かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第三章 光は去らず

第二話

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「でもね、そろそろ家に帰ったほうがいいと思うわ」
美美子は、中腰ちゅうごしの姿勢を保ったままで言った。
双子が一瞬、互いの顔を見合わせる。
それから同時に元の位置にまで顔を戻し、
「なぜですか?」
揃って声を上げた。
「うん。だって、もう五時半になりそうなんだもの。もう夏も過ぎちゃったし、日が暮れるのが早くなってきているし、これ以上ここにいるのは危ないと思うのよ」
「そっかあ……」
「じゃあ、しかたないね。かえろ、みあちゃん」
「わかった。おうちにかえろ、みまちゃん」
そして双子は手をつなぎ、「ばいばい、おねえさん」という言葉を残して、広場から去っていった。
小枝のように痩せた二人を黙って見送る。
「……なつかしいな」
みあとみまの二人が口ずさんでいた歌には、覚えがあった。以前、ジュエルと文通していた際、CDに歌声を録音して彼の元に送ったのである。
そのときに収録した歌こそが、少女たちの歌っていた楽曲──「とこしえなる希望の序章」であった。
「あんまり上手く歌えなかったけど、それでもジュエルは喜んでくれたのよね。『美美子ちゃんの声が聴けて嬉しい!』って感激してくれたのよね……」
いま思えば、おかしな話だと思う。
「とこしえなる希望の序章」はさほど長い曲ではない。ならば、わざわざCDに歌声を入れて送る必要はなかったのではないか。電話口でんわぐちで歌ってしまえばよかったのではないか──。
(でも、呪宝会じゅほうかいが電話の使用を認めなかったそうなのよね……)
美美子は考える。「もしかしたら、ジュエル、私の歌声を支えにして辛い修行を乗り越えてきたんじゃないかしら」と。
彼に直接尋ねてはいないため、真相は不明なのだが、その想像はあながち間違っていないように思われた。……もしかすると、単なるうぬぼれなのかもしれないけれど。
「まあ、いいか。とりあえず、川上かわかみさんに会わないとね」
と、そのときだった。
「痛っ……」
右のてのひらに、鋭い痛みが走った。さっき、教室で熱を帯びた場所が、あらためて存在を主張してきたのである。
「なんなのかしら、これって」
言って、美美子は痛むてのひらに目をやった。そこには──、青く変色したあざがあった。
はすの花のようなかたちをしたそれをじっと見据えながら、
「昨日まではなかったと思うんだけど……」
と呟く。

やがて、痛みが引いてきた。
けれど、青あざは消えない。相変わらず、右てのひらにくっきりと浮かんでいる。

「どうしてこんなものが、私の手に……」
美美子は花びらじょうのあざを見下ろした。

いくらか冷たさを含んだ風が、びゅうっと音を立てて吹きつけてきた。

【続く】
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