魔力極振りの迷宮探索

大山 たろう

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六章 文化祭

与えられた『力』

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「それでは皆さん、お疲れさまでした。乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 生徒会室で打ち上げパーティー。お菓子とソフトドリンクを用意して、勝手にだ。

 特に何かするわけでもなく、ただ食べて飲んで喋るを繰り返しているだけだが、この光景を見ると、俺にも信頼できるパーティーができたように感じられてとてもうれしくなった。実際は、みんなソロか潜らないかの二択なのだが。

「これから、どうするつもり?」

 そう切り出してきたのは紗耶香。

 徹は「もちろんこれからも潜るぜ!」と答えたが、紗耶香はそれを気にもせずに、ただひたすらに拓海をじっと見つめていた。

「俺か? まあ、同じかな。これからもソロで潜るよ」

 そう答えた。紗耶香の顔が一瞬だけクシャっと歪む。しかしすぐに戻ると、「そうなんだ」と答えた。

 俺は何を話していいかわからなかったので、とりあえず近くにある菓子をつまんでいく。

 確実に先ほどよりも重くなっている空気。みんな下を向いて、話そうともしないため一向に空気は変わらない。

 拓海は意を決して声を出した。

「なぁ、打ち上げだろ? なんでこんなに空気が重いんだ?」

 そう言った瞬間、彼らは一斉に俺のほうを向いてきた。

「なぜって......あなたが心配だからよ!」

 紗耶香は感情を爆発させ、拓海に詰め寄ると胸倉をつかむ。

「あなた、スキルで生き返ってるとはいえ、毎回死んでるのでしょう? 痛くないの? 怖くないの? 苦しくないの? なんで拓海はそれを一人で抱えて何もなかったかのような顔をしてるのよ!」

 泣きながら紗耶香は叫ぶ。拓海の体を必死に揺らす。涙をぬぐおうとしなかった。

 やがて、紗耶香は落ち着きの色を見せ始め、拓海の胸倉から手を離すと、ただ、願いを口にした。

「もう、あなたの傷ついている姿を見たくない。もう、あなたの死んだ姿を見たくない。だから迷宮に潜らないで。何でもしてあげるから、何でも願いをかなえてあげるから。だから―――――



 ―――――ずっと私のそばにいて」


 ここで「今何でもって言った?」という空気読めない発言はそもそもNGだと思考を改める拓海。




 わがままを言う子供の用にウルウルとさせた紗耶香の瞳は、おおきく拓海の心を揺さぶった。

 そして、少しした後、拓海は答えた。


「ごめん」

「わかってはいたのよ、気にしないで」とはいうもののその後紗耶香は、膝から崩れ落ち、泣きじゃくる。

 男どもは「まぁ、わかってはいたが」という顔をいかにも拓海に見せつける。

 会長は腕を組むと、ただ俺の眼を見つめてきた。しかし、数秒して大きなため息をつき、紗耶香を慰めに行った。


「それじゃぁ、俺、帰りますね」

 拓海は、逃げ出すようにして生徒会室から走り去った。

 俺はきっと後悔するだろう。

 いつまでもこの戦い方を続けられるとは到底思えない。

 どこかで俺は、戦いの中で死んでしまうだろう。寿命を全うできず、何か大切なものを残して。

 それでも、それでも。

 俺が迷宮に行けなくなったら、寿命を全うできても後悔しか残らない。
 それなら、ただひたすらに、ひたすらに―――――



 ―――――己を貫き通すだけだ。





 拓海が出ていった後の生徒会室は、なんとも落ち込んだ雰囲気となった。

 徹と司は、拓海がやめることはないと知っていても、二人に説得され、やむなく席を一緒にすることとなっていたため、二人からすれば予想通りの結果というべきだ。想定外だったのは紗耶香の本気度とその誘いすら断る拓海の信念の強さだった。

