かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第三章 光は去らず

第十三話

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「なにが言いたいの」ジュエルが口を開いた。
「私は確かに化神けしんであるけど、──まさか、そのことを疑っているっていうの?」
美美子は軽く身震いをした。ジュエルがあんなに低い声を出したことは、これまで一度もなかったものだから。
けれど、ともえは笑顔のままだ。自分の優位を心から信じているがゆえに、笑みを収めぬのだろう。
「あれ? 怒っちゃったのかなあ?」軽い口調で巴が言った。
「ごめんごめん、謝るよ。……ただ、」
巴が真顔になる。
「ただ、私、君の名前を聞いたことがないんだ。呪宝会じゅほうかい中枢部ちゅうすうぶにいるこの私が知らないなんて、ありえないはずなのに」
「大した自信だなあ」ジュエルが吐き捨てるように呟く。
「うぬぼれもそこまで行くと、一種の才能みたいなものになるみたいだね」
──美美子はびくりと身をすくませた。
(ジュエル、駄目……。挑発なんかしちゃ駄目よ……!)
けれど、彼は挑発を止めない。怒りの表情を浮かべる巴をまっすぐににらみつけては、
「弱い犬ほどよく吠えるものなんだなあ」
と声を上げる。
「……なにが言いたいんだ」
目に見えて不機嫌になった巴に向かって、ジュエルが声を放った。「言った通りの意味だよ。『弱い犬ほどよく吠える』」
「犬。……犬かぁ」
巴が再び笑った。
ぬるい夜風が吹きわたる。
「そっか。ここまで説明してあげても、自分の立場がわからないのか」
獣たちが一瞬、静まる。
彼らの双眸そうぼうにともる光は、ぎ立てのナイフのように鋭い。
神城かみしろさんってもう少し頭がいいんじゃないかなと思っていたんだけど、どうやら私の見込み違いだったようだね」
風が止む。
空に架かる月はない。
「──死ね」
ひときわ低い声が、美美子の耳に聞こえた。
「駄目……!」
叫ぶ。
感情の高まりに合わせ、巨大な防護膜ぼうごまくがジュエルの前に組み上がる。
獣たちはひるまない。弾丸のように薄膜うすまくにぶつかっては、半透明なその物体を破壊せんとする。
「……っ……、」
美美子はうめいた。
獣たちが膜に体を当てるにつれ、痛みが積み重なっていくのを感じた。
「美美子ちゃん……!」
ジュエルの顔色があきらかに変わった。「やめて! 美美子ちゃんの体が傷ついちゃう!」
「だよねぇ」
獣たちへの命令を解除せぬまま、巴がニタニタと微笑んだ。
「力の強さは、体と心の強さに比例する。それは攻撃系魔法にも防御系魔法にも当てはまること。……さて、龍源寺りゅうげんじさんはどこまで持ちこたえられるかな?」
「そんな……。いますぐやめて! 美美子ちゃんを苦しめないで!」
「そうだなあ」
獣たちの動きがぴたりと止まる。
「そうだねえ……。どうしようか」
思わせぶりな視線を投げてくる巴に向かい、美美子は言った。「新月さん。あなた、さっき、私のことが好きだと言ったよね?」
「んー? まあ、そうだけど」
「だったら、私のお願いを聞いて! ジュエルだけでも見逃してあげて!」

すると、巴が粘っこい笑みを返して、告げた。
「──嫌だね」

【続く】
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