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1-31:貴女には
しおりを挟む「さて、着きましたよ」
少しウトウトとしていた夕暮れだった。
リックさんの声が私の意識を覚醒させた。
一応警戒をしていたけれど、何も来ないから暇だった。
「ありがとうございます。すみません、ウトウトしてました」
「良いですよ。元々襲われる心配もありませんでしたし、条件でお願いしたとはいえ、最初から本格的に護衛が必要なわけでもありませんでしたから」
「いえ、護衛という約束で乗せてもらっていたのですから。帰りはきちんと警戒します」
「それは助かります。よろしくお願いします」
馬車を道の端に誘導し少ししたところで止まった。
リックさんは積み荷を降ろし始めた。
「ここの村は資源に恵まれているのですが、それを加工する人材不足が響いているのでしょう。農機具や武器などをよく買われるので、先に用意しているのですよ。村長への挨拶をその後です」
「分かりました。手伝いましょう」
私は筋力には自信がある。
ひょい、といくつか箱を持ち上げ、馬車の外で下ろした。
「ありがとうございます。これなら日が暮れる前に挨拶に行けそうですね」
「大変ですね。行商というのも」
いつもは日が暮れるまで作業をしている口振りだった事、手慣れた積み荷を降ろす作業、見え隠れする腕の筋肉に、相当な重労働であることを感じさせられた。
「いえいえ。それ以上にやりがいのある仕事ですから」
リックさんは、汗を拭うと次の箱を持ち上げた。
「よし、作業も終わり。村長さんに挨拶に行きましょう。騎士さんもそれが本題でしょう?」
「えぇ。恐らくは」
はっきりと答えなかったことにだろうか、リックさんは訝しむような表情をしていた。
まぁ、当然だろう。私も疑っている。
けれどそのまま何も言わずに家へと歩き出した。それについてこれ以上の言及はしないらしい。
助かる、というより言及されても何も答えられないという方が正しいのだけれど。
そして歩くこと数分。街の中央らしき木のオブジェクト、その向かい側の扉をノックした。
「どうも、リックです」
「あぁ、リックさん。どうぞ、中に入って」
扉を開いて現れたのは女性。四十代くらいだろうか。けれど年を感じさせない若々しさというか、はつらつさを感じる人だった。
「失礼します」
「あら、そちらの方は?」
「あぁ、こちらの騎士さんもこの村に用があったようで。一緒にここまで来たのですよ」
「それはそれは、ご苦労様でした。ささ、どうぞ座って」
素朴な椅子と机のあるリビングに言われるがまま座る。
辺りを見回すも、何か特別なものがあるわけでもない。
村長の家とはいえ、やっぱり普通の民家なのだろうか。
「それで、リックさんはともかく、そちらの方はどうされたのでしょうか?」
「実は、ロックという方に、この村に来るようにと言われ」
その瞬間、息を飲む音が微かに聞こえた。
「……その、ロックはどうされたんですか」
「……亡くなりました、その、魔王の城で」
ガタン、と椅子が音を鳴らした。
「ちょっと、奥さん落ち着いて、まさかロックさんの知り合いだったとは」
「ごめんなさい、つい」
ゆっくりと椅子に座る。その目には涙が溜まっていた。
「ロックさんが、最期に私に言ったんです。「フィリア村に行け、愛している」と」
「まさか……勇者、ですか?」
頷きそれを肯定した。
「まさか」という言葉がリックから漏れる。
「ロックが言ったということは、きっと貴女なのでしょう」
「何がでしょうか」
選ばれし者みたいな感じになっている。正直この本題を包み隠される感じは好きじゃなかった。
「単刀直入に言っていただいて結構です」
「……そうね。貴女にとっては酷かもしれないけれど、話しましょう。あの日起こったことを」
そして、どこか遠いところを見ながら、口を開いた。
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