かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

文字の大きさ
81 / 103
第三章 光は去らず

第二十六話

しおりを挟む
「私が行くよ。あの化け物に対抗できるのは私しかいないから」
雷鳴のごとき大音声だいおんじょうが響く中、ジュエルがこちらを振り向いて言った。
「美美子ちゃんは、啓約けいやくの力を使ってバリアを張って。そして、上月こうづきさんのことも守ってやって」
「そんなの……、駄目だよ」
涙に目を濡らしたともえが、美美子の隣で呟きを落とす。「私が偽骸ぎがいを倒すべきなんだ。家族の不始末ふしまつは、私の手でどうにかすべきだと思うもの」
「でもあの偽骸は、上月さん、君の母親だよ?」ジュエルがすかさず言い返す。
「大丈夫だから。君のことも美美子ちゃんのことも、私がちゃんと助けてみせるから。だから、ここは私の言う通りにして」
巴が口を閉ざす。おびえたような表情でジュエルを見ては、
「ごめん」
と、短い詫び言葉を口にする。
「謝らなくていいよ」ジュエルの口許が、わずかにほころぶ。
「困ったときはお互い様って言うし、私だってピンチになったときは、君に助けてもらうつもりなんだからね」
屈託くったくのない笑顔をひとしきり美美子らに向けたあと、
「……じゃ、行ってくる」
──ジュエルが偽骸のほうへと身を転じた。
美美子は恐怖に打ち震えた。
瞳に映る異形の恐ろしさ・おぞましさときたら、これまで親しんできたどのモンスターよりも上回っているように思われた。
事実、右に左に巨体きょたいを揺らし、実の娘の名を呼ぶ「それ」を見ていると手足がすくんだ。気持ちが萎えた。
「巴、巴、巴ーッ! 貴様はこの手で切り刻んでやルーッ!」
呪詛めいた雄叫びをしきりに発しながら、怪物が四肢ししをばたつかせる。山さながらの大きな体躯たいくが動くたび、ドシン、ドシン……と鈍い音が鳴り響いた。
いびつなまでに奇態きたいな生き物──否、もはや生き物とすら呼べぬ異形が、
「巴ーッ!」
と、けたたましく吠える。白く濁った肌に幾筋いくすじもの太い血管を浮かべては、
「お前だけは許さんからナーッ!」
──耳許みみもとまで裂けた口を閉じ開きし、傲然ごうぜんと叫ぶ。何度も叫ぶ。
(怖がってちゃ駄目だわ……。まず、新月しんげつさんの安全を確保しないと)
右手を見る。
花びら状に刻まれた御印みしるしが、ほんのりと熱を帯びる。
「お願い……。力を貸して」
小さな声で呟く。
すると、啓約の証たるアザが応えるようにぴかりと光った。
音もなくバリアが現れ、美美子と巴の周りを囲む。青く透きとおった光が渦巻くようにめぐり、怪物から二人を守った。
「おのレ……。こしゃくな真似ヲ……」
バリアを張られたことがよほど悔しいのだろう。怪物がその場で地団駄じだんだを踏む。
「結界など、この手で壊してやル……!」
どろどろに溶けた皮膚を惜しげもなく晒したまま、偽骸が移動し始める。

──と、そこへ、
「待ちなさい! そこの怪物!」
と声を上げる者がいた。

神城かみしろジュエルが偽骸の前に進み出たのだ。

【続く】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...