪だよ~」
と言葉を投げる。
だが、当の狭霧は変わらずにんだままである。「新町さんって、反応が面白いんですもの。つい遊んであげたくなっちゃうわ。もちろん、壊れるまで──ね」
「うわわわわ~、冗談きついよ~!」
優越の笑みを閃かせる狭霧に、新が「いじめ反対、暴力反対! からかったりするのもやっちゃ駄目!」と声を張り上げる。
片や、おびえたように身を縮める新。
片や、新を徹底して追いつめる狭霧。
二者にしゃの力関係は、美美子の目から見ても実にわかりやすいものであった。
(でも、ほんと、雲雀山さんってどうして新にちょっかいを出すのかしら。そこが不思議だわ)
文武両道ぶんぶりょうどうを地で行く人気者と、自他じたともに認める落ちこぼれ。
生まれも育ちも特技も趣味も大きく異なっているのに、それでも狭霧は新をかまうのだ。一方的に。
「うう~っ、悪の帝王め~! いつか、あたしが退治してやるからね~」
「一万年待ったとしてもそんな日は来ないと思うけど、一応待ってあげるわね」
……どこをどう見ても、狭霧のほうが一枚上手うわてである。

と、その狭霧がふいにこちらに顔を向けた。
「龍源寺さん、面白い子を連れているわね」
「え……。あ、ああ、ジュエルのことかしら」
「そう。その金髪の子、ジュエルちゃんっていうのね」
毒気どくけのない笑みを保ったまま、狭霧がすっと右手を差し出す。そしてよく通る高い声で、
「私は雲雀山狭霧ひばりやまざぎり龍源寺りゅうげんじさんのクラスメイトよ。仲良くしましょうね」
「あ、うん。よろしくお願いします」
言いながら、ジュエルが狭霧の手を握った。

──と。

「……ええっ!?」
彼の手に触れたとたん、ジュエルが頓狂とんきょうな叫び声を上げた。
「そんな……! そんなことって……」

突然の大声に振り向いたのは、美美子や新だけでなかった。
正門に続く歩道にいた多くの初高生はつこうせいが、声のしたほうへ──すなわち、ジュエルのいるほうへ顔を向けたのである。
「どうかしたの?」
美美子は小声で呼びかけた。
けれど、ジュエルは驚愕の表情で固まったままである。
「……気分でも悪くなったのかしらね」
ジュエルの手を名残惜しげに離しながら、狭霧が言った。
「美美子。ジュエルちゃん、どうしちゃったの?」神妙な顔で、新が問う。
「さあ、わからないわ。本当にどうしたのかしら」
いつもであれば、呼びかけにすぐに応えるというのに……。

「世の中には知らないほうがいいことだってあるわ。それもたくさん……ね」
 可憐な笑みを顔に貼りつけたまま、狭霧が短く呟いた。

【続く】
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