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1-28:教国クラウディアにて
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「よくぞ帰った、勇者達よ。私が国王だ」
豪華絢爛を形にしたような椅子にふんぞり返って座っている男。彼が王なのだろう。戦争をしていたというのに、豪華なものを身に着ける余裕があるとは。
「勇者達よ、顔を上げなさい」
側近がそう告げる。
その声に従って、顔を上げた。
いつか会話を盗み聞きしたときの声は覚えていないけれど、その風格が王と言っているような気もする。
ただ、圧は魔王に比べ……というのは、比較対象が間違っているだろう。
「さて、さっそくで悪いが……死んでくれ」
その瞬間、全方位から剣や槍、矢や魔法と攻撃が飛んできた。
「――やっぱり、そうだよね」
触れる寸前、暴風が全てを吹き飛ばした。
そして私たちは、武器を構える。
とはいっても、私のは裁縫針、他の人もはさみだのなんだの、小さいサイズ。
それに魔力を纏わせ、剣として使っている。
「な、何故! 武器は没収していただろう!」
「隠し持っていたら分からないだろう?」
風の人が、薄い短剣をくるくると回しながら、にやりと笑った。
他の皆はもう、呆れのほうが強い。
「まさか――ここまでとは、思ってなかったけれど」
吹き飛ばした雑兵、その奥にもまだ人が溢れかえっていた。
てっきり数人が暗殺みたいな手段を取って来るのかと思っていたけれど、がっつり攻撃してきた。
「『極神風』、いちおー私の得意技なんだけど……自信無くしちゃうなぁ」
一人、吹き飛ばされなかった男が仁王立ちしていた。
「さて……これは、勝てるかな」
そのがっちりとした重装備とは裏腹に、柔らかい口調で頭をぽりぽりと掻く仕草をしていた男。
一人だけが、爆風の中、身を守ることに成功していた。
「魔王を倒せないから私たちに頼ったってのに、魔王を倒せない人達が私たちを倒せるって、どうして思ったんだ? ……ここで一回、滅ぼすか?」
火の人がブチ切れて体から熱を放出し始めた。
一番近いの私たちなんだから、もう少し抑えてほしい。
しかし、そう口を開く前にまた男の声が。
「そうだねぇ、勝てる気はしないけれど、命令なんだよ。これでも騎士団長なんでね」
この男こそ、国が誇る騎士団の頂点、騎士団長バルダロスであった。
とはいっても、私たちに比べると一般人の枠を出ないんだろう。多分盾の人くらいか、それより弱い。
そしてそれに気付いているからか、騎士団長もどこか引け腰だ。
「へぇ、そうかい。ならそこの国王さえいなければ、アタシたちは平和に暮らせるってわけか」
「バルダロス! 私を守れ!」
火の人の発言にビビったのか、国王がバルダロスを呼びつける。
その声に反応して男は兵士を軽々と飛び越えると、王の隣で膝をついた。
しかし、剣を抜くことはなかった。
「それじゃ、頼んだ」
ぽん、と火の人が私の肩を叩いた。
え、私? と振り返ってみれば、にやりと火の人がサムズアップ。
まぁ、火の人に比べて私の方が単体を倒すのには向いてるけど……
正直ここで平穏を買えるなら、すぐにやってしまったほうが良い気もしている。
とりあえず――
「我は全てを置き去りに。光は絶対、光は道標――」
「ちょ、ちょっとまった!」
私が詠唱を始めたところで、国王から待ったが入る。
これだけなら私も詠唱を止めるつもりはなかったけれど、国王は座っていた椅子から転げ落ちるようにして床に這いつくばり、体をうずめて頭を床にこすり付けながら泣き叫んだため、一度止めた。
これでは、国王の風格も台無しだな。
もはや、聖剣を使う価値すらない。
「私たちに、二度と手を出さないでください」
