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第三章 光は去らず
第五話
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「呪宝会の会則では、家族やそれに準じる人にはある程度情報を流していいみたいなの。だから、ジュエルは私に偽骸のことを教えてくれたのよ」
「……なるほど。未来の妻にあたるから、情報を開示したってわけか」巴がひとりごとのように言った。
そして、二人は沈黙する。
やがて空から赤みが失せはじめた頃、──空に闇が現れ出た頃、会話は再開した。先に口を開いたのは巴であった。
「じゃあ、月姿八態という言葉は知ってる? これも化神に関係のある話なんだけど」
美美子は軽くかぶりを振った。
「そう。知らないんだね。だったら、私が教えてあげる。月姿八態というのは──」
巴がいったん口の動きを止めた。
それからもったいぶったように、「月姿八態というのはね、」と繰り返す。
「日本国を陰から守護する秘神様を補佐する、八つの名家をあらわすんだ。えっと、たしか……、新月家、望月家、十六夜家、臥待家、上弦家、下弦家、三日月家、眉月家が、現在の月姿八態を構成しているの」
巴が喋る。
普段の彼女からは想像もつかぬほど、饒舌に喋り倒す。
「私の実家は新月家──つまり、秘神様とは縁が深いの。もっとも秘神様は人前にほとんど姿を現さないから、顔も声も知らないけどね……。
まあ、つまり、『この国は化神たちのリーダーたる秘神様と、それを補佐する月姿八態と、その他の化神たちによって絶えず守られている』と覚えてくれればいいよ」
美美子は眉根を寄せた。いきなり秘神様とか月姿八態の話を教えられても、理解がまるで追いつかない。
「で、これもまた極秘情報に当たるんだけど……。ついでに教えてあげようかな」
ひとりごとを軽く声に出したあと、巴が真顔で言った。「偽骸ってね。──実は、その正体はただの人間なの」
「……ジュエルから聞いたことならあるわ。人間にはもともと霊素という霊的エネルギーが備わっていて、負の感情が高まりすぎると偽骸という化け物になっちゃうんだって」
「ふーん。結構いろいろ教えてもらっているんだね」
「一度だけ偽骸に襲われたことがあって、それでジュエルが解説してくれたの。多くの命の中にある霊素のことも、化神の中にある術素のことも」
「へえ。なんだかつまらない話だねえ」巴がへらりと笑って告げた。
「せっかく私が教えてあげようと思っていたのに。……神城さん、やっぱり邪魔だなあ」
「そんな……。あの子を邪魔者扱いするなんてひどいわ。ジュエルはとってもいい子よ。いまの言葉、訂正してちょうだい」
すると、巴はとても無邪気な笑みを浮かべ、「嫌だね」と答えた。
「君からしたら、神城さんってとてもいい子なんだろうけど、私はあの子のことが凄く嫌いなんだよね。私の好きな人にべったりくっついているし」
「『好きな人にべったり』って、まさか──。もしかして、あなた、雲雀山さんのことが好きなの?」
「いいえ」
夕闇が空を染める中、巴が強い視線をまっすぐ向けてきた。
「私が好きなのは、龍源寺さん、……君なんだよ」
【続く】
「……なるほど。未来の妻にあたるから、情報を開示したってわけか」巴がひとりごとのように言った。
そして、二人は沈黙する。
やがて空から赤みが失せはじめた頃、──空に闇が現れ出た頃、会話は再開した。先に口を開いたのは巴であった。
「じゃあ、月姿八態という言葉は知ってる? これも化神に関係のある話なんだけど」
美美子は軽くかぶりを振った。
「そう。知らないんだね。だったら、私が教えてあげる。月姿八態というのは──」
巴がいったん口の動きを止めた。
それからもったいぶったように、「月姿八態というのはね、」と繰り返す。
「日本国を陰から守護する秘神様を補佐する、八つの名家をあらわすんだ。えっと、たしか……、新月家、望月家、十六夜家、臥待家、上弦家、下弦家、三日月家、眉月家が、現在の月姿八態を構成しているの」
巴が喋る。
普段の彼女からは想像もつかぬほど、饒舌に喋り倒す。
「私の実家は新月家──つまり、秘神様とは縁が深いの。もっとも秘神様は人前にほとんど姿を現さないから、顔も声も知らないけどね……。
まあ、つまり、『この国は化神たちのリーダーたる秘神様と、それを補佐する月姿八態と、その他の化神たちによって絶えず守られている』と覚えてくれればいいよ」
美美子は眉根を寄せた。いきなり秘神様とか月姿八態の話を教えられても、理解がまるで追いつかない。
「で、これもまた極秘情報に当たるんだけど……。ついでに教えてあげようかな」
ひとりごとを軽く声に出したあと、巴が真顔で言った。「偽骸ってね。──実は、その正体はただの人間なの」
「……ジュエルから聞いたことならあるわ。人間にはもともと霊素という霊的エネルギーが備わっていて、負の感情が高まりすぎると偽骸という化け物になっちゃうんだって」
「ふーん。結構いろいろ教えてもらっているんだね」
「一度だけ偽骸に襲われたことがあって、それでジュエルが解説してくれたの。多くの命の中にある霊素のことも、化神の中にある術素のことも」
「へえ。なんだかつまらない話だねえ」巴がへらりと笑って告げた。
「せっかく私が教えてあげようと思っていたのに。……神城さん、やっぱり邪魔だなあ」
「そんな……。あの子を邪魔者扱いするなんてひどいわ。ジュエルはとってもいい子よ。いまの言葉、訂正してちょうだい」
すると、巴はとても無邪気な笑みを浮かべ、「嫌だね」と答えた。
「君からしたら、神城さんってとてもいい子なんだろうけど、私はあの子のことが凄く嫌いなんだよね。私の好きな人にべったりくっついているし」
「『好きな人にべったり』って、まさか──。もしかして、あなた、雲雀山さんのことが好きなの?」
「いいえ」
夕闇が空を染める中、巴が強い視線をまっすぐ向けてきた。
「私が好きなのは、龍源寺さん、……君なんだよ」
【続く】
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