12 / 38
1-11:勇者は英雄ではない
しおりを挟む
「ようこそ、中立国家、クリスタへ。おもてなしできず申し訳ないですが、よろしくお願いします」
ようやく目的地である中立国家、その中枢都市マールへと到着した。
印象としては、王都とは違う、という漠然としたものだった。
王都を出た頃の視線はどこか憧れ、という感じの目ばかりだったけれど、今の人達は打って変わって、睨みつけるような、敵を見るような目をしていた。
それに、街も元気がない。人の通りが多いわけでもなかったし、窓はどこもカーテンがかかっていた。
まるで、私たちを見ないように、見ないほうが良いと言わんばかりに。
何か、勇者という存在に思うことがあるのか、それとももっと別の理由なのか。全く分からないけれど、その目を向けられるのは安心できないし信用も出来ない。
教皇様は何か考えがあったんだろうけど、全く理解はできなかった。
「外で立ち話というのもなんですし、中へとどうぞ。ゆっくりとお話しさせていただきます」
彼女は一番目が優しい。それでも王都との視線の違いはもちろんある。どこか、怯えているような、そんな印象の目。
個人の理由というよりも、地域的な理由とか、団体として何かされた、そんな感じの理由のような気がする。となれば、私のせいではないからどうしようもない気がするのだが。
さて、信用できないと感じてしまった人たちの居城に入るのは些か気が引ける。
なにせ、室内となると、聖剣は使えない。
特に私のは、自分より巨大な敵とか、人数がたくさんいるとかの、不利な状況を覆すことを得意としている。
部屋や建物の中で使えば当然、壊れて瓦礫が降り注ぐ。
きっと私は大丈夫だけど、ここで消耗する上にパーティーメンバーはきっと無事じゃない。
そんな面倒になることが分かっている建物に入る必要性は、正直感じていなかった。
とはいえ、こうして守ってくれる、という態度でいてくれているのに、それを受けないというのも失礼に当たるのかも、という思いがある。
どうしたものか、と思っているとき、後ろから声が聞こえた。
「いや、外で結構。伝えることがあるならここで頼む」
盾の人が、荘厳な雰囲気を漂わせながら言った。
それができるなら助かる、と思うと同時に、大丈夫だろうかという不安が脳裏をよぎる。
「……大丈夫ですか?」
「もてなしも不要だ」
そう言い切った盾の人。
ほかの人も小さく頷いていた。
私もいらないよ、と伝えると、「分かりました」とすんなりと引き下がった。
そしてそれを見てか、ほかの人達はこの場から立ち去っていく。
そしてあたりに護衛すらいなくなってから、彼女は懐から手紙を取り出すと、封が開いていないことを見せながら、それを私に手渡してきた。
封を開け、中を見ると見慣れた文字が。
「指示書、光の勇者パーティーは中立国家北部から魔王領へと侵攻を開始せよ」
この人が持っていたのは、教会からの指示書だった。
暗号となっているこれは、きっと彼女にも読めていないだろう。
それを確認してから、指示書を燃やした。指示が敵に漏れないようにするため、前もって教えられていた。
どうして、教皇様は紙でわざわざ指示書を送って来るんだろうか。念の人の手にかかれば、一発で臨機応変に指示が出せる。それほどに念話が強いと言っていたのは教皇様自身だったはずなのに。
そんな疑問が浮かんだけれど、紙で送られてきている以上、紙のものに従うしかない。
「侵攻を開始しよう」
盾の人は、私に小声でそう囁いた。
「馬車に乗って。すぐ行くよ」
私はすぐに馬車に向かう。続いて弓の人、盾の人、杖の人も乗り込む。
指示書に時間は書かれていなかった。正直どうしたら良いか分からない。なら早いに越したことはないだろう。
すぐに馬車に乗り込み、私たちは作戦区域へと移動した。
ただ、一つ失敗したのは、これからを想像できていなかった、ということだった。
作戦区域に着いた私たちは、その報告を受けて耳を疑った。
弓の人も、目を見開いている。
