かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第三章 光は去らず

第十五話

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「才能だなんて……。人の言葉をきちんと聞くなんて、ごく当たり前のことじゃないの。そんなの、小学生だってできることなのに」
「ところが、できない奴もいるんだな。これが」ともえが言った。
「自分の都合しか考えられない奴とか、自分の欲望を押し通すことに必死になってる奴とか、自分と同じように他人も『心を持った人間』だと認められない奴が、この世にはいるんだ。──例えば、私の母親のようにね」
「えっ……」
突然、脈絡みゃくらくのない言葉を耳にし、美美子は驚きの声を上げた。「あなたのお母様がどうかしたの……?」
対する巴は、なぜか悔しげにそうを歪めている。そして、数秒もの間押し黙ったあとで、
「……別にいいじゃない。私の話なんて」
と呟くのだった。
「そんなの……。どうでもよくないわ」美美子は強く言い返す。
「無理にとは言わない。でも、……新月しんげつさんがお母様のせいでなにか悩んでいるのなら、話だけでも聞きたい」
「聞いてどうするの?」巴の表情が、さらに苦しげなものに変わる。
「君はただの子どもでしょ。異能の力だってない、呪宝会じゅほうかいの関係者でもない! なんの力を持たない人間が──化神けしんにすらなれない人間ごときが、わかったような口をくな!」
「わかるわけないじゃない!」
静寂が募る。
荒くなりまさった呼吸音を自覚しつつも、美美子はやや落ち着いた声音で繰り返した。「……わかるわけないじゃない」
わずかな光に照らされた闇の中、新月巴の顔だけがおぼろかに見えた。
彼は──泣いていた。声には出さず、涙もこぼさず、けれど、その表情はあきらかに泣いていた。号泣などせずとも、新月巴は泣いていたのだ。
「わかるわけないわよ。……だって、私と新月さんはただのクラスメイトなんだもの」
はあ、と息を軽く継いで、次なる言葉を頭に探す。
だけど、──脳裏に浮かぶ言葉なんて、どれもこれも陳腐なものだ。体裁ていさいのよいフレーズをいくら吐き出したところで、巴の胸には少しも響かないであろう。
だから、言った。
頭の中に記憶している耳当たりのよい台詞じゃなくて、胸の奥に漂うごくシンプルな言葉を。原始的な感情の奥に潜む、たったひとつの言葉を──。
「新月さん。あなた、間違ってるわ」
「なっ……、」
巴の顔がまたも歪んだ。怒りの表情である。
「あなたは間違っているわ」
怒気どきを満面にあらわす巴に体ごとまっすぐ向かい、美美子は声を張り上げた。

「あなたは間違っている!」
闇に浮く新月巴めがけ、美美子は再度、叫びを放った。

【続く】
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