かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第二章 恋に落ちた日

第五話

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二年七組は、校内東側に建つ教育棟きょういくとうの二階にある。昇降口しょうこうぐちを抜け、廊下を進み、階段を上がってまた廊下をしばらく進むと、その姿をあらわすのだ。
前にも語ったとおり、美美子には存在感というものが欠けている。目立たないのだ。早い話。
教師からも級友たちからも存在を忘れられることなど、ざらにある。修学旅行の際、遠く離れた土地に置き去りにされかけたこともある。「ジミ子」というありがたくないあだ名を押しつけられたこともある。
しかし、例外的に、美美子の存在にすぐ気づく人もまわりにいた。両親や友人の新町新しんまちあらた、クラスメイトの雲雀山狭霧ひばりやまさぎりなどである。「ジミ子なんてひどいあだ名、つけちゃ駄目だよね。美美子にはちゃんとした名前があるんだから」と慰めてくれるのも、彼らだった。
けれど、美美子は、「極端なまでに目立たない」という自分の特性を少し気に入っていた。「逆に、いつでもどこでも目立ってしまうほうが辛いでしょうに」と考えていたのである。
秋の深まりゆくこの朝だって、目立たずに教室まで移動できたはずだった。新や狭霧以外の学校関係者から声をかけられずに済んだはずなのだ。
しかし、今朝は違った。おのおのの教室に向かう生徒たちも、正門前で生活指導していた教師陣も、美美子に声をかけてきた。
隣を歩くジュエルに興味を惹かれたためである。
顔見知りの生徒らは、「ねえ、龍源寺りゅうげんじさん。その子、M性だよね? どういう関係なの?」と尋ねてきたし、教師は教師で「龍源寺さん。その方、神城かみしろさんでしょう? ……凄いわねえ、本物の生き神様を拝める日が来るとは思ってもいなかったわ」と語りかけてきた。
「M性」でしかも「化神けしん」たるジュエルは、十分注目にあたいした。人は異質な存在に出会うと、恐怖のあまり逃げるか、好奇心にかられて接近するか、そのいずれかに走る生き物なのである。
「季節はずれの転入生、それも飛び級を果たしたM性が新しくクラスに加わった」という噂は、すでに多くの者に知られていた。美しい金髪とのびやかな手足を持つジュエルは、どこに行ってもなにをしても人目を引いた。

「うへえ、他のクラスの子までいるよ~。それもいっぱいいる」
教室の中から窓の外を見た新が、うんざりしたような表情を作って言った。
「そうね。M性はただでさえ数少ないから目立つもの」
同じく、廊下側の窓の外へ目を向けた狭霧が言った。
「だよね。しかも、ジュエルちゃんって神様なんでしょ? それじゃ、目立つのも無理ないよね」
新がジュエルに話を振る。
ジュエルは涼しげな顔をしている。周囲をゆくほとんどの人間から注目されても、どこ吹く風といった様子だ。

「ああいうの、慣れているから平気だよ。皆の反応は折り込み済みだから、緊張だってちっともしないし」

美美子はぎょっとした。
そして、もしも自分が彼の立場になったとしたら、半時間はんじかんで疲れを感じるだろうなと想像した。

【続く】
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