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第三章 光は去らず
第二十六話
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「私が行くよ。あの化け物に対抗できるのは私しかいないから」
雷鳴のごとき大音声が響く中、ジュエルがこちらを振り向いて言った。
「美美子ちゃんは、啓約の力を使ってバリアを張って。そして、上月さんのことも守ってやって」
「そんなの……、駄目だよ」
涙に目を濡らした巴が、美美子の隣で呟きを落とす。「私が偽骸を倒すべきなんだ。家族の不始末は、私の手でどうにかすべきだと思うもの」
「でもあの偽骸は、上月さん、君の母親だよ?」ジュエルがすかさず言い返す。
「大丈夫だから。君のことも美美子ちゃんのことも、私がちゃんと助けてみせるから。だから、ここは私の言う通りにして」
巴が口を閉ざす。怯えたような表情でジュエルを見ては、
「ごめん」
と、短い詫び言葉を口にする。
「謝らなくていいよ」ジュエルの口許が、わずかにほころぶ。
「困ったときはお互い様って言うし、私だってピンチになったときは、君に助けてもらうつもりなんだからね」
屈託のない笑顔をひとしきり美美子らに向けたあと、
「……じゃ、行ってくる」
──ジュエルが偽骸のほうへと身を転じた。
美美子は恐怖に打ち震えた。
瞳に映る異形の恐ろしさ・おぞましさときたら、これまで親しんできたどのモンスターよりも上回っているように思われた。
事実、右に左に巨体を揺らし、実の娘の名を呼ぶ「それ」を見ていると手足が竦んだ。気持ちが萎えた。
「巴、巴、巴ーッ! 貴様はこの手で切り刻んでやルーッ!」
呪詛めいた雄叫びをしきりに発しながら、怪物が四肢をばたつかせる。山さながらの大きな体躯が動くたび、ドシン、ドシン……と鈍い音が鳴り響いた。
いびつなまでに奇態な生き物──否、もはや生き物とすら呼べぬ異形が、
「巴ーッ!」
と、けたたましく吠える。白く濁った肌に幾筋もの太い血管を浮かべては、
「お前だけは許さんからナーッ!」
──耳許まで裂けた口を閉じ開きし、傲然と叫ぶ。何度も叫ぶ。
(怖がってちゃ駄目だわ……。まず、新月さんの安全を確保しないと)
右手を見る。
花びら状に刻まれた御印が、ほんのりと熱を帯びる。
「お願い……。力を貸して」
小さな声で呟く。
すると、啓約の証たるアザが応えるようにぴかりと光った。
音もなくバリアが現れ、美美子と巴の周りを囲む。青く透きとおった光が渦巻くようにめぐり、怪物から二人を守った。
「おのレ……。こしゃくな真似ヲ……」
バリアを張られたことがよほど悔しいのだろう。怪物がその場で地団駄を踏む。
「結界など、この手で壊してやル……!」
どろどろに溶けた皮膚を惜しげもなく晒したまま、偽骸が移動し始める。
──と、そこへ、
「待ちなさい! そこの怪物!」
と声を上げる者がいた。
神城ジュエルが偽骸の前に進み出たのだ。
【続く】
雷鳴のごとき大音声が響く中、ジュエルがこちらを振り向いて言った。
「美美子ちゃんは、啓約の力を使ってバリアを張って。そして、上月さんのことも守ってやって」
「そんなの……、駄目だよ」
涙に目を濡らした巴が、美美子の隣で呟きを落とす。「私が偽骸を倒すべきなんだ。家族の不始末は、私の手でどうにかすべきだと思うもの」
「でもあの偽骸は、上月さん、君の母親だよ?」ジュエルがすかさず言い返す。
「大丈夫だから。君のことも美美子ちゃんのことも、私がちゃんと助けてみせるから。だから、ここは私の言う通りにして」
巴が口を閉ざす。怯えたような表情でジュエルを見ては、
「ごめん」
と、短い詫び言葉を口にする。
「謝らなくていいよ」ジュエルの口許が、わずかにほころぶ。
「困ったときはお互い様って言うし、私だってピンチになったときは、君に助けてもらうつもりなんだからね」
屈託のない笑顔をひとしきり美美子らに向けたあと、
「……じゃ、行ってくる」
──ジュエルが偽骸のほうへと身を転じた。
美美子は恐怖に打ち震えた。
瞳に映る異形の恐ろしさ・おぞましさときたら、これまで親しんできたどのモンスターよりも上回っているように思われた。
事実、右に左に巨体を揺らし、実の娘の名を呼ぶ「それ」を見ていると手足が竦んだ。気持ちが萎えた。
「巴、巴、巴ーッ! 貴様はこの手で切り刻んでやルーッ!」
呪詛めいた雄叫びをしきりに発しながら、怪物が四肢をばたつかせる。山さながらの大きな体躯が動くたび、ドシン、ドシン……と鈍い音が鳴り響いた。
いびつなまでに奇態な生き物──否、もはや生き物とすら呼べぬ異形が、
「巴ーッ!」
と、けたたましく吠える。白く濁った肌に幾筋もの太い血管を浮かべては、
「お前だけは許さんからナーッ!」
──耳許まで裂けた口を閉じ開きし、傲然と叫ぶ。何度も叫ぶ。
(怖がってちゃ駄目だわ……。まず、新月さんの安全を確保しないと)
右手を見る。
花びら状に刻まれた御印が、ほんのりと熱を帯びる。
「お願い……。力を貸して」
小さな声で呟く。
すると、啓約の証たるアザが応えるようにぴかりと光った。
音もなくバリアが現れ、美美子と巴の周りを囲む。青く透きとおった光が渦巻くようにめぐり、怪物から二人を守った。
「おのレ……。こしゃくな真似ヲ……」
バリアを張られたことがよほど悔しいのだろう。怪物がその場で地団駄を踏む。
「結界など、この手で壊してやル……!」
どろどろに溶けた皮膚を惜しげもなく晒したまま、偽骸が移動し始める。
──と、そこへ、
「待ちなさい! そこの怪物!」
と声を上げる者がいた。
神城ジュエルが偽骸の前に進み出たのだ。
【続く】
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