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第三章 光は去らず
第二十九話
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「嘘……!」
青いバリアに守られる中、巴がよろめくようにあとずさった。「神城さんが……。次の代の秘神様だって……?」
あからさまに動揺する巴が気になった美美子は、
「どうしたの、新月さん」
と、無邪気に問いかけた。
御印を利用して設けたバリアの内側には、清浄な空気が流れていた。巨人がまき散らす臭気も瘴気も、この空間には届かないのだ。
「どうしたの、って……。
君も知ってるだろうけど、秘神様って呪宝会のトップなんだよ!? 側仕えの方々以外の前に現れたことがないの」
「信じられない」と言いたげに相を歪めた巴が、ジュエルへと視線を送る。
「……龍源寺さん。君はとんでもない恋人を持っているんだね」
「そうかしら?」
「そうだよ」
巴がすぐさま言葉を返す。
「呪宝会は国家権力すらたやすく動かす組織なんだ。そして、秘神様はね、その組織のトップに君臨するお方なんだよ。月姿八態に属する私ごときがかなう相手じゃない」
半透明の膜の向こうで、ジュエルが怪物を圧倒している。のたうちまわる巨人を積極的に追いまわしては、嬉々とした表情で、体に傷を与えている──。
「まるで阿修羅みたいだわ」美美子は呟いた。「戦を司る神様みたいに強くて恐ろしいもの……」
事実、戦闘に臨むジュエルは、古代世界で活躍した戦神のようだった。水を得た魚のように生き生きと攻撃を仕掛けては、巨躯を誇る怪物にダメージを与えている。
外見こそヒトのかたちをしているが、やはり、彼は──人知を越えた存在なのだ。現世に降臨した一柱の神なのだ……。
「お、お、おのレ……! こうなったラ……、」
怒ったように目じりをつり上げたのち、巨人が突然、美美子らのほうに向き直った。
「えっ……!」
怪物の意図するところが予測できず、美美子は思わず悲鳴じみた声を上げる。
そして──、月のない夜空の下、怪物が笑った。
──ドン……ッ、と。
耳をつんざくような物音が響いたのと同時に、
「きゃああああああっ!」
美美子はその場に倒れた。
手のひらより生み出したこの結界は、いわば、美美子の分身みたいな存在だ。
ゆえに、啓約をもとに造ったそれが傷つくと、その影響で創造者たる美美子も傷つくのである。
御印の所有者と術を用いて生み出した物体は、感覚的に繋がっている──その法則を利用して、巨人は美美子を攻撃したのだ。本人でなく、結界を派手に傷めつけることで、美美子に一撃を食らわせたのである。
「嫌だ……。龍源寺さん、……龍源寺さん!」
仰向けに倒れ込んだ美美子の傍に、巴が駆け寄り、しゃがみ込む。
「なんてことをするんだ! 無抵抗の民間人を狙うなんて、随分卑怯な真似を……!」
制服に大量の血がにじむ。
頭の中がもうろうとしてくる。
(私……、死んじゃうのかな……)
巴の泣き声を遠くに感じながら、美美子はまぶたを下ろした。
そのときだった。
「ごめんなさい、龍源寺さん。本当にごめんなさいね」
思わぬ人物の声が聞こえた。
【続く】
青いバリアに守られる中、巴がよろめくようにあとずさった。「神城さんが……。次の代の秘神様だって……?」
あからさまに動揺する巴が気になった美美子は、
「どうしたの、新月さん」
と、無邪気に問いかけた。
御印を利用して設けたバリアの内側には、清浄な空気が流れていた。巨人がまき散らす臭気も瘴気も、この空間には届かないのだ。
「どうしたの、って……。
君も知ってるだろうけど、秘神様って呪宝会のトップなんだよ!? 側仕えの方々以外の前に現れたことがないの」
「信じられない」と言いたげに相を歪めた巴が、ジュエルへと視線を送る。
「……龍源寺さん。君はとんでもない恋人を持っているんだね」
「そうかしら?」
「そうだよ」
巴がすぐさま言葉を返す。
「呪宝会は国家権力すらたやすく動かす組織なんだ。そして、秘神様はね、その組織のトップに君臨するお方なんだよ。月姿八態に属する私ごときがかなう相手じゃない」
半透明の膜の向こうで、ジュエルが怪物を圧倒している。のたうちまわる巨人を積極的に追いまわしては、嬉々とした表情で、体に傷を与えている──。
「まるで阿修羅みたいだわ」美美子は呟いた。「戦を司る神様みたいに強くて恐ろしいもの……」
事実、戦闘に臨むジュエルは、古代世界で活躍した戦神のようだった。水を得た魚のように生き生きと攻撃を仕掛けては、巨躯を誇る怪物にダメージを与えている。
外見こそヒトのかたちをしているが、やはり、彼は──人知を越えた存在なのだ。現世に降臨した一柱の神なのだ……。
「お、お、おのレ……! こうなったラ……、」
怒ったように目じりをつり上げたのち、巨人が突然、美美子らのほうに向き直った。
「えっ……!」
怪物の意図するところが予測できず、美美子は思わず悲鳴じみた声を上げる。
そして──、月のない夜空の下、怪物が笑った。
──ドン……ッ、と。
耳をつんざくような物音が響いたのと同時に、
「きゃああああああっ!」
美美子はその場に倒れた。
手のひらより生み出したこの結界は、いわば、美美子の分身みたいな存在だ。
ゆえに、啓約をもとに造ったそれが傷つくと、その影響で創造者たる美美子も傷つくのである。
御印の所有者と術を用いて生み出した物体は、感覚的に繋がっている──その法則を利用して、巨人は美美子を攻撃したのだ。本人でなく、結界を派手に傷めつけることで、美美子に一撃を食らわせたのである。
「嫌だ……。龍源寺さん、……龍源寺さん!」
仰向けに倒れ込んだ美美子の傍に、巴が駆け寄り、しゃがみ込む。
「なんてことをするんだ! 無抵抗の民間人を狙うなんて、随分卑怯な真似を……!」
制服に大量の血がにじむ。
頭の中がもうろうとしてくる。
(私……、死んじゃうのかな……)
巴の泣き声を遠くに感じながら、美美子はまぶたを下ろした。
そのときだった。
「ごめんなさい、龍源寺さん。本当にごめんなさいね」
思わぬ人物の声が聞こえた。
【続く】
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