光の剣を国王の首スレスレに突き刺し、私は睨みつけた。
目が合うはずもなく、「ヒィィ!」という情けない声が響くばかりだった。
「いくよ」
「許したわけじゃないからな」
火の人の声が響く。
ほんと、こういう時のケンカは彼女が一番強いと思う。対応の仕方というか、単純な戦闘能力以外の面が。
もう、次はないと思うけど。
私たちを取り囲んでいた兵士たちは、帰ろうとする風の人の魔法を阻めずに吹き飛ばされ、道を開けていく。
「大丈夫だった!?」
扉が壊れそうな勢いで開かれる。
その先には、念の人が。
いつものおっとり気な口調も、連絡の時の冷徹な感じも見られない。もう大丈夫だと、不思議とそう感じられた。
戦闘は得意じゃない念の人だけど、普通に倒せたようで、怪我も見られなかった。
何があって、あそこまで冷徹になっていたのか。
その問いは、もうこの戦と一緒に置いてきたほうが良いのかもしれない。
そんな思いで、私は口を開くのをやめた。
それよりも。
「無事で、良かった」
私は念の人を抱きしめた。
柔らかい感触が私の体いっぱいに感じられる。
また全員揃えそうで、良かった。
「ありがとう。私のことを信じてくれて」
念の人の涙は、私の服に吸い込まれていった。
「それじゃ、厄介になる前にとんずらするぞ」
火の人が真っ先に部屋を飛び出した。
その後に続いて、私たちも王城を後にした。
教会に戻る。私たちが全員そろったというのに、教皇様はいまだに姿を見せる気配がない。
「一緒に小部屋まで行こ」
「そうだね、驚かせちゃお」
皆を連れ、ドアを一気に開けた。
「――あれ?」
そこは、荷物一つない空き部屋へと変わっていた。
部屋に置いてあった家具は一つを残して全て消え、まるで全て消したかのような部屋だった。
唯一残っていた机の上には、何か紙が残されていた。
何だろう、と私が取ってみると、それは手紙なのかもわからないものだった。
――教国クラウディアにて
その一文だけが書かれていた。
豪華絢爛を形にしたような椅子にふんぞり返って座っている男。彼が王なのだろう。戦争をしていたというのに、豪華なものを身に着ける余裕があるとは。
「勇者達よ、顔を上げなさい」
側近がそう告げる。
その声に従って、顔を上げた。
いつか会話を盗み聞きしたときの声は覚えていないけれど、その風格が王と言っているような気もする。
ただ、圧は魔王に比べ……というのは、比較対象が間違っているだろう。
「さて、さっそくで悪いが……死んでくれ」
その瞬間、全方位から剣や槍、矢や魔法と攻撃が飛んできた。
「――やっぱり、そうだよね」
触れる寸前、暴風が全てを吹き飛ばした。
そして私たちは、武器を構える。
とはいっても、私のは裁縫針、他の人もはさみだのなんだの、小さいサイズ。
それに魔力を纏わせ、剣として使っている。
「な、何故! 武器は没収していただろう!」
「隠し持っていたら分からないだろう?」
風の人が、薄い短剣をくるくると回しながら、にやりと笑った。
他の皆はもう、呆れのほうが強い。
「まさか――ここまでとは、思ってなかったけれど」
吹き飛ばした雑兵、その奥にもまだ人が溢れかえっていた。
てっきり数人が暗殺みたいな手段を取って来るのかと思っていたけれど、がっつり攻撃してきた。
「『極神風』、いちおー私の得意技なんだけど……自信無くしちゃうなぁ」
一人、吹き飛ばされなかった男が仁王立ちしていた。
「さて……これは、勝てるかな」
そのがっちりとした重装備とは裏腹に、柔らかい口調で頭をぽりぽりと掻く仕草をしていた男。
一人だけが、爆風の中、身を守ることに成功していた。
「魔王を倒せないから私たちに頼ったってのに、魔王を倒せない人達が私たちを倒せるって、どうして思ったんだ? ……ここで一回、滅ぼすか?」
