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第三章 光は去らず
第三十話
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驚きのあまり、美美子は目を見開いた。ここにはいないはずであろう人物の声を、確かに耳にしたものだから。
鈴のように高くて美しい声をしたその声には、聞き覚えがある。というよりも、ほぼ毎日聞いている。
「……雲雀山さん?」
さよう。
戦闘区域と化した夜の公園に、制服姿の雲雀山狭霧が登場したのである。
「ごめんなさい、龍源寺さん。もっと早くに駆けつけておけばよかった……」
呟くように言いながら、狭霧がバリアの中に入ってくる。
美美子は驚いた。巴も驚いたふうであった。
「どうして……? このバリアの中には、私と新月さん以外の人は入れないはずなのに」
すると、狭霧が短く答えた。「この結界は、偽骸やその他の敵対者以外の者は入れる仕組みになっているの。だからなのよ」
そして彼は前に歩むと、美美子のすぐ隣に腰を下ろした。
「ひどい傷……。なんてことをするのかしら、あの偽骸。神城さんにかなわないからって、まさか龍源寺さんを狙うなんて」
穏やかな口ぶりでそうひとりごちると、彼は美美子の額に右手を置いた。
──と。
「えっ……?」
美美子はさらに驚いた。
狭霧が額に触れた瞬間、体から激痛が消えたのだ。
「雲雀山さん。あなた、いったいなにをしたの……?」
「力を使って、龍源寺さんの肉体から痛みを取り除いたの。それと、止血もしたわ」
常とおなじく穏やかに微笑んで、狭霧が言った。
まったく、なにが起きたのかさっぱりわからなかった。化神でもなんでもない狭霧が、どうしてそんな力を操れるのだろうか。
信じられぬ思いを胸に覚えたまま、美美子は上体を起こした。制服に血液が付着しているが、もう痛みはない。傷痕だって完全に消えている。
「いままで黙っていてごめんなさいね。……私、実はワタリなの」
「ええっ!?」巴が驚きに目を剥いた。
「嘘っ。雲雀山さんって、呪宝会の関係者だったの……?」
美美子は狭霧の顔を見た。]
教室にいるときと同様、彼はたおやかに微笑んでいる。
「いままで話していなかったけれど、私はワタリという役職についている者なの」
なめらかな口ぶりで、狭霧が説明を始めた。
「M性の中にはね、ヒトの身でありながら異能の力を持つ者が生まれることがあるの。私もそうよ。化神ほどの強い力は持っていないけれど、ちょっとした怪我を治すことくらいならできるわ」
「なるほど……。ワタリか」気を取り直した巴が、もっともらしくうなずく。
「呪宝会には確かにワタリが存在するけど……。なるほど、君もそうだったのか」
「折を見て打ち明けるつもりだったのよ」静かな声で、狭霧が言う。
「龍源寺さんは神城さんの婚約者だし、上月さんは新月家の血を引くお方なんですもの。正体を明かしても、なにも問題ないわ」
「……私の素性を知っているの?」
「ええ」
狭霧がにこやかに返事をする。
「新月家のご令嬢といえば、月姿八態の中でも、かなりの力の持ち主なんですもの。化神でない私でも、お顔ぐらいなら存じ上げておりましたわ」
【続く】
鈴のように高くて美しい声をしたその声には、聞き覚えがある。というよりも、ほぼ毎日聞いている。
「……雲雀山さん?」
さよう。
戦闘区域と化した夜の公園に、制服姿の雲雀山狭霧が登場したのである。
「ごめんなさい、龍源寺さん。もっと早くに駆けつけておけばよかった……」
呟くように言いながら、狭霧がバリアの中に入ってくる。
美美子は驚いた。巴も驚いたふうであった。
「どうして……? このバリアの中には、私と新月さん以外の人は入れないはずなのに」
すると、狭霧が短く答えた。「この結界は、偽骸やその他の敵対者以外の者は入れる仕組みになっているの。だからなのよ」
そして彼は前に歩むと、美美子のすぐ隣に腰を下ろした。
「ひどい傷……。なんてことをするのかしら、あの偽骸。神城さんにかなわないからって、まさか龍源寺さんを狙うなんて」
穏やかな口ぶりでそうひとりごちると、彼は美美子の額に右手を置いた。
──と。
「えっ……?」
美美子はさらに驚いた。
狭霧が額に触れた瞬間、体から激痛が消えたのだ。
「雲雀山さん。あなた、いったいなにをしたの……?」
「力を使って、龍源寺さんの肉体から痛みを取り除いたの。それと、止血もしたわ」
常とおなじく穏やかに微笑んで、狭霧が言った。
まったく、なにが起きたのかさっぱりわからなかった。化神でもなんでもない狭霧が、どうしてそんな力を操れるのだろうか。
信じられぬ思いを胸に覚えたまま、美美子は上体を起こした。制服に血液が付着しているが、もう痛みはない。傷痕だって完全に消えている。
「いままで黙っていてごめんなさいね。……私、実はワタリなの」
「ええっ!?」巴が驚きに目を剥いた。
「嘘っ。雲雀山さんって、呪宝会の関係者だったの……?」
美美子は狭霧の顔を見た。]
教室にいるときと同様、彼はたおやかに微笑んでいる。
「いままで話していなかったけれど、私はワタリという役職についている者なの」
なめらかな口ぶりで、狭霧が説明を始めた。
「M性の中にはね、ヒトの身でありながら異能の力を持つ者が生まれることがあるの。私もそうよ。化神ほどの強い力は持っていないけれど、ちょっとした怪我を治すことくらいならできるわ」
「なるほど……。ワタリか」気を取り直した巴が、もっともらしくうなずく。
「呪宝会には確かにワタリが存在するけど……。なるほど、君もそうだったのか」
「折を見て打ち明けるつもりだったのよ」静かな声で、狭霧が言う。
「龍源寺さんは神城さんの婚約者だし、上月さんは新月家の血を引くお方なんですもの。正体を明かしても、なにも問題ないわ」
「……私の素性を知っているの?」
「ええ」
狭霧がにこやかに返事をする。
「新月家のご令嬢といえば、月姿八態の中でも、かなりの力の持ち主なんですもの。化神でない私でも、お顔ぐらいなら存じ上げておりましたわ」
【続く】
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