かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第三章 光は去らず

第三十一話

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思わぬところで級友に会って、美美子はいたく驚いた。
けれども、「雲雀山ひばりやまさんのおかげで、気分がちょっと軽くなったわ」と思ったのも事実である。
いずれにしても、味方は多いほうがいい。
あの単眼の巨人の腕力ときたら、並大抵なみたいていのものではない。周囲にもしも建物があったなら、地面からそれを引っこ抜き、ジュエルめがけて思いっきり投げ飛ばしたり──などというような真似をしでかしていたかもしれない。
あんな巨大な化け物が町中まちなかで暴れたら、住民たちにも被害が及ぶであろう。
「ジュエル……」
怪物と一戦を繰り広げている恋人へと目をやる。するとそこには、
──そこには、徹底的に、完膚かんぷなきまでに巨人を叩きのめす彼の姿があった。
自分のいる位置からは、横顔しかうかがい知ることができぬが、それでも彼が憤慨ふんがいしていると見て取れた。偽骸ぎがいを越えた美しき化け物が、そこにいた。
ジュエルが刀を振るう。
満面に尋常でない怒気どきを閃かせては、地響きを上げて倒れ伏した巨人に一太刀ひとたち浴びせる。
緑色の粘った血液が、ブシュ、と濁音だくおんを立てて飛び散った。
「勝負合ったみたいね」真剣な表情で、狭霧さぎりが言う。
戦が始まる前、偽骸のもとにひとりで歩いていったジュエルをの当たりにしたとき、美美子は焦った。憂いもした。「いくら神様とはいえ、巨人と張り合ったりできるのかな」と、本気で心配した。
しかし、ふたを開けてみたら、ジュエルの圧勝だった。
単眼の巨人は、彼に傷をつけることすらできないまま敗北してしまったのだ……。
「あの子、あんなに強かったのね……」
さきほど彼のことを阿修羅あしゅらに例えたが、その発想はあながち間違っていないように思われた。彼は臆せずひるみもせず、実に鮮やかな手さばきで怪物を死に至らしめたのだ──修羅道しゅらどうをゆく神の名に例えても、別段べつだん不自然ではなかろう。
怪物は石のように動かなくなった。
その数秒後には大量のちりと化し、ついには──消滅した。
「お母様……」
結界の中にとどまったまま、ともえが小声で呟いた。彼はわずかに泣いていた。
「無理もないわね」と美美子は思った。
偽骸に変じてしまったとはいえ、新月しんげつアヤメは、巴にとってただひとりの母なのだ。肉親にくしんなのだ。複雑な事情はあれど、血を分けた存在であることに変わりない。
しんとした空気が広場ににじむ。
巴の涙は、かれそうにない。

と。

「えっ……?」
美美子はたじろいだ。

手のうちに武器をしまったジュエルの身より、乳色ちちいろの渦が発生しはじめたのだ。
煙のようにどんどん広がりゆくそれを見た狭霧が、
「いけない!」
と叫んだ。彼にしては珍しく、とても焦ったふうに身を乗り出している。

不透明な白さを呈する「渦」はジュエルの体を包むと、暗い空へと立ちのぼった。
美美子は胸騒ぎを覚えた。

【続く】
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