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第三章 光は去らず
第四話
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「本題に入る前に、まずは自己紹介をするね」巴が言う。
「私の本当の名前は上月巴なんかじゃない。新月巴がね、本来の名前なの」
「新月、……巴……?」
「そう。それが私のまことの名前なんだ。……で、ここからちょっと本筋から逸れるんだけど」
ニタニタと陰湿な笑みを晒しながら、巴が続きを語る。「ねえ、龍源寺さん。この国ってちょっと平和すぎると思わない?」
「……なにが言いたいのかしら」
「嫌な予感がする」と思いながらも、美美子は疑問を口にした。さしあたり、自分の置かれた状況だけでも把握しておきたかったからだ。
上月さんの言葉の中にそのヒントが隠されているかもしれない──そんな直感が雷のように閃いた。だから、逃げずに彼女の話を聞くことを決めたのだ。
暗い笑顔を維持したまま、巴が吐き捨てるように言う。
「だって、日本ってよその国からしたら国土がかなり狭いでしょ。それに、たいした武器や兵器を持っていない。おまけに食糧の自給率が低いから、他国からの輸入品にすっかり頼り切ってしまっている。こんなに攻めやすい国、他に見ないと思わない?」
「……」
上月巴──否、新月巴の狙いはなんだろう。この国の話について語り出した理由は、どこにあるのか。
「……第二次世界大戦後、しばらくしたのち、世の男性は全員深い眠りについた。残された人々が、あらゆる手段を使って彼らの目を覚まそうとしたけれど、無駄だった」
「それは社会の時間に習ったわ。でも、私が知りたいのはそんなことじゃない。……新月さん、あなたはなにを考えているの? 私なんかを呼び出して、いったいなにを企んでいるの?」
「まあ、焦らないでよ」巴は変わらず、陰気な笑顔を作っている。
「男たちが眠ったあと、世の女性たちはM性とF性に分かれた。そして、女同士で子どもを作るようになった。世界はひとまず滅亡の危機を回避した。……けど、そのあとに新たな問題が生まれたの」
咲かずの桜を背景に、巴が淡々と言葉を繰り出す。
黄昏時ならではの色鮮やかな光が、彼女の立ち姿に濃い陰影をもたらす。
「新たな問題……?」
「うん。実はこれ、極秘情報なんだけれど。
──あのね、スリーデイズ以降、人間が怪物化して人を襲う現象が頻発するようになったの」
「それってもしかして、偽骸のことかしら?」
間髪入れずに問いを投げかけたところ、巴の表情が大きく変化した。
驚きの色をおもてにあらわしたのである。
「へえ……。もう知ってたんだ。さすがは龍源寺さんだね。もしかして、神城さんに教えられたのかな?」
あえて返事をせず、黙って相手の出方をうかがった。とにもかくにも、いまは少しでも情報を手に入れたい。
それに頼みの綱たるジュエルが不在であるいま、巴の感情を刺激したりなんかしたら、きっとまずいことになる。
そんな予感がした。
【続く】
「私の本当の名前は上月巴なんかじゃない。新月巴がね、本来の名前なの」
「新月、……巴……?」
「そう。それが私のまことの名前なんだ。……で、ここからちょっと本筋から逸れるんだけど」
ニタニタと陰湿な笑みを晒しながら、巴が続きを語る。「ねえ、龍源寺さん。この国ってちょっと平和すぎると思わない?」
「……なにが言いたいのかしら」
「嫌な予感がする」と思いながらも、美美子は疑問を口にした。さしあたり、自分の置かれた状況だけでも把握しておきたかったからだ。
上月さんの言葉の中にそのヒントが隠されているかもしれない──そんな直感が雷のように閃いた。だから、逃げずに彼女の話を聞くことを決めたのだ。
暗い笑顔を維持したまま、巴が吐き捨てるように言う。
「だって、日本ってよその国からしたら国土がかなり狭いでしょ。それに、たいした武器や兵器を持っていない。おまけに食糧の自給率が低いから、他国からの輸入品にすっかり頼り切ってしまっている。こんなに攻めやすい国、他に見ないと思わない?」
「……」
上月巴──否、新月巴の狙いはなんだろう。この国の話について語り出した理由は、どこにあるのか。
「……第二次世界大戦後、しばらくしたのち、世の男性は全員深い眠りについた。残された人々が、あらゆる手段を使って彼らの目を覚まそうとしたけれど、無駄だった」
「それは社会の時間に習ったわ。でも、私が知りたいのはそんなことじゃない。……新月さん、あなたはなにを考えているの? 私なんかを呼び出して、いったいなにを企んでいるの?」
「まあ、焦らないでよ」巴は変わらず、陰気な笑顔を作っている。
「男たちが眠ったあと、世の女性たちはM性とF性に分かれた。そして、女同士で子どもを作るようになった。世界はひとまず滅亡の危機を回避した。……けど、そのあとに新たな問題が生まれたの」
咲かずの桜を背景に、巴が淡々と言葉を繰り出す。
黄昏時ならではの色鮮やかな光が、彼女の立ち姿に濃い陰影をもたらす。
「新たな問題……?」
「うん。実はこれ、極秘情報なんだけれど。
──あのね、スリーデイズ以降、人間が怪物化して人を襲う現象が頻発するようになったの」
「それってもしかして、偽骸のことかしら?」
間髪入れずに問いを投げかけたところ、巴の表情が大きく変化した。
驚きの色をおもてにあらわしたのである。
「へえ……。もう知ってたんだ。さすがは龍源寺さんだね。もしかして、神城さんに教えられたのかな?」
あえて返事をせず、黙って相手の出方をうかがった。とにもかくにも、いまは少しでも情報を手に入れたい。
それに頼みの綱たるジュエルが不在であるいま、巴の感情を刺激したりなんかしたら、きっとまずいことになる。
そんな予感がした。
【続く】
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