50 / 68
七章 試練
選択の日は遠く、されど確実に近づいて
しおりを挟む
デート当日。
俺は緊張した結果三十分前に到着してしまった。
少し寒くなってきて、吹き付ける風が痛く感じる。
大人しく椅子に座って待っていることにする。
急に冬って感じがしてきたな......
『今日は迷宮に行かないのか?』
そう問いかけてくるのは魔銃だ。あの後結構探したら、木陰に隠れてるのを発見した。見つけたとき、
『やっと来てくれたのじゃぁぁぁぁあああ!』
恐らく体があれば半べそをかいているレベルで大きな声を出していた。
まぁ、それは置いといて、今日は一応の護身用としてこいつだけ持ってきた。
ホルスターを本当は作りたいのだが、文化祭騒動と後片付けで結構忘れることも多かった。
ちなみに今はズボンと体の間に挟んでいる。結構きつめにズボンを締めたからどこかでなくすことはないはずだ。
モロに風を受けている手を息で温めていると、電車の改札から見覚えのある人が歩いてくる。
紗耶香だ。
いつもは制服か迷宮の時の服装で、私服なんて見たことなかったなぁ......いや、そもそも私服で学校の人と遊びに行くこと自体がはじめてだ。
言ってて悲しくなりながらも、紗耶香のところへと走る。
「ごめん、待った?」
「うーん、そんなに?」
いつもならテンプレ通りの返答である「いや、俺も今来たところだよ」を使うのだろうが、テンプレ通りの返答をするのも俺じゃない感じがしたからか避けた。
「それじゃ、行こっか。」
二人の、デートが始まる。
「まずはどこ行く?」
「どこいこっか?」
「とりあえず、のんびりいこっか。」
その一、女子の「まずはどこ行く?」質問は「ここ行きたいけどいいよね?」という本音の裏返し。
なので俺は彼女の横にいるのだが、行く先は彼女にゆだねている。
というか、隣にいるクソ可愛いこの子が俺の彼女なんて......考えらえれねぇ。今でも夢を見ているんじゃないかと心配になる。
すると、急に紗耶香はこっちを「はっ!」と言いながら見てきた。
ぼーっと眺めていた俺はびっくりしてつい大きな声を上げてしまった。
「ふふ、びっくりした?」
その太陽のような笑顔を見ると、その天使のような声を聞くと、そのたびに心が震えるような感覚に襲われる。
惚れた男の弱み、というやつなのだろうか。
中学の時に置いてきたと思った感情が、ここでくるだなんて。もう中学のあの子に未練はない。ただ紗耶香と一生を添い遂げたい、そんな思いまでこみあげてくる。
と、そこで横断歩道が目の前で点滅し始めた。小さいとはいえ、信号無視はちょっと初デートでするのは......
とか考えているうちに紗耶香は俺の前へと来る。
「ほら、行くわよ」
そう言うと、紗耶香はその左手で俺の右手をつかむと、点滅した横断歩道を走っていく。
もうすぐ赤になる、通り抜けようとした車にクラクションを鳴らされないだろうか。この光景を誰か知り合いに見られてはいないだろうか。
そう考えると、どんどんとドキドキしてきた。
渡り終えたとき、二人は顔を真っ赤にしていた。俺は走ったのが原因ではないが。
「手、握ってごめんね。ほら、行くよ」
しかし、俺はその手をとっさに握り返す。
「今日は、これで行こう」
そう勇気を振り絞って言う。恋人ってこんなにも大変なものなのか、と思ったが、この手を放したくないと思ったこの気持ちは少なくとも俺の本心だろう。
「わかった!」
その横断歩道を渡り切った達成感を出した、素直な彼女の顔を、俺はやっと見ることができた。
やっぱり、女の子は笑顔が一番って、よく言ったもんだ。
「あ、ここ行こ!」
彼女が指さしたのはクラスメイトの間で話題になっているというカフェ。俺は聞いたことないと答えたら、「それは拓海の情報網が限定的すぎるからよ」とド正論を返されてしまった。
中に入って、注文を頼む。
俺はコーヒー、紗耶香はコーヒーとケーキを頼んだようだ。
二人で席に座り、ゆっくりとした時間を過ごす。
時の流れが遅くなったようで、されど実際はとても早く過ぎてしまう、そんな儚いひと時を堪能した。
天ノ川も来ないし、誰かが殺しにも来ない。魔力を使うこともなければ、銃を抜くことすらない。
二人でそんな世界で生きられたら、どんなに楽しいだろうか......
