6 / 6
一章 首都
雨と山と
今日も二人は、首都を目指す。
きっと誰も生きていないが、それでも目標を、何かの希望を見出さないとやっていけない、いつか、二人はそう考えるようになった。
「今日の天気は曇り、っと。こりゃ一雨降るだろうな」
体質である雨の前の片頭痛を抑えながら、テントから出る。
雨の前に痛くなるからと言って、痛さと降水量が比例しているわけではない。
感謝するべきなのか、この痒いところに手が届かない不便さを嘆くべきか。
はぁ、と一息ついて、考えることを放棄した。
「近くにコンビニとかないね」
「だなー、こりゃ今日は雨宿りかも」
「わかった、屋根の広そうな場所で休憩ね」
そう言いながらも、足はずっと首都の方角へと向けていた。
数分が経過する。どんどん雲行きが怪しくなってきた。どす黒い雲が上空に浮かび始めた。
「あ、あそこにちょうどよさそうなところが」
そこにあったのはガソリンスタンド。頑丈にできていると聞いていたが、何処も崩壊していないのは運が良い。
にしても、それを言い出したらビルとかも結構頑丈に作っていることを考えると、ビルが崩壊していたのは地域の問題なのか......
「さて、休憩しよっか」
雨が降ることはほぼ確定しているが、いつまで降るかわからない。テントを広げるレベルで休憩するか、それともほんの数分、座って雨が止むのを待つか。
なんて悩んでいたところで、彼女はテントを張っていた。このテントはくぎを使わず、結構楽に展開できる、が売りだったが、彼女にとっては迷う理由がなかったらしい。
俺もすぐさまテントを張る。休憩できるならゆっくりできることに越したことはないし。
テントの中に入って、少しした時だった。
ザアァァァァ、と大きな音を立てて雨が降り始めた。
大粒の雨がこれでもか、と流れているのを見ると排水が心配になる。
そう考えると河川とか堤防が決壊するリスクがあるのか......離れたルートを通って損はなさそうだ。
「わ、ほんとに雨降ってきた、天気予報士いらずだ」
「直前にしかわからないから、天気予報士様様です」
俺はもう世界に存在しないであろう天気予報士に感謝の念をささげたのだった。
数日後。
「あ、ここ。首都に近づいて来たね」
「え、なんでそんなことわかるんだ?」
俺はてっきり、まだ半分程度しか進んでいないと思っていた。
「もう三分の二くらい来てるわよ。これ」
そう言って彼女が指さしたのは、天に届きそうなくらいの大きな山。
「ほら、国で一番の山、って有名だったでしょ? あれが見えたから、あと少しよ」
「確かに、聞いたことはある」
空高く伸びるその山のてっぺんには、うっすらと雪が積もっていた。
「山登りする?」
「流石にしないわよ、体力減るの、嫌でしょう?」
彼女も慣れてきたようで、まともな意見を飛ばしてくる。
けど俺はたまには遊びたい性分なんだよ.......
「ま、それが正論だから、登るって言われたらそれはそれで困ってたけど」
「何よ、それ」
二人して笑いあう。
俺は頂上がきれいに映っている山を写真に収めると、すぐに歩き出した。
「ほら、行くぞ」
「わかってる。私も写真撮るから」
「うむむ......」と少し唸ってから、そのシャッターを切った。
それを見て俺は歩き出し、彼女もともに歩き出した。
この先に、どんな風景が広がっていたかも知らずに。
「なんじゃこりゃあ......」
「これは......悲惨ね」
ついさっき見た山は綺麗に、教科書通りの姿をしていたというのに、首都側、さっきから見て裏側に向かった瞬間、一気に形が変わった。
山の四分の一ほどが崩れ落ちて、土砂となって街に降り注いでいた。
人的被害はゼロだ。もちろん。と軽口をたたいてみようと思ったが、壊れた街を見ると、その気も失せてしまった。
まるで古代都市。大きな看板などは見えているものの、大体の建物が八割程度姿を地面の下に隠し、残りの二割もひび割れにつたが生えているなど、もう散々な感じだ。
人工物は脆い、とはよく言ったものだ、こんなにも簡単に崩れてしまうとは。
数日前の雨が原因なのかもしれない。もしかしたら、それが引き金で土砂災害を巻き起こしたのかもしれない。そう思うと、ここに居なくてよかったと安心するしかなかった。
「そうだな......見る角度によっては全く別物だ、ってことか?」
「そうね」
俺は先生の話を思い出す。二つ目の視点が、なんて言ってたけど、ここまで具体例を出されてしまっては馬鹿にする気も起きない。
「もう二人になってからそんなこと学んだって、どうしろってんだ」
そう、独り言ちるしかなかった。
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。