かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第三章 光は去らず

第十四話

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「そういう話、嫌いじゃないよ? 自己犠牲って美しいもんね」
ともえの体が宙に浮く。
光の乏しい夜空の下、厚手あつでのスカートがさざ波のようにおどる。
「──けど、そういう展開、三次元には求めていないんだよね。私の行く手を遮る奴は、徹底的に潰しておかないと」
獣たちの目が赤々あかあかと光る。
巴の発言に同意するかのごとく、低い吠えごえがほうぼうで上がった。
「人間なんてね、世の美しいものからいちばん遠いところにいる生き物なの。仲のいい友達のふりして、実は相手の失敗を願ってたりする生き物なの。よそ行きの笑顔で自分の外見そとみを飾っては、気に入らない他人を容赦なく追い落とす生き物なの。
人間は醜いの。人間は皆、──生きる価値すら持たない、うわつらだけの、哀れな道化どうけなの!」
美美子は一瞬、息を飲んだ。
闇に浮かぶ巴の瞳に、ほんの少し、涙がにじんだように見えたからだ。
龍源寺りゅうげんじさん」
先刻までのかたとはまったく異なる表情で──、迷子になった幼子おさなごのように悲しげな表情で、巴が呼びかけてきた。
「なに?」
さしあたって、美美子は一言返事をした。「彼の感情を刺激したら、ジュエルに危害が及ぶ」と判断したためである。
「いま言った言葉は全部、私の本音だよ。人間なんて結局、誰も愛せやしない。自分のことも、他人のことも愛せやしない。愛の言葉を口にしながら人を殺す──それがヒトというしゅなんだもの」
「……」
「以前、『人類は暴力という病に罹患りかんしている』という話をしたよね? ……あれも、私の本音。私の真実だよ」
「……」
「あの話、中学のときの先生に最初にしたんだけどさ、思いっきり否定されたよ。『それはおかしい』って、はっきり言われちゃった。それは前にも語ったよね?」
美美子は黙って、話に耳を傾けた。巴の言葉が意味するものを、少しでも探るためである。
「──けど、龍源寺さんはなにも言わなかった。肯定も否定もせずに、いつも通り優しく微笑んでくれた。だから、私は──君のことが好きになった」
「それだけのことで?」
目を丸くして問いかけたところ、巴は、「そうだよ」と深くうなずいた。力強いうなずきであった。
「龍源寺さんってさ、いわゆる『自分の考え』ってやつを主張しないでしょ。ただただにっこり笑って、他人の話に耳を傾けているよね。困っている人にアドバイスとかする代わりに、まず、相手の話をしっかり聞くでしょ」
「……そうかしら?」
自分では意識したことがないのだが……。

「そうだよ」巴が言った。
「君は自分の意見を主張しない。だけど、他人の声にはしっかり耳を傾ける。──そこが君の美点びてんであり、才能なんだ」

【続く】
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