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第三章 光は去らず
第二十八話
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芝生の上に着地したジュエルが軽やかに身を翻し、第二撃、第三撃を繰り出す。かつて新月アヤメとして活動していた単眼の巨人に、鋼色の衝撃波を浴びせる。
目の前で始まった戦闘は、美美子の心に深い感動をもたらした。
だって、夢にまで見た「ファンタジー」が現実のものとして、間近で展開されているのだ。
長年ファンタジーを愛好してきた自分にとっては、願ったりもない機会であった。
「すごい……」
神速と呼びうる速さで怪物を攻撃するジュエルを見、巴が感嘆の声を上げる。
「神城さんって、あんなに強かったんだ」
「……ええ」
超常の力を存分に発揮する恋人に視線を集中させたまま、美美子はこくりとうなずいた。
「さすがは神様ね。あんなに大きな怪物も翻弄するなんて──」
ものすごい速度で攻め込んでいるにもかかわらず、ジュエルは息切れひとつしていなかった。涼しげな顔で偽骸に痛打を与える彼は、鬼神のように強く、勇ましく、──神々しかった。
「うあああああアッ! 小娘ーッ! 貴様のことも食らってやるゾ! 殺してやるゾ!」
地を揺るがすような叫びが、巨人の口から漏れる。
しかし、ジュエルは怯まない。助走なしで大きくジャンプし、またも巨人の眉間を傷つける。
「うああああアーッ!」
巨人が派手に悲鳴する。
醜くふくらんだ肉体を左右に打ち振っては、悔しげに手足をばたつかせる。
「おのレ、おのレ、おのレーッ! 殺してやル、殺してやルーッ!」
怨念をたっぷり含んだ叫び声を響かせて、巨人が再び立ち上がった。
けれど、──押されているのは、偽骸のほうだった。
華麗な体さばき、足さばきを見せるジュエルを捕らえようとするのだが、そのたびに逃げられている。ジュエルの動きがあまりに機敏なものだから、かすめることすらできずにいるのだ。
「死ネ、私に逆らう者はひとり残らず滅んでしまエ!」
空気までもを震わせる声を発しながら、巨人が腕を地に下ろす。
だが、やはり、ジュエルを捕らえるには至らない。
──タン、と軽やかな音を立て、ジュエルが跳躍する。舞踏のように美しく宙に跳んでは、巨人めがけて特大の衝撃波を撃ち込む──。
「ひぃ……ッ!」
怪物がうめく。
そして倒れる。
バランスを失った巨体がみっともなく前にのめり、地面に巨大な陥没穴を作る。
「おのレ……! おのレ……!」
巨人がのそりと起き上がる。緑色の濁った血潮を流しながら、
「おのレーッ!」
と無様に吠えて、立ち上がる。
「さっさと降参したほうがいいよ」
迎撃態勢をとったジュエルが、淡々と告げた。
「新月アヤメ。あなたの敗北は確定している。次代の秘神たるこの私が、偽骸ごときに負けるはずがないんだからね」
【続く】
目の前で始まった戦闘は、美美子の心に深い感動をもたらした。
だって、夢にまで見た「ファンタジー」が現実のものとして、間近で展開されているのだ。
長年ファンタジーを愛好してきた自分にとっては、願ったりもない機会であった。
「すごい……」
神速と呼びうる速さで怪物を攻撃するジュエルを見、巴が感嘆の声を上げる。
「神城さんって、あんなに強かったんだ」
「……ええ」
超常の力を存分に発揮する恋人に視線を集中させたまま、美美子はこくりとうなずいた。
「さすがは神様ね。あんなに大きな怪物も翻弄するなんて──」
ものすごい速度で攻め込んでいるにもかかわらず、ジュエルは息切れひとつしていなかった。涼しげな顔で偽骸に痛打を与える彼は、鬼神のように強く、勇ましく、──神々しかった。
「うあああああアッ! 小娘ーッ! 貴様のことも食らってやるゾ! 殺してやるゾ!」
地を揺るがすような叫びが、巨人の口から漏れる。
しかし、ジュエルは怯まない。助走なしで大きくジャンプし、またも巨人の眉間を傷つける。
「うああああアーッ!」
巨人が派手に悲鳴する。
醜くふくらんだ肉体を左右に打ち振っては、悔しげに手足をばたつかせる。
「おのレ、おのレ、おのレーッ! 殺してやル、殺してやルーッ!」
怨念をたっぷり含んだ叫び声を響かせて、巨人が再び立ち上がった。
けれど、──押されているのは、偽骸のほうだった。
華麗な体さばき、足さばきを見せるジュエルを捕らえようとするのだが、そのたびに逃げられている。ジュエルの動きがあまりに機敏なものだから、かすめることすらできずにいるのだ。
「死ネ、私に逆らう者はひとり残らず滅んでしまエ!」
空気までもを震わせる声を発しながら、巨人が腕を地に下ろす。
だが、やはり、ジュエルを捕らえるには至らない。
──タン、と軽やかな音を立て、ジュエルが跳躍する。舞踏のように美しく宙に跳んでは、巨人めがけて特大の衝撃波を撃ち込む──。
「ひぃ……ッ!」
怪物がうめく。
そして倒れる。
バランスを失った巨体がみっともなく前にのめり、地面に巨大な陥没穴を作る。
「おのレ……! おのレ……!」
巨人がのそりと起き上がる。緑色の濁った血潮を流しながら、
「おのレーッ!」
と無様に吠えて、立ち上がる。
「さっさと降参したほうがいいよ」
迎撃態勢をとったジュエルが、淡々と告げた。
「新月アヤメ。あなたの敗北は確定している。次代の秘神たるこの私が、偽骸ごときに負けるはずがないんだからね」
【続く】
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