「敵数、千、二千――さらに増えます」
ようやく目的地である中立国家、その中枢都市マールへと到着した。
印象としては、王都とは違う、という漠然としたものだった。
王都を出た頃の視線はどこか憧れ、という感じの目ばかりだったけれど、今の人達は打って変わって、睨みつけるような、敵を見るような目をしていた。
それに、街も元気がない。人の通りが多いわけでもなかったし、窓はどこもカーテンがかかっていた。
まるで、私たちを見ないように、見ないほうが良いと言わんばかりに。
何か、勇者という存在に思うことがあるのか、それとももっと別の理由なのか。全く分からないけれど、その目を向けられるのは安心できないし信用も出来ない。
教皇様は何か考えがあったんだろうけど、全く理解はできなかった。
「外で立ち話というのもなんですし、中へとどうぞ。ゆっくりとお話しさせていただきます」
彼女は一番目が優しい。それでも王都との視線の違いはもちろんある。どこか、怯えているような、そんな印象の目。
個人の理由というよりも、地域的な理由とか、団体として何かされた、そんな感じの理由のような気がする。となれば、私のせいではないからどうしようもない気がするのだが。
さて、信用できないと感じてしまった人たちの居城に入るのは些か気が引ける。
なにせ、室内となると、聖剣は使えない。
特に私のは、自分より巨大な敵とか、人数がたくさんいるとかの、不利な状況を覆すことを得意としている。
部屋や建物の中で使えば当然、壊れて瓦礫が降り注ぐ。
きっと私は大丈夫だけど、ここで消耗する上にパーティーメンバーはきっと無事じゃない。
そんな面倒になることが分かっている建物に入る必要性は、正直感じていなかった。
とはいえ、こうして守ってくれる、という態度でいてくれているのに、それを受けないというのも失礼に当たるのかも、という思いがある。
どうしたものか、と思っているとき、後ろから声が聞こえた。
「いや、外で結構。伝えることがあるならここで頼む」
盾の人が、荘厳な雰囲気を漂わせながら言った。
それができるなら助かる、と思うと同時に、大丈夫だろうかという不安が脳裏をよぎる。
「……大丈夫ですか?」
「もてなしも不要だ」
そう言い切った盾の人。
ほかの人も小さく頷いていた。
私もいらないよ、と伝えると、「分かりました」とすんなりと引き下がった。
そしてそれを見てか、ほかの人達はこの場から立ち去っていく。
そしてあたりに護衛すらいなくなってから、彼女は懐から手紙を取り出すと、封が開いていないことを見せながら、それを私に手渡してきた。
封を開け、中を見ると見慣れた文字が。
「指示書、光の勇者パーティーは中立国家北部から魔王領へと侵攻を開始せよ」
この人が持っていたのは、教会からの指示書だった。
暗号となっているこれは、きっと彼女にも読めていないだろう。
それを確認してから、指示書を燃やした。指示が敵に漏れないようにするため、前もって教えられていた。
どうして、教皇様は紙でわざわざ指示書を送って来るんだろうか。念の人の手にかかれば、一発で臨機応変に指示が出せる。それほどに念話が強いと言っていたのは教皇様自身だったはずなのに。
そんな疑問が浮かんだけれど、紙で送られてきている以上、紙のものに従うしかない。
「侵攻を開始しよう」
盾の人は、私に小声でそう囁いた。
「馬車に乗って。すぐ行くよ」
私はすぐに馬車に向かう。続いて弓の人、盾の人、杖の人も乗り込む。
指示書に時間は書かれていなかった。正直どうしたら良いか分からない。なら早いに越したことはないだろう。
すぐに馬車に乗り込み、私たちは作戦区域へと移動した。
ただ、一つ失敗したのは、これからを想像できていなかった、ということだった。
作戦区域に着いた私たちは、その報告を受けて耳を疑った。
弓の人も、目を見開いている。
「敵数、千、二千――さらに増えます」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる