かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

文字の大きさ
84 / 103
第三章 光は去らず

第二十九話

しおりを挟む
「嘘……!」
青いバリアに守られる中、ともえがよろめくようにあとずさった。「神城かみしろさんが……。次の代の秘神ひめがみ様だって……?」
あからさまに動揺する巴が気になった美美子は、
「どうしたの、新月しんげつさん」
と、無邪気に問いかけた。
御印みしるしを利用して設けたバリアの内側には、清浄な空気が流れていた。巨人がまき散らす臭気も瘴気しょうきも、この空間には届かないのだ。
「どうしたの、って……。
君も知ってるだろうけど、秘神様って呪宝会じゅほうかいのトップなんだよ!? 側仕そばづかえの方々以外の前に現れたことがないの」
「信じられない」と言いたげにそうを歪めた巴が、ジュエルへと視線を送る。
「……龍源寺りゅうげんじさん。君はとんでもない恋人を持っているんだね」
「そうかしら?」
「そうだよ」
巴がすぐさま言葉を返す。
「呪宝会は国家権力すらたやすく動かす組織なんだ。そして、秘神様はね、その組織のトップに君臨するお方なんだよ。月姿八態げっしはちたいに属する私ごときがかなう相手じゃない」
半透明の膜の向こうで、ジュエルが怪物を圧倒している。のたうちまわる巨人を積極的に追いまわしては、嬉々とした表情で、体に傷を与えている──。
「まるで阿修羅あしゅらみたいだわ」美美子は呟いた。「戦を司る神様みたいに強くて恐ろしいもの……」
事実、戦闘に臨むジュエルは、古代世界で活躍した戦神のようだった。水を得た魚のように生き生きと攻撃を仕掛けては、巨躯きょくを誇る怪物にダメージを与えている。
外見こそヒトのかたちをしているが、やはり、彼は──人知じんちを越えた存在なのだ。現世に降臨した一柱ひとはしらの神なのだ……。
「お、お、おのレ……! こうなったラ……、」
怒ったように目じりをつり上げたのち、巨人が突然、美美子らのほうに向き直った。
「えっ……!」
怪物の意図するところが予測できず、美美子は思わず悲鳴じみた声を上げる。
そして──、月のない夜空の下、怪物が笑った。
──ドン……ッ、と。
耳をつんざくような物音が響いたのと同時に、
「きゃああああああっ!」
美美子はその場に倒れた。
手のひらより生み出したこの結界は、いわば、美美子の分身みたいな存在だ。
ゆえに、啓約けいやくをもとに造ったそれが傷つくと、その影響で創造者たる美美子も傷つくのである。
御印みしるしの所有者と術を用いて生み出した物体は、感覚的につながっている──その法則を利用して、巨人は美美子を攻撃したのだ。本人でなく、結界を派手にいためつけることで、美美子に一撃を食らわせたのである。
「嫌だ……。龍源寺さん、……龍源寺さん!」
仰向あおむけに倒れ込んだ美美子のそばに、巴が駆け寄り、しゃがみ込む。
「なんてことをするんだ! 無抵抗の民間人みんかんじんを狙うなんて、随分卑怯な真似を……!」
制服に大量の血がにじむ。
頭の中がもうろうとしてくる。
(私……、死んじゃうのかな……)
巴の泣き声を遠くに感じながら、美美子はまぶたを下ろした。

そのときだった。

「ごめんなさい、龍源寺さん。本当にごめんなさいね」
思わぬ人物の声が聞こえた。

【続く】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...