火の人がブチ切れて体から熱を放出し始めた。
一番近いの私たちなんだから、もう少し抑えてほしい。
しかし、そう口を開く前にまた男の声が。
「そうだねぇ、勝てる気はしないけれど、命令なんだよ。これでも騎士団長なんでね」
この男こそ、国が誇る騎士団の頂点、騎士団長バルダロスであった。
とはいっても、私たちに比べると一般人の枠を出ないんだろう。多分盾の人くらいか、それより弱い。
そしてそれに気付いているからか、騎士団長もどこか引け腰だ。
「へぇ、そうかい。ならそこの国王さえいなければ、アタシたちは平和に暮らせるってわけか」
「バルダロス! 私を守れ!」
火の人の発言にビビったのか、国王がバルダロスを呼びつける。
その声に反応して男は兵士を軽々と飛び越えると、王の隣で膝をついた。
しかし、剣を抜くことはなかった。
「それじゃ、頼んだ」
ぽん、と火の人が私の肩を叩いた。
え、私? と振り返ってみれば、にやりと火の人がサムズアップ。
まぁ、火の人に比べて私の方が単体を倒すのには向いてるけど……
正直ここで平穏を買えるなら、すぐにやってしまったほうが良い気もしている。
とりあえず――
「我は全てを置き去りに。光は絶対、光は道標――」
「ちょ、ちょっとまった!」
私が詠唱を始めたところで、国王から待ったが入る。
これだけなら私も詠唱を止めるつもりはなかったけれど、国王は座っていた椅子から転げ落ちるようにして床に這いつくばり、体をうずめて頭を床にこすり付けながら泣き叫んだため、一度止めた。
これでは、国王の風格も台無しだな。
もはや、聖剣を使う価値すらない。
「私たちに、二度と手を出さないでください」
光の剣を国王の首スレスレに突き刺し、私は睨みつけた。
目が合うはずもなく、「ヒィィ!」という情けない声が響くばかりだった。
「いくよ」
「許したわけじゃないからな」
火の人の声が響く。
ほんと、こういう時のケンカは彼女が一番強いと思う。対応の仕方というか、単純な戦闘能力以外の面が。
もう、次はないと思うけど。
私たちを取り囲んでいた兵士たちは、帰ろうとする風の人の魔法を阻めずに吹き飛ばされ、道を開けていく。
「大丈夫だった!?」
扉が壊れそうな勢いで開かれる。
その先には、念の人が。
いつものおっとり気な口調も、連絡の時の冷徹な感じも見られない。もう大丈夫だと、不思議とそう感じられた。
戦闘は得意じゃない念の人だけど、普通に倒せたようで、怪我も見られなかった。
何があって、あそこまで冷徹になっていたのか。
その問いは、もうこの戦と一緒に置いてきたほうが良いのかもしれない。
そんな思いで、私は口を開くのをやめた。
それよりも。
「無事で、良かった」
私は念の人を抱きしめた。
柔らかい感触が私の体いっぱいに感じられる。
また全員揃えそうで、良かった。
「ありがとう。私のことを信じてくれて」
念の人の涙は、私の服に吸い込まれていった。
「それじゃ、厄介になる前にとんずらするぞ」
火の人が真っ先に部屋を飛び出した。
その後に続いて、私たちも王城を後にした。
教会に戻る。私たちが全員そろったというのに、教皇様はいまだに姿を見せる気配がない。
「一緒に小部屋まで行こ」
「そうだね、驚かせちゃお」
皆を連れ、ドアを一気に開けた。
「――あれ?」
そこは、荷物一つない空き部屋へと変わっていた。
部屋に置いてあった家具は一つを残して全て消え、まるで全て消したかのような部屋だった。
唯一残っていた机の上には、何か紙が残されていた。
何だろう、と私が取ってみると、それは手紙なのかもわからないものだった。
――教国クラウディアにて
その一文だけが書かれていた。
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