かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第三章 光は去らず

第三十三話

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神城かみしろさんがあのまま暴走し続けたら、このあたりの家の人、巻き込まれるんじゃないかな」
憂い顔でともえがぼそりと呟いたところ、それまで黙りこくっていた狭霧さぎりが、
「その点は心配しなくていいわ」
と応えた。
「万が一のことを考えて、半径二キロ以内に住む方々には避難してもらったわ。『不発弾ふはつだんを処理する』という情報を自衛隊の皆さんと協力して流したの。だから、その点に関しては、なにも心配しなくていいわよ」
「なるほど……。偽骸ぎがいに勝利したから、問題はあとひとつしか残っていないわけだ」巴が呟く。
一同揃って、口を閉ざす。
美美子は黙った。巴や狭霧、そして久永ひさながの顔をちらりと見やりながらも、口だけは固く閉ざした。
ジュエルは強い。とんでもなく強い。先刻の戦闘では鬼神きしんのごとき大活躍を果たしたくらいだ──並の者では彼の動きに追いつくことすらできないであろう。
──しかし、その彼はいま、完全に正気を失っている。魂だけの存在に変貌しつつある。
正直に言うと、美美子は怖れを感じていた。ファンタジーもファンタジーを体現たいげんする存在も大好きだが、命の危険が迫っているいま、悠長ゆうちょうに趣味を楽しむ余裕などなかった。
(ジュエル……)
濁った乳色ちちいろをした渦が、柱石ちゅうせきのごとく天に伸びる。
結界の外は、狂ったように吹きすさぶ風に煽られ続けている。
目を凝らして恋人の姿を探すが、ジュエルの姿はどこにも見えない。
「……美美子ちゃん」
荒れる外界がいかいを見守るように黙り込んでいた久永が、急に呼びかけてきた。
「ひとつだけ──、あの子を助けることができるかもしれない方法があるわ」
「あるんですか!?」美美子は思わず前のめりになった。
「ええ、あるわ。必ず助かるという保証はないけれど、なにもしないよりはましかもしれない」
「ひとつの賭けですね」狭霧が言った。
「でも、なにもしないよりかはいいと思うよ」巴が言った。
「あの……、久永さん。その方法ってなんですか?」
久永の顔が一瞬、陰る。
けれど、彼は気を取り直したように淡くむと、美美子からの問いかけに答えた。
「美美子ちゃん。あなたも魂だけの存在となって、ジュエルの心に直接アクセスするの」
「え……。私が……ですか?」
「そうよ。あなたはジュエルの添えびと──次代の秘神ひめがみ候補とちぎりを交わした者。そして、彼に愛された者。ならば、あの子の心に入り込むくらい、造作ぞうさもないはずよ」
言って、久永が唇の両端りょうたんを上向かせる。「さあ、どうする?」と言いたげな顔をして、美美子の返事を待っている。

「……私は、」
試すようなまなざしを向けてくる久永から少しも目をらさずに、美美子は言った。
「私の答えは、とうの昔に決まっています」と──。

【続く】
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