そんな夢物語を考える余裕なんて、高校入ってからなかったな......
そのあとも、二人で一緒にいろんなことをした。
俺は、紗耶香といることがこんなに楽しいと思わなかった。
俺は、紗耶香がこんなに温かいと思わなかった。
その太陽のような温かさに触れて、どうしたらいいのかもうわからなくなった。
「俺は、何をしてお返ししたらいいんだ?」
そう、帰る間際で聞いてみた。
紗耶香の顔が一気に凍る。しかし、それも一瞬のことで、すぐに笑顔に戻ると
「いつか、私の願い、かなえてね」
そういうと、駅の改札まで走っていき、「またねー!」と大きな声で叫んでくる。
きっとその願いは迷宮に潜ることと二つに一つで。
天秤に乗せて勝てるようになって初めて、願いを言うのだろう。
もう俺の中では、どっちも同じくらいに大切だというのに。
もうあの優しさを、手放したくないのに。
しかし無意識に伸ばした右手は宙をきり、無慈悲に冷たい風が指の隙間を抜けていくだけだった。
『主よ、どうするつもりなのじゃ』
魔銃は問う。
「どうって、何がだ」
魔銃は問う。
『もし、天秤に乗せる日が来たら、どうするのじゃ』
「それは、その時考えるよ」
しかしその言葉を理解せよと戒めるように、魔銃はその言葉をかみしめるように紡いだ。
『人の命は、昔ほど重くはないぞ?』
その言葉が胸に、重くのしかかるのだった。
俺は緊張した結果三十分前に到着してしまった。
少し寒くなってきて、吹き付ける風が痛く感じる。
大人しく椅子に座って待っていることにする。
急に冬って感じがしてきたな......
『今日は迷宮に行かないのか?』
そう問いかけてくるのは魔銃だ。あの後結構探したら、木陰に隠れてるのを発見した。見つけたとき、
『やっと来てくれたのじゃぁぁぁぁあああ!』
恐らく体があれば半べそをかいているレベルで大きな声を出していた。
まぁ、それは置いといて、今日は一応の護身用としてこいつだけ持ってきた。
ホルスターを本当は作りたいのだが、文化祭騒動と後片付けで結構忘れることも多かった。
ちなみに今はズボンと体の間に挟んでいる。結構きつめにズボンを締めたからどこかでなくすことはないはずだ。
モロに風を受けている手を息で温めていると、電車の改札から見覚えのある人が歩いてくる。
紗耶香だ。
いつもは制服か迷宮の時の服装で、私服なんて見たことなかったなぁ......いや、そもそも私服で学校の人と遊びに行くこと自体がはじめてだ。
言ってて悲しくなりながらも、紗耶香のところへと走る。
「ごめん、待った?」
「うーん、そんなに?」
いつもならテンプレ通りの返答である「いや、俺も今来たところだよ」を使うのだろうが、テンプレ通りの返答をするのも俺じゃない感じがしたからか避けた。
「それじゃ、行こっか。」
二人の、デートが始まる。
「まずはどこ行く?」
「どこいこっか?」
「とりあえず、のんびりいこっか。」
その一、女子の「まずはどこ行く?」質問は「ここ行きたいけどいいよね?」という本音の裏返し。
なので俺は彼女の横にいるのだが、行く先は彼女にゆだねている。
というか、隣にいるクソ可愛いこの子が俺の彼女なんて......考えらえれねぇ。今でも夢を見ているんじゃないかと心配になる。
すると、急に紗耶香はこっちを「はっ!」と言いながら見てきた。
ぼーっと眺めていた俺はびっくりしてつい大きな声を上げてしまった。
「ふふ、びっくりした?」
その太陽のような笑顔を見ると、その天使のような声を聞くと、そのたびに心が震えるような感覚に襲われる。
惚れた男の弱み、というやつなのだろうか。
中学の時に置いてきたと思った感情が、ここでくるだなんて。もう中学のあの子に未練はない。ただ紗耶香と一生を添い遂げたい、そんな思いまでこみあげてくる。
と、そこで横断歩道が目の前で点滅し始めた。小さいとはいえ、信号無視はちょっと初デートでするのは......
