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旅行の前日

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「楠家と大谷家の合同で、家族旅行なのです!」

「「はい!?」」

 高校三年の夏。
 大学受験など進路について真剣に考えないといけない時期のお盆の日。
 俺、大谷おおたに  真人まさととその義妹いもうと静香しずかは、大谷家に遊びに来た俺の恋人のくすのき  柚希ゆずきちゃんからの発言に驚いていた所だ。
 とりあえず、柚希ちゃんが言うには大谷家と楠家との合同で、家族旅行をするという事なのだが?

「ああ、いきなり言われても訳が分からんだろうな。  俺も分からなかったし。  実はこの家族旅行を提案したのって、親父とお袋なんだわ」

「おじさんとおばさんが?」

「はいなのです」

 柚希ちゃんの隣に座る彼女の兄で、俺の親友のくすのき  和人かずとが補足してくれた。
 どうやら、柚希ちゃんの突然の案ではなく、おじさん……つまりは和人と柚希ちゃんの両親による発案なんだそうだ。
 しかし、なんでこんな時期に家族旅行なんて提案したんだ?

「親父が言うには、大学受験や高校受験に掛かりきりだから、息抜きも必要だと言ってたな。  柚希はともかく俺が大学受験で必死なのを見て、危なっかしく見られたんだろうなぁ」

「お前のせいかよ……」

「まぁまぁ。  それで、うちらの両親にも話を?」

「既にしているのです。  もちろんOKの返事を貰ったとの事なのです」

 つまりは和人が大学受験に向けて一生懸命になりすぎているから、おじさん達が息抜きに家族旅行を提案したわけか。
 俺達大谷家を巻き込んで。
 しかも俺達の両親にも話をしており、OKを貰ったらしい。

「受験と言えば、柚希ちゃんは大丈夫なのか?」

「問題ないのです。 進学する高校は現在真人お兄ちゃんや兄様が通う高校なのです」

「私も同様だね。 あと、護衛のとどろき姉妹もだよ」

「ああ、確か中学じゃ二人の成績はかなり優秀なんだよなぁ」

 和人の受験対策が原因だと言われたが、ふと柚希ちゃんの高校受験はどうなのかと聞いたが、柚希ちゃんや静香は大丈夫らしい。
 それを聞いて、二人の成績は優秀だったと思い出した。

「ともかく俺の両親も了承してるなら仕方がないか。 行き先と時期はいつなんだ?」

「出発は明日でまずは宿泊地の米子に向かうらしい。 米子で散策の後で鳥取に向かい、米子に戻るんだとか。 ちなみに二泊三日で、さっきのは初日のスケジュールな」

「明日って……!? 早すぎるだろ!!」

「しかも思いっきり強行軍ですね……」

「父様の突拍子なスケジュール組みはいつもの事なのです。 明日の朝には車で新幹線の最寄り駅に向かうのです」

「常に車は使えないのか」

「高速道路が渋滞しているからな。 トイレの不安は払拭しておきたい」

 おじさんの突拍子なスケジュールでまさか明日に出発だとは夢にも思わなかったが、この時期は帰省で車も渋滞しているし、電車も混んでるから上手く指定席は取れたんだろう。
 電車で向かうのは少なからず渋滞によるトイレの不安を払拭したいのだろう。
 まずは米子に向かい、そこで散策してから鳥取に行き、その後は米子に戻る算段だそうだ。

「荷物はどうするんだ?」

「着替えや生活用品、財布やスマホなどの必需品で構わないそうです。 食べ物は父様と母様が用意してくれるのです」

「分かった。 明日には準備して待ってるよ。 この家で待ち合わせなのだろ?」

「ああ、出発も朝だし、早く寝た方がいいかもな」

「そうですね」

「それじゃあ、明日また来るのです。 真人お兄ちゃんと一緒の旅行は楽しみなのです♪」

「俺も静香ちゃんとの旅行は楽しみだしな」

 一通り、旅行に関する話をした後で、柚希ちゃんは俺に抱き着きながら俺との旅行は楽しみだと言った。
 この笑顔と温もりは癒されるよなぁ。
 そして、黒塗りの高級車が家の前に来たので、柚希ちゃんと和人はそれに乗って、家に帰って行った。

(しかし、明日か。 急だけど、楽しみではあるなぁ。 柚希ちゃんと一緒の旅行だし)

 強行軍のスケジュールに戸惑いはしたが、柚希ちゃんとの旅行でもあるので、楽しみにしながら俺は自室で明日に備えて眠りについた……。

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