英雄教科書

大山 たろう

文字の大きさ
37 / 48
三章 終わりと始まり

彼のいない世界で

しおりを挟む
 
 後日。
 彼の葬式は、簡単に行われた。
 死体が残っておらず、研究室には微量の金と高度に暗号化された研究成果しか残っていなかったからだ。
 顔を並べたのは彼の持っていたクラス、そして少数の大人だけだった。

「ライズ先生......」

 そんな言葉が、彼の墓場に、花が手向けられた小さな墓石に届く前に広がり消えていく。
 空は快晴、当たり前のように太陽が一つ、頭の上に浮かんでいた。

 ふと、寂しくなった彼女は、未だ立入禁止とされている戦闘跡地に足を運ぶのだった。



「あ、ガイ......」

 エアリが声をかけようとするも、その表情を見て言葉を止めた。
 ガイアは鼻をすすり、目をこすってから、その現場を見て、脳裏にあの日を思い出す。

 エアリは会話なんて今はいらない、と判断し、彼女もまたその惨状に目を向けた。

 未だ高濃度に漂っている魔力。魔力を持たない人には毒以外の何でもない土地は、誰の侵入も許さぬ立入禁止区域にされていた。

 というのも、この世界の魔物は魔力をもとにして生まれる、という考えが一般的。この世界の人間たちは、この魔力に下手に触れれば魔物が生まれる、と考えて一切の立ち入りを禁じたのだ。
 星が魔力を吸い取って、大気が魔力を霧散して。手段はともかく、魔力濃度を下げるために、時間しか解決法がなかった。

 しかし、網を潜り抜けて二人は戦闘跡地に足を踏み入れた。

 クレーターが色褪せず、そのままの形で残っている。
 魔物一体、虫の一匹でさえ、この土地には存在しなかった。

「ここで......」

 最後の魔法。あの先生でさえ全文詠唱をして、空に撃ちだしたあの魔法は、魔石の一切を残さずにすべて消し飛ばし、収束して消えた。

「このクレーターが......」

 そのクレーターだけは、あの日から変わっていた。

 綺麗にくりぬかれたような地面は所々崩れており、溶けていた表面はぼこぼことなり、凝縮し固まっていた。
 草の一本でさえ、未だ入り込まないこのクレーターには、二人に理解できるほどの魔力で満ちていた。

「あ、あれ......」

 エアリが何かを見つけた。ガイアが「あぇ」と顔を上げるも、そこに期待したライズの姿は見当たらなかった。

「えあ、り.......」

 ガイアはエアリが意地悪をした、と思いエアリの名を呼んだ。そんなこと、しないでくれと。
 もっと教えてほしかったのに、もっとカッコいい姿を見せてほしかったのに。そう思うだけでどんどんと涙が止まらなくなる。

「違うよ、あそこ」

 しかし、エアリは指を指す。
 そこは地面、やはり、とガイアはエアリを糾弾しようとして......そして気づいた。

「あれ、なに」

 地面に何かがあることに気づいた。
 ここは草原、なにがあっても不思議ではないとはいえ、この魔力濃度にこの警戒具合。もう何かが残っていると考える方が少数だった。

 しかし、そこには確かに存在していた。
 地面に転がっている、魔力のかけらも感じない石を。
 魔力濃度が高く、土も草も空気でさえも魔力を含んだこの場所で、魔力を一切感じない、黄金色で透明の石を。

「これ、なに」

「私もわかんない」

 図書館の本を読み漁ったガイアでも、隔絶した記憶力を持つエアリでさえ、知らない物。

「持って帰ろっか」

「内緒だよ」

 二人はそれを回収し、誰にも見つからないように戦闘跡地を後にした。
 その石が何になるのか、その石が何を起こすのか。
 それは、今現在では誰も知らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略

神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。 そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。 これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

霊力ゼロの陰陽師

テラトンパンチ
ファンタジー
生まれつき霊力を持たない少年、西園寺玄弥(さいおんじげんや)。 妖怪の王を封じた陰陽師の血を引きながら、彼だけが“無能”と呼ばれていた。 霊術学院で嘲笑され、才能の差を突きつけられる日々。 それでも諦めきれなかった彼の前に現れたのは、王と対立する最強クラスの妖怪――九尾・葛葉。 「貴様の力は、枯れているのではない。封じられているだけだ」 仮契約によって解かれた封印。 目覚める霊力。動き出す因縁。 これは、無能と蔑まれた少年が、仲間と共に妖怪の王へ挑む物語。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...