とか考えているうちに紗耶香は俺の前へと来る。
「ほら、行くわよ」
そう言うと、紗耶香はその左手で俺の右手をつかむと、点滅した横断歩道を走っていく。
もうすぐ赤になる、通り抜けようとした車にクラクションを鳴らされないだろうか。この光景を誰か知り合いに見られてはいないだろうか。
そう考えると、どんどんとドキドキしてきた。
渡り終えたとき、二人は顔を真っ赤にしていた。俺は走ったのが原因ではないが。
「手、握ってごめんね。ほら、行くよ」
しかし、俺はその手をとっさに握り返す。
「今日は、これで行こう」
そう勇気を振り絞って言う。恋人ってこんなにも大変なものなのか、と思ったが、この手を放したくないと思ったこの気持ちは少なくとも俺の本心だろう。
「わかった!」
その横断歩道を渡り切った達成感を出した、素直な彼女の顔を、俺はやっと見ることができた。
やっぱり、女の子は笑顔が一番って、よく言ったもんだ。
「あ、ここ行こ!」
彼女が指さしたのはクラスメイトの間で話題になっているというカフェ。俺は聞いたことないと答えたら、「それは拓海の情報網が限定的すぎるからよ」とド正論を返されてしまった。
中に入って、注文を頼む。
俺はコーヒー、紗耶香はコーヒーとケーキを頼んだようだ。
二人で席に座り、ゆっくりとした時間を過ごす。
時の流れが遅くなったようで、されど実際はとても早く過ぎてしまう、そんな儚いひと時を堪能した。
天ノ川も来ないし、誰かが殺しにも来ない。魔力を使うこともなければ、銃を抜くことすらない。
二人でそんな世界で生きられたら、どんなに楽しいだろうか......
そんな夢物語を考える余裕なんて、高校入ってからなかったな......
そのあとも、二人で一緒にいろんなことをした。
俺は、紗耶香といることがこんなに楽しいと思わなかった。
俺は、紗耶香がこんなに温かいと思わなかった。
その太陽のような温かさに触れて、どうしたらいいのかもうわからなくなった。
「俺は、何をしてお返ししたらいいんだ?」
そう、帰る間際で聞いてみた。
紗耶香の顔が一気に凍る。しかし、それも一瞬のことで、すぐに笑顔に戻ると
「いつか、私の願い、かなえてね」
そういうと、駅の改札まで走っていき、「またねー!」と大きな声で叫んでくる。
きっとその願いは迷宮に潜ることと二つに一つで。
天秤に乗せて勝てるようになって初めて、願いを言うのだろう。
もう俺の中では、どっちも同じくらいに大切だというのに。
もうあの優しさを、手放したくないのに。
しかし無意識に伸ばした右手は宙をきり、無慈悲に冷たい風が指の隙間を抜けていくだけだった。
『主よ、どうするつもりなのじゃ』
魔銃は問う。
「どうって、何がだ」
魔銃は問う。
『もし、天秤に乗せる日が来たら、どうするのじゃ』
「それは、その時考えるよ」
しかしその言葉を理解せよと戒めるように、魔銃はその言葉をかみしめるように紡いだ。
『人の命は、昔ほど重くはないぞ?』
その言葉が胸に、重くのしかかるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる