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第三章 光は去らず
第九話
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「でも、まだ諦めたわけじゃない」
夜のとばりが降りる中、巴が決然と言い放つ。
「防御されているとはいえ、攻撃を受けなければ私は無傷のままだもの。しかも、龍源寺さんは御印の扱いにまったく慣れていない」
「そうね。それは認めるわ」美美子は言った。
「けれど、私の御印はジュエルがくれたもの──そう簡単に破れないと思うわ」
……正直に言おう。
いま、このとき、美美子は恐れを感じていた。まさか自分が化神と戦うことになるとは、考えたことがなかったから。
それに現時点では、新月巴の能力を把握しておらぬがゆえ、有効な対抗策を考え出すことすらできない。
そもそも自分が無事でいられるのは、ジュエルより御印を受け取ったからだ──美美子本人はあくまで、非力で平凡な一般人なのである。
というふうに、考えをめぐらせていると。
──強い衝撃がバリアを揺らした。中にいる美美子にまで響く、とてつもなく強烈な衝撃であった。
「な、なにを……」
「ん? ああ、説明したほうがよかったのかな」
右腕を前に突き出した格好で、巴が言った。「てのひらから、炎のかたまりを撃ってみたの」
炎のかたまりを……撃つ?
(化神って、そんなこともできるの……?)
美美子は震えた。ひとしきり恐怖し、怯えた。
だが、いくら恐れても状況が好転することはない。巴が指摘した通り、防御だけではいずれ限界が来る──。
「安心して。私が狙っているのはあくまで、御印で作られたバリアだけだから。龍源寺さんを傷つける意図は少しもない」
抑揚に乏しい声で語りながら、巴が真っ赤な火球を連続で撃ち込んだ。
「きゃっ……!」
バリアが大きくきしむ。表面に亀裂が入って、そこから風が入ってくる。
美美子は後ずさった。ファンタジーがいくら好きといえども、いまのこの状況はあまり嬉しいものではない。
ドーム型のこの物体がもし消えたら──襲われるのだ。巴に。
強姦されてしまうのだ。……女同士で。
(ジュエル以外に抱かれるなんて、嫌。絶対に嫌よ……!)
巴が火球を連射する。バリアに亀裂が入る。
巴が火球を連射する。バリアに亀裂が入る。
巴が火球を連射する。バリアに亀裂が入る。
巴が火球を連射する。バリアに亀裂が入る──!
バリン、と割れたビードロみたいな音を立て、バリアが四散した。
「よかった。やっと壊れた」巴が粘っこい声で、満足したように呟いた。
「……さて、と。龍源寺さん、おとなしく私に抱かれてね。優しくするから、抵抗なんかしちゃ駄目だよ?」
美美子はその場に座り込み、歩いて距離を詰めてくる巴を見上げた。優越の笑みを少しも崩さぬ化神の立ち姿を。
(嫌よ……。私には……、私にはジュエルがいるのに……!)
美美子は大粒の涙をこぼした。
星が輝く夜空の下、新月巴の足音だけが静かに響いた。
【続く】
夜のとばりが降りる中、巴が決然と言い放つ。
「防御されているとはいえ、攻撃を受けなければ私は無傷のままだもの。しかも、龍源寺さんは御印の扱いにまったく慣れていない」
「そうね。それは認めるわ」美美子は言った。
「けれど、私の御印はジュエルがくれたもの──そう簡単に破れないと思うわ」
……正直に言おう。
いま、このとき、美美子は恐れを感じていた。まさか自分が化神と戦うことになるとは、考えたことがなかったから。
それに現時点では、新月巴の能力を把握しておらぬがゆえ、有効な対抗策を考え出すことすらできない。
そもそも自分が無事でいられるのは、ジュエルより御印を受け取ったからだ──美美子本人はあくまで、非力で平凡な一般人なのである。
というふうに、考えをめぐらせていると。
──強い衝撃がバリアを揺らした。中にいる美美子にまで響く、とてつもなく強烈な衝撃であった。
「な、なにを……」
「ん? ああ、説明したほうがよかったのかな」
右腕を前に突き出した格好で、巴が言った。「てのひらから、炎のかたまりを撃ってみたの」
炎のかたまりを……撃つ?
(化神って、そんなこともできるの……?)
美美子は震えた。ひとしきり恐怖し、怯えた。
だが、いくら恐れても状況が好転することはない。巴が指摘した通り、防御だけではいずれ限界が来る──。
「安心して。私が狙っているのはあくまで、御印で作られたバリアだけだから。龍源寺さんを傷つける意図は少しもない」
抑揚に乏しい声で語りながら、巴が真っ赤な火球を連続で撃ち込んだ。
「きゃっ……!」
バリアが大きくきしむ。表面に亀裂が入って、そこから風が入ってくる。
美美子は後ずさった。ファンタジーがいくら好きといえども、いまのこの状況はあまり嬉しいものではない。
ドーム型のこの物体がもし消えたら──襲われるのだ。巴に。
強姦されてしまうのだ。……女同士で。
(ジュエル以外に抱かれるなんて、嫌。絶対に嫌よ……!)
巴が火球を連射する。バリアに亀裂が入る。
巴が火球を連射する。バリアに亀裂が入る。
巴が火球を連射する。バリアに亀裂が入る。
巴が火球を連射する。バリアに亀裂が入る──!
バリン、と割れたビードロみたいな音を立て、バリアが四散した。
「よかった。やっと壊れた」巴が粘っこい声で、満足したように呟いた。
「……さて、と。龍源寺さん、おとなしく私に抱かれてね。優しくするから、抵抗なんかしちゃ駄目だよ?」
美美子はその場に座り込み、歩いて距離を詰めてくる巴を見上げた。優越の笑みを少しも崩さぬ化神の立ち姿を。
(嫌よ……。私には……、私にはジュエルがいるのに……!)
美美子は大粒の涙をこぼした。
星が輝く夜空の下、新月巴の足音だけが静かに響いた。
【続く】
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