 紗耶香は絶望していた。

 自身の何もかもをかけても、彼の行動一つ変えられない。

 嘘偽りない言葉が、幾度となく紗耶香の心を癒してきたのに、ここにきて傷つけていく。


「私はね、この結果を知っていた。でも、言えなかった、言ってはならなかった。それを許してほしい」

 姉は、妹になだめるように言葉を紡いだ。

「これをしないといけなかった? 拓海君にはこれからもっとつらい未来が待ち受けているかもしれないのに! 止まらなかった、止められなかった! これ以上に何を優先するべきっていうの!」

 紗耶香は姉にでも容赦なく掴みかかる。

「私と彼が結ばれるためには、これしかなかったのよ」

 その言葉を聞いた瞬間、紗耶香は頭の中が真っ白になった。

 混乱している妹に対して、にやぁっと笑うと「う、そ」と耳元でささやく。

 紗耶香は混乱しているせいで魔眼を発動できなかったのを悔やむも、姉の言い分を聞く。

「それで、どうしてこの茶番を失敗するってわかっててやったの」

「これを経由しない未来を仮定すると、百パーセント、彼の死ぬ結果が見えたからよ」

 これを経由しない、つまり紗耶香が向き合って、紗耶香の本気の言葉をぶつけないと、拓海の死亡の運命は変わらなかった。

 無論、先に伝えることも可能だったが、それを仮にしたとしたら、その時点で未来が変わってしまう。

 もしこのタイミングを逃してしまえば、もう訪れないかもしれない分水嶺だった。

「これ以上の説明は必要かしら?」

「あとでもう一つ、聞かせて」

「いいわよ」

 そういうと、二人はカバンを持ち、そそくさと生徒会室から出ていった。

「なぁ、俺らどうする?」

 連れてこられた二人は、思わぬイベント発生に困惑し、ただ夕日の指す生徒会室の中、散らばったお菓子のごみをただ見つめることしかできなかった。



「それで、もう一つって?」

「拓海君、好きなの?」

「さっきも答えたでしょう」

「どうして明言しないの? 私の前でその発言はやましいことがあるって言ってるようなものだよ」

 二人の姉妹ケンカこそ珍しくないのだが、一人の男の子が議題となったことなどこれが初めてだろう。


「正誤を知ることができるようになったあなたは、そうやって真実に向かって一直線に進んでいくけれど、時にそれが人を傷つける、ううん、その本音こそが人が人を傷つける言葉の刃だってこと、どうして気づかないの?」


 叫ぶ。どうしてこのことがわからないのかと、どうしてこのことをわかってくれないの、と。

 しかしその思いは伝わらずに向こうから言葉が発せられる。

「私は、それでも真実が知りたいの! 嘘を嘘だと分かっていながら飲み込んで、それで過ごす日々が、平和とでもいうの? そんなのただのまやかしよ、ただ表面を固めただけ、そんなものに価値はない! 早く、言ってよ!」

 言葉の応酬が続く。

 先に折れたのは―――――



 ―――――姉だった。

「あなたもわかっているのでしょう! 私が拓海を好きなことくらい!」

 正誤判定に反応しない、嘘偽りのない言葉。でも、どうしてそこまで意固地になって隠し続けたのか?

「どうして? あなたと同じ人を好きになったなんて、言ってどうなるのよ! なに? 二人で争うの!? 拓海を好きだってあなたに言ったって、確定した『今』は変わらないし、変えられないのよ!」

 それを言い残して、姉は自室にこもってしまった。

 夜ご飯も、いつも同じ時間に食べていたのに、今日は時間をずらした。


 姉妹ケンカこそあれども、ここまで長引いたのは初めてだ。



『真実』が視れるが故、『嘘』に過剰に反応してしまう妹と、『未来』が視える故、確定しつづける『今』を生きられない姉。

 スキルに振り回される、二人の恋する姉妹が、今宵も枕を濡らしていた。
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