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第三章 光は去らず
第十六話
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「な、なにを言うの……。この私に向かってなんてことを……」
あからさまに動揺した巴へ、駄目押しとばかりに、
「あなたは間違っているわ!」
──再三、叫び声をぶつけた。
(とにかく、ジュエルから気を逸らさないと……。せめて、あの子だけでも助かってほしいもの)
自己犠牲がどこまで通用するか、正確な予測などできるはずがなかった。
巴の能力が「闇」に関連している以上、夜明けが来ぬかぎり、こちらの不利は否めないのだ。いくら、ジュエルが化神といえども、果たして巴を倒すことができるかどうか──。
(……私にはわからない。でも、やれるだけやってみるわ。ジュエル、あなたに助かってほしいから)
宙に浮く巴をさっと振り仰ぎ、美美子は、
「月姿八態がどんなものか、庶民である私にわかるはずがないわ。だから、どんな権力を持っているのか、私は知らない」
「……」
「あなたの苦悩も私は知らない。ただのクラスメイトである私に、あなたの心など理解できるはずがない」
巴の顔に、表情らしきものはない。
「……あなたがお母様になにをされたのか、私は知らない。あなたがなぜ、自分の母親を憎んでいるのか私にはわからない。だけど!」
──だけど、恨む心を捨ててほしいと思う。
風すら吹かぬ空間に、美美子の声が響いた。
巴はまだ、浮いている。漂うように虚空に佇みながら、美美子だけを見下ろしている。
「恨む心を……。捨てる……?」
巴の声が降りてくる。芯のない、呆けた声が。
「恨む心を捨てるだって……? そ、そんなこと……できるはずが……」
「できるわ」美美子は空に向かって言った。
「いますぐできるとは思わないけど、そのうちできると思うの。だって、私も……他人を恨んだことがあるから」
「龍源寺さんが?」
「ええ、そうよ。私はね、昔、嫌なあだ名をつけられていたの。『ジミ子』というあだ名がかわいく思えるぐらいのひどいあだ名を、ね……」
「それは……なんなの?」
「『お手伝いさん』よ」
闇が静まる。
星と街灯だけが光を提供する中、二人は互いに目を逸らさず、相手のみを見据える。
「小学生の……四年生ぐらいのときだったかな。仲のいい友達が二人いたの。二人ともそんなに悪い子じゃなかった。いつも一緒に遊んでくれたし」
美美子はさらに話を続ける。
「その子たちの名前は、野々花ちゃんと律子ちゃんといった。……明るくて、クラスの中でも目立つような華のある子たちだった。
でも、その子たちは、私をね、『お手伝いさん』と呼んだの。お互いのことはちゃんと名前で呼ぶのに、私のことだけはなぜか、『お手伝いさん』と呼んだのよ……」
【続く】
あからさまに動揺した巴へ、駄目押しとばかりに、
「あなたは間違っているわ!」
──再三、叫び声をぶつけた。
(とにかく、ジュエルから気を逸らさないと……。せめて、あの子だけでも助かってほしいもの)
自己犠牲がどこまで通用するか、正確な予測などできるはずがなかった。
巴の能力が「闇」に関連している以上、夜明けが来ぬかぎり、こちらの不利は否めないのだ。いくら、ジュエルが化神といえども、果たして巴を倒すことができるかどうか──。
(……私にはわからない。でも、やれるだけやってみるわ。ジュエル、あなたに助かってほしいから)
宙に浮く巴をさっと振り仰ぎ、美美子は、
「月姿八態がどんなものか、庶民である私にわかるはずがないわ。だから、どんな権力を持っているのか、私は知らない」
「……」
「あなたの苦悩も私は知らない。ただのクラスメイトである私に、あなたの心など理解できるはずがない」
巴の顔に、表情らしきものはない。
「……あなたがお母様になにをされたのか、私は知らない。あなたがなぜ、自分の母親を憎んでいるのか私にはわからない。だけど!」
──だけど、恨む心を捨ててほしいと思う。
風すら吹かぬ空間に、美美子の声が響いた。
巴はまだ、浮いている。漂うように虚空に佇みながら、美美子だけを見下ろしている。
「恨む心を……。捨てる……?」
巴の声が降りてくる。芯のない、呆けた声が。
「恨む心を捨てるだって……? そ、そんなこと……できるはずが……」
「できるわ」美美子は空に向かって言った。
「いますぐできるとは思わないけど、そのうちできると思うの。だって、私も……他人を恨んだことがあるから」
「龍源寺さんが?」
「ええ、そうよ。私はね、昔、嫌なあだ名をつけられていたの。『ジミ子』というあだ名がかわいく思えるぐらいのひどいあだ名を、ね……」
「それは……なんなの?」
「『お手伝いさん』よ」
闇が静まる。
星と街灯だけが光を提供する中、二人は互いに目を逸らさず、相手のみを見据える。
「小学生の……四年生ぐらいのときだったかな。仲のいい友達が二人いたの。二人ともそんなに悪い子じゃなかった。いつも一緒に遊んでくれたし」
美美子はさらに話を続ける。
「その子たちの名前は、野々花ちゃんと律子ちゃんといった。……明るくて、クラスの中でも目立つような華のある子たちだった。
でも、その子たちは、私をね、『お手伝いさん』と呼んだの。お互いのことはちゃんと名前で呼ぶのに、私のことだけはなぜか、『お手伝いさん』と呼んだのよ……」
【続く】
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