46 / 62
2章
やっぱり
しおりを挟む
「神位生命蘇生儀式魔法『リザレクション』」
その単語が出た瞬間、アミリアさんの顔色が一気に変わった。
それは、予想していなかったというものではなく、ある程度察していたような表情だった。
「やっぱり、心当たりはあったんですね」
正直、俺がこの結論に至った理由も弱いながらある。
それは単純な疑問からだった。
――――なぜ、アミリアさんでなければならなかったのか――――
もっと別の聖女もいただろうに、もっと捕えやすい聖者がいただろうに、何故わざわざ本拠地の建物の中から、攫うというリスクを犯してまで彼女にこだわるのか。
それは彼女の立場がどうこうではなく、もはや彼女しか持ちえない価値があったからだろう。
治療院の権限なんて、もっと簡単に、教皇様にでも相談すれば手に入るだろう。正当な理由こそ必要だろうが、誘拐よりは圧倒的に難易度が低いだろう。
なら、それだけのリスクを払う価値があるものとは。
俺にはもう、それしかないように見えた。
「これでも、明るみになっても続けるつもりですか。完成していない今こそ、最後の引き時なんですよ」
俺は警告を飛ばす。
正直、この計画には乗り気じゃあない。
だってそうだろう。下手に術を完成させた結果、俺とアミリアさんが殺され、術は奪われ、何もかもを壊されるような結果が起こり得るほどの大きな計画だ。
それを決行するのも「ばれないように」という条件を出して、言っていたのだ。
もう手を出されるほどに確信を持たれてしまっては、もう明るみに出たと同義だろう。
「そうですね。ここまで来たからお話ししますが、実は、儀式自体は理論上、可能な域まで完成しているのですよ」
「えっ......」
アミリアさんは少し遠くを見る。
手が届かない月に手を伸ばすように、もう少しで、届くんだと、そう言わんばかりに手を伸ばす。
「あとは魔力と、条件さえ満たせば」
「条件......?」
条件さえ満たせば、俺が協力すると言えば、彼女はそのリスクを承知で魔法を使うのだろうか。
彼女は無慈悲に、その魔法をできるほどに覚悟が決まっているのか。
――――もう、出来ているだろう。
そう思い、どう止めようと考えたときに出されたその条件は、俺にとって絶望以外の何物でもなかった。
「満月の夜。つまり、今夜ですよ。ロードさん。私は止まりません」
「......っ」
やはり、だった。
俺の言葉は届いていなかった。
そして、もう言葉を重ねる時間も残っていない、ということだ。
どうして、と思わざるを得なかった。
どうして、身に降りかかる災厄を知って、この世界がどうなろうとも知らないと、彼女はただひたすらに顔も知らない父を追えるのだ、と。
「そうですか」
「はい。だから、協力してくれるなら」
そう言って、アミリアさんは手を差し伸べる。
「協力してくれるなら、今夜、私の部屋に来てください」
聖女だと、誰もが納得するその表情。
だが、俺は即答で返す。
「俺は、行きませんよ」
結論は決まっていた。協力はしないと。
いや、協力しようと思えない、が正しいのかもしれない。
確かに、アミリアさんを助けてやりたい気持ちはいっぱいだ。思いをかなえてやりたいというのもある。
だが、その思いを打ち消し、マイナスまで振り切ることが出来るほどに、リスクがありありと浮かんでいるのだ。
俺はアミリアさんを幸せに、そして一緒に俺も幸せになりたいだけであって、極論アミリアさんの父を幸せにしたい感情があるわけではない。
だから、その父のためにアミリアさんを不幸にすると、そう言っているようなものなのだ。
そりゃあ、片方にどれだけ感情として願いをかなえたいと重りを置いても、ピクリとも動かない。
「やっぱり、ですか」
少し寂しそうに、アミリアさんは空を見上げた。
その単語が出た瞬間、アミリアさんの顔色が一気に変わった。
それは、予想していなかったというものではなく、ある程度察していたような表情だった。
「やっぱり、心当たりはあったんですね」
正直、俺がこの結論に至った理由も弱いながらある。
それは単純な疑問からだった。
――――なぜ、アミリアさんでなければならなかったのか――――
もっと別の聖女もいただろうに、もっと捕えやすい聖者がいただろうに、何故わざわざ本拠地の建物の中から、攫うというリスクを犯してまで彼女にこだわるのか。
それは彼女の立場がどうこうではなく、もはや彼女しか持ちえない価値があったからだろう。
治療院の権限なんて、もっと簡単に、教皇様にでも相談すれば手に入るだろう。正当な理由こそ必要だろうが、誘拐よりは圧倒的に難易度が低いだろう。
なら、それだけのリスクを払う価値があるものとは。
俺にはもう、それしかないように見えた。
「これでも、明るみになっても続けるつもりですか。完成していない今こそ、最後の引き時なんですよ」
俺は警告を飛ばす。
正直、この計画には乗り気じゃあない。
だってそうだろう。下手に術を完成させた結果、俺とアミリアさんが殺され、術は奪われ、何もかもを壊されるような結果が起こり得るほどの大きな計画だ。
それを決行するのも「ばれないように」という条件を出して、言っていたのだ。
もう手を出されるほどに確信を持たれてしまっては、もう明るみに出たと同義だろう。
「そうですね。ここまで来たからお話ししますが、実は、儀式自体は理論上、可能な域まで完成しているのですよ」
「えっ......」
アミリアさんは少し遠くを見る。
手が届かない月に手を伸ばすように、もう少しで、届くんだと、そう言わんばかりに手を伸ばす。
「あとは魔力と、条件さえ満たせば」
「条件......?」
条件さえ満たせば、俺が協力すると言えば、彼女はそのリスクを承知で魔法を使うのだろうか。
彼女は無慈悲に、その魔法をできるほどに覚悟が決まっているのか。
――――もう、出来ているだろう。
そう思い、どう止めようと考えたときに出されたその条件は、俺にとって絶望以外の何物でもなかった。
「満月の夜。つまり、今夜ですよ。ロードさん。私は止まりません」
「......っ」
やはり、だった。
俺の言葉は届いていなかった。
そして、もう言葉を重ねる時間も残っていない、ということだ。
どうして、と思わざるを得なかった。
どうして、身に降りかかる災厄を知って、この世界がどうなろうとも知らないと、彼女はただひたすらに顔も知らない父を追えるのだ、と。
「そうですか」
「はい。だから、協力してくれるなら」
そう言って、アミリアさんは手を差し伸べる。
「協力してくれるなら、今夜、私の部屋に来てください」
聖女だと、誰もが納得するその表情。
だが、俺は即答で返す。
「俺は、行きませんよ」
結論は決まっていた。協力はしないと。
いや、協力しようと思えない、が正しいのかもしれない。
確かに、アミリアさんを助けてやりたい気持ちはいっぱいだ。思いをかなえてやりたいというのもある。
だが、その思いを打ち消し、マイナスまで振り切ることが出来るほどに、リスクがありありと浮かんでいるのだ。
俺はアミリアさんを幸せに、そして一緒に俺も幸せになりたいだけであって、極論アミリアさんの父を幸せにしたい感情があるわけではない。
だから、その父のためにアミリアさんを不幸にすると、そう言っているようなものなのだ。
そりゃあ、片方にどれだけ感情として願いをかなえたいと重りを置いても、ピクリとも動かない。
「やっぱり、ですか」
少し寂しそうに、アミリアさんは空を見上げた。
99
あなたにおすすめの小説
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる
日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」
冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。
一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。
「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」
そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。
これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。
7/25男性向けHOTランキング1位
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる