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第三章 光は去らず
第十一話
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「ジュエル……」
泣き腫らした目で、美美子は愛する恋人を見た。眉尻をつり上げ、巴の顔をにらみつけるジュエルの瞳を。
「無抵抗のF性を追いつめるなんて、恥ずかしくないの? 新月家のご令嬢ともあろう者が、なんでこんな暴挙に及んだのかな」
「私の行いで家格が下がるの? だったら嬉しいよ。それこそが私の望みなんだから」
巴が微笑む。「ニタニタ」という擬音がいかにも似合いそうな、しごく不気味な笑み方だ。
「家のことなど、私の知ったことじゃないね。……私が欲しいのは龍源寺さんだけなんだもの」
「そんなの認めない!」
ジュエルが叫んだ。
「美美子ちゃんの恋人は私なの! 啓約だって交わした仲なの! 君なんかに美美子ちゃんは渡さない。絶対絶対絶対渡さない!」
「へえ、やっぱりそうなんだ。けど、啓約は上書きできるって決まり事があるんだけど、それは知らないのかな?」
「えっ」
美美子は、腕組みをして立つ巴へと顔を向けた。「そんなルールがあるの……?」
「うん。あるよ」巴がニタリと笑う。
「化神に抱かれて啓約を交わしたとしても、新たな化神に抱かれたらその効力が消える。代わりに、その新しい化神と啓約を交わすことになる……って決まりなの」
「もしかして、神城さんから教えてもらってなかったのかな?」と巴が続ける。
ジュエルはなにも言わない。肯定も否定もしない。ただ厳しい表情を浮かべるのみだ。
「そんな……。『ジュエル以外の人に抱かれたい』なんて考えたこともないのに」
「私、龍源寺さんのそういうところ、とても好きだよ」巴がはずんだ声で言った。
「龍源寺さんって、ほんといいキャラしてるよね。おとなしいし控えめだし真面目だし、大和撫子って言葉がすごく似合いそう」
「勝手にイメージを決めないで。私は、大和撫子キャラでもなんでもないわ」
「あはは」
唐突に、巴が笑声を振りまいた。
──と同時に、彼の足許に漆黒の闇が生まれ、そこから生き物らしき「なにか」が飛び出てきた。
「……なに、あれ……」
美美子は驚きに目を見開いた。
地鳴りのように低くうなりながら現れ出たのは、──黒い毛並みを持つ豹であった。頭もしっぽも黒い大型のけものだ。それが低い吠え声を発しながら、無言で立ち尽くすジュエルを包囲する。
「さて、と。こっちのほうが数多いし、ちょっとだけ勝つためのヒントでも与えちゃおうかな」
巴の顔に、優越の笑みが閃く。
「そいつらはね、黒闇獣という名前の神獣なの。化神たるこの私の分身だから、神として扱われているの」
「誰に?」ジュエルが一言尋ねる。
「月姿八態の信奉者たちにだよ」
長い黒髪を幽鬼のようになびかせながら、巴が答える。
「月姿八態は、呪宝会の間でも知る人ぞ知る存在なんだ。表では別の事業に携わっているけれど、裏では異能の力を用いて偽骸を葬っているんだよ」
「……」
ジュエルはやはり、声を挟まない。
「神城さん。君は先日、偽骸を討伐している現場を部外者に見られた。一般人にあたる龍源寺さんに目撃された。そのことについて、怒りを感じている呪宝会関係者はね、君が思っているよりもずっと多いんだよ」
うなる豹たちを足許に従えた巴が、ジュエルめがけて粘っこい微笑みを投げた。
その顔は、肉を欲する獣のようにいびつで恐ろしく、さらには狡猾ですらあった。
【続く】
泣き腫らした目で、美美子は愛する恋人を見た。眉尻をつり上げ、巴の顔をにらみつけるジュエルの瞳を。
「無抵抗のF性を追いつめるなんて、恥ずかしくないの? 新月家のご令嬢ともあろう者が、なんでこんな暴挙に及んだのかな」
「私の行いで家格が下がるの? だったら嬉しいよ。それこそが私の望みなんだから」
巴が微笑む。「ニタニタ」という擬音がいかにも似合いそうな、しごく不気味な笑み方だ。
「家のことなど、私の知ったことじゃないね。……私が欲しいのは龍源寺さんだけなんだもの」
「そんなの認めない!」
ジュエルが叫んだ。
「美美子ちゃんの恋人は私なの! 啓約だって交わした仲なの! 君なんかに美美子ちゃんは渡さない。絶対絶対絶対渡さない!」
「へえ、やっぱりそうなんだ。けど、啓約は上書きできるって決まり事があるんだけど、それは知らないのかな?」
「えっ」
美美子は、腕組みをして立つ巴へと顔を向けた。「そんなルールがあるの……?」
「うん。あるよ」巴がニタリと笑う。
「化神に抱かれて啓約を交わしたとしても、新たな化神に抱かれたらその効力が消える。代わりに、その新しい化神と啓約を交わすことになる……って決まりなの」
「もしかして、神城さんから教えてもらってなかったのかな?」と巴が続ける。
ジュエルはなにも言わない。肯定も否定もしない。ただ厳しい表情を浮かべるのみだ。
「そんな……。『ジュエル以外の人に抱かれたい』なんて考えたこともないのに」
「私、龍源寺さんのそういうところ、とても好きだよ」巴がはずんだ声で言った。
「龍源寺さんって、ほんといいキャラしてるよね。おとなしいし控えめだし真面目だし、大和撫子って言葉がすごく似合いそう」
「勝手にイメージを決めないで。私は、大和撫子キャラでもなんでもないわ」
「あはは」
唐突に、巴が笑声を振りまいた。
──と同時に、彼の足許に漆黒の闇が生まれ、そこから生き物らしき「なにか」が飛び出てきた。
「……なに、あれ……」
美美子は驚きに目を見開いた。
地鳴りのように低くうなりながら現れ出たのは、──黒い毛並みを持つ豹であった。頭もしっぽも黒い大型のけものだ。それが低い吠え声を発しながら、無言で立ち尽くすジュエルを包囲する。
「さて、と。こっちのほうが数多いし、ちょっとだけ勝つためのヒントでも与えちゃおうかな」
巴の顔に、優越の笑みが閃く。
「そいつらはね、黒闇獣という名前の神獣なの。化神たるこの私の分身だから、神として扱われているの」
「誰に?」ジュエルが一言尋ねる。
「月姿八態の信奉者たちにだよ」
長い黒髪を幽鬼のようになびかせながら、巴が答える。
「月姿八態は、呪宝会の間でも知る人ぞ知る存在なんだ。表では別の事業に携わっているけれど、裏では異能の力を用いて偽骸を葬っているんだよ」
「……」
ジュエルはやはり、声を挟まない。
「神城さん。君は先日、偽骸を討伐している現場を部外者に見られた。一般人にあたる龍源寺さんに目撃された。そのことについて、怒りを感じている呪宝会関係者はね、君が思っているよりもずっと多いんだよ」
うなる豹たちを足許に従えた巴が、ジュエルめがけて粘っこい微笑みを投げた。
その顔は、肉を欲する獣のようにいびつで恐ろしく、さらには狡猾ですらあった。
